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願えば初恋  作者: y-r
嘘つきはどっち?

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「多様性って便利な言葉だな。」


遠藤ちゃんの発言の余韻が抜けないまま、私は持ち場へと戻っていて。


「ま、私には関係ないか。それより…。」


人間は単純な生き物で、欲を満たしさえすれば、"苛立ちや不満"なんて大抵の事はどーでもよくなる。


それは私にも如実に現れ、すっかりお腹を満たした私は、どうにか売上を上げようと奮起中だ。


ただ、時刻はもう20時20分。

タイムリミットまで、閉店作業を差し引いて後30分といった所か。



水曜日のど平日のこんな時間に、高額の買い物をするお客様なんて滅多にいない。


万が一、説明だけ聞いて今日は買わないとか言われた日にゃ、この時間もうアウト。


目を皿にして、くまなく売り場を見渡す私の姿はまるで獲物を狙うハンターだ。


あの食洗機を見ているおじさん。


ダメだ!あれは絶対見てるだけだ!

おじさんは奥さんの意見なしで、普段奥さんに任せっきりの食洗機なんか買わないっ。


はい、次!


あのカップルはどうだっ。


男性の方が商品カタログをいっぱい持ってるっ。

新婚さんか?!

めっちゃ羨ましい!


大口っぽいから接客つきたいけど、あれいっちゃうと今時点の売上が見込めない。


やっぱ、ダメだ!

はい、次!


行動にも移さず、勝手にお客様をバッサバッサと切り裁く。


「おっ♪」


目標を発見、安全牌をロックオン。


私は、トースターの展示下にある在庫置き場をキョロキョロ見ている年配の女性のお客様に声をかけた。


「お客様。在庫をお探しですか?」


「あ、ちょうど良かった~!この商品にしようと思ってるんだけどね~。」


「こちらですね…。」


私もお客様同様、棚下の在庫置き場を探してみるが在庫がどうにも見当たらない。


肩に掛けているタブレットを使い、在庫を確認すると1個だけ新品の在庫品がありそうだ。


「倉庫を確認して参りますので、少々お待ちください。」


その場を離れ、私は足早に持ち帰り商品を詰め込んでいる倉庫へ向かった。


「もー!鍵!」


6年目にしても、急いでいる時に忘れがちな鍵の存在。


慌てて事務所まで引き返し、鍵を確保して私は倉庫へと入っていく。


オープン当初は持ち帰り専用の倉庫にも倉庫番がいたりして整理整頓されていたが、構ってあげる人がいない今、毎日入荷する商品がかろうじてカテゴリー別に置かれている状態で。


「この前まで沢山あったんだけどなー。おっかしーなー??あ、あったあった!、、、あれ?違うか。」


目的の在庫を探すのにも一苦労。


「げっ!あんな高い所に上がってる!何でよー!」


ようやく見つけたトースターは、棚の上の上の上。


出来た後輩平岡くんがいる時は、「大丈夫っすかー?」なんてやってきて、ひょひょいと脚立に登り、高い所にある在庫は取ってくれていた。


だが残念、今日は平岡くんは公休日。

彼女と映画を見に行くって言ってたっけ。


「熊野フロア長を呼ぼっかな~。でも、エンタメコーナーはこの時間1人だしなー。」


今の時期は学校や保育園の行事が多くあるらしく、子育て中の社員の希望休も多い時期。


今日は特に授業参観やらで希望休が多く、閉店時間に近くなったこの時間、最小人数の売り場配置になっている。


だんだん人が少なくなってきた中、以前は男性社員がやっていた力仕事なんかも今では普通に女性社員にも回ってくる今日この頃。


「仕方ないか。」 


肩にかけているタブレットを置き、気が散らないようにトランシーバーのイヤホンを耳から外して準備万端。


近くに立てかけてあった脚立を使い一歩一歩登っていき、一番上にある在庫に手を伸ばす。 


「もーーちょっとーーー!」


指先に微かに当たるトースターの箱の底を指で巧みに手繰り寄せ、ガシッ!と両手で掴み小脇に抱える。


万が一落として箱を傷つけてしまったら、代えがきかないラス1の在庫だ。



「結構、怖っ!」


ふと下を見てしまえば結構な高さで、不安定な足場を1歩づつ足を下ろす。


私の足が恐怖で震えているのか、カタカタと音を鳴らす脚立に余計恐怖心は募る。


1歩づつ。


1歩づつ。


慎重に~。


「危なっ!」


その声に視線を移すと、倉庫の入り口でもの凄い形相でこちらを見ている砂東フロア長の姿があり。


「バカ!何やってんだよ!」


「文句はいーから受け取ってよ!」


私の元へと小走りで駆け寄ってきて、商品に手を伸ばしてくれたはいいが、ついでにお小言も一つ二つ。


「落ちたらどーすんだよ!こーゆー時は誰でもいいから男性社員を呼べっつの!怪我してからじゃ遅いんだぞ!」


それが上司命令なら普段は反省するのだが、つい2日前に現れた同級生を"上司"と私はまだまだ認めたくないのが本音。


「取れたんだからいーじゃん!いちいちこんな事で人に頼ってたら仕事になんないでしょ!」


トースターを砂東フロア長に渡し、私は脚立を降りようとする。


地面まで後、5段。

砂東フロア長の説教を背中で聞く。


「それに高所に登る時はヘルメット着用って決まりがあるだろ!」


「そんなの誰がいちいち被んのよ!それに言うほど高くなっ……!!」



「キャッ?!」


「甘味っ!!!」


さっき耳から外したトランシーバーのイヤホンのコードが脚立に挟まり、私はバランスを崩してそのまま背中から後ろへと倒れ込んだ。


「大丈夫か?!」


「びっくりしたー!!ありがとっ。」


尻餅ぐらい覚悟したけど、思いがけず私はトースターと一緒に砂東フロア長の腕の中にすっぽり収まっている。


咄嗟に私の事を守ってくれたのであろう、今も私の身体にきつく巻き付いている腕と、腰上にまで回された手の平には力が入っていて。


「だから言っただろ?今度から絶対誰か呼べよ。もし、頼みづらいなら俺を直接呼んでいいから。」


絶対怒鳴られると思ったのに、その思いに反して力強く抱きしめられたまま優しく諭され、慌てて砂東フロア長から離れて持ってもらっていたトースターを奪う。


「はい、はい!部下に怪我されちゃ労災申請がめんどくさいですもんね!すいませんでした!お客様待たせてんだからもう行くわよ!」


「待っ!」


まだ何か言いたげな砂東フロア長を倉庫に残し、私は待たせているお客様の元へと急いだ。

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