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願えば初恋  作者: y-r
嘘つきはどっち?

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そんな若林ちゃんとの束の間の楽しい時間なんて一瞬で終わり、その後もすっかり砂東フロア長の接客の後処理に巻き込まれ、気付けばとっくに18時だ。


あの後の引き継ぎでも「文句は後で聞くから…。」なんて言っときながら、そんな暇さえ与えてくれず、次から次へと砂東フロア長の指示が飛んできて。 


手にはいまだに減らない何件もの伝票で、私は一人パンク状態。




「あー、もう!これも倉庫に持っていかなきゃ明日の出庫便に間に合わないよー!」


同級生でも、今はアイツの方が立場は上。


心配させないように若林ちゃんには突き返す!なんて強気な事を言ったが、上司からの指示が出れば従うしかないのがしがない平社員の性だろう。


だけど、自分の仕事が出来ない苛立ちと、遅番とはいえ未だにご飯休憩にすら入れていない状況に私の空腹レベルはMAXで。


「まったく!どれだけ売るのよっ!自分で処理出来るくらいにしといてよねっ!」


重い荷物が乗っている台車を押しながら、ブツブツと不満をもらす私の目線の先には愛しの休憩室。


「もー、疲れた!流石にちょっと休もっ!」


台車をいったん壁に寄せ、渇いた喉を潤す為休憩室へ私は足を向けた。





  ➖➖➖➖ガチャ!!➖➖➖➖



誰もいないだろうとたかを括り、勢いよく休憩室の扉を開けた瞬間、激しく後悔そして沸々と込み上げてくる怒り。


こんな時間に休憩室で1人で御飯を食べていた男性。それは、お弁当を広げた砂東フロア長だ。


「静かに開けろよ。扉が壊れるだろ。お前はただでさえバカ力なのに。」


久しぶりに会ったアンタが私の何を知っていると言うんだ?!


知ったふうな口を聞く砂東フロア長にズカズカと詰め寄り。


「はぁ?!失礼ね!てゆーか、何で自分だけちゃっかりご飯食べてるんですか?!」


「飯くらい食うだろ?朝から何も食ってねんだぞ。」


「いや、いやっ。食うなとは言ってないんですよ!ただ、私より先に食べてるのが問題なんです!私は砂東フロア長の仕事の後処理で、まだご飯に行けてないんですけど?!」


「バカだな。それは、お前の要領が悪いだけだろ。隙見て食わねぇと倒れるぞ。」


砂東フロア長は、正論とMY箸を私に振りかざす。



「なっ!」


砂東フロア長の方が正論だとは分かっているが、何も言わず引き下がる私ではない。


だがしかし、お腹が空きすぎて今は反論すら出来ない。


ここは一時、休戦だ。


「フンッ!まぁいいわよ!」


自販機まで向かい携帯電話をかざし、いつも買っているパックのいちごミルクを買う。


「まだそれかよ。変わんねーな。」


そう言い鼻で笑う砂東フロア長。


「疲れた時の糖分補給はこれが1番早いのよ。」


自販機の前でパックに付いているストローを取り出し、そのままプスッと穴に突き刺しいちごミルクを口に含む。


「あの頃は言う程動いてねーだろ。自分の机でダラダラしてた癖に。」


「うるさいわね。人のする事にごちゃごちゃ口を挟まないでよね!」


「分かったよ!てか、そんなん飲む暇があるんなら早く飯食えよ。」


「明日出す荷物を倉庫に持ってったらすぐにご飯にします!」


こっちだって順序立てて仕事をしているんだ!と文句を言えば、砂東フロア長も黙って私の話を聞きいれるタイプでない事は知っている。


「腹が減ったら簡単に済む仕事も出来なくなるだろ。」


「もー、しつこいって。ちょっとここ座るわよ。」



砂東フロア長の前の席に座り、もう一口いちごミルクを口に含み。


私がわざわざ砂東フロア長の前に座った理由。


それは、砂東フロア長の目の前にある手作り弁当に興味を持ったから。


「ふーん。」


コイツにも、こんな美味しそうな弁当を作ってくれる彼女がいるんだ。


そう思うと何だか笑えてくる。


あの砂東くんに女の影。


でもまぁ、この容姿でモテないわけないよな。


売り場にいても一際目立つ砂東フロア長は、女性従業員だけでなく女性客にも注目の的だった。


面白い!

これは彩花に報告せねば!


またまた情報共有と、私は一人ほくそ笑む。


「人の弁当見て何二ヤついてんだよ。」


「いや、それ。…彼女の手作りなんでしょ?砂東フロア長も隅に置けないですね〜。」


ここぞとばかりに茶化す私に「違う。」と一言、砂東フロア長は冷ややかな視線を私に向ける。


「また、またー。隠さなくてもいいっですって。その顔だけが唯一の取り柄なのにモテなくてどーするんですか。宝の持ち腐れですよ?私が砂東フロア長ならフル活用ですよ。あっ!まさかっ!皆にバレるとチヤホヤされなくなるから隠しとくんだ!相変わらず嫌な奴ー!」


遠慮なしに好き勝手に言い放ち、手に持っているいちごミルクを飲み干そうとした瞬間、ズボンのポケットに入れている携帯電話のバイブレーションに気付き。


携帯電話の画面を確認すると、勇里からの着信だ。



「何だろ?」


椅子から立ち上がり、砂東フロア長から離れた場所で電話をとる。


自分で言うのもなんだけど、私は兄からかなり溺愛されている。


実際、私の転勤に1番反対したのも兄の勇里だった。


それでも、この地に転勤を決めてからは私以上に私が住む所を熱心に探してくれたのも実は勇里だ。


30間近になろうとしている今でも、両親よりも勇里からの連絡の方が頻繁に来ていて。もし私が結婚するなんて言った日にゃどうなるんだろう。


中々帰って来ない遠くにいる妹を心配してくれているんだろうけど、そろそろ妹離れして欲しいと思う今日この頃だ。



「はい、はーい。何ぃ?」


「いま仕事中?」


つい1ヶ月前にも聞いた勇里の声に感動なんて微塵もない。


「そうだけど。何か用事?」


「かしこまった話し方してどーしたん?今、話しずらいと?」


「うん…。まぁ、ちょっとね。」


同郷とは言え、久しく会ってなかった砂東フロア長を前にして、訛りで話すのは何だか気恥ずかしく。


「そっか、じゃあ仕事が終わってからでいいけん連絡ちょうだい。」


「でも、それだったら22時過ぎちゃうかもよ?それでもいいの?」


「うん。それでいいけん。」


「あー、でもなぁー。やっぱ勇里からしてくんない?忙しくて忘れちゃいそうなんだけど。」


「そうやね〜。杏の事やけん忘れるやろうね〜。じゃあ、それぐらいの時間にこっちから連絡入れるけん。」


「うん。よろしく。また後でね〜。」


たわいのない兄妹の会話は1分ほどで終了し、私は砂東フロア長の所に置きっぱなしにしている飲みかけのいちごミルクを飲もうともう一度椅子に腰をかける。



「あのさ…。」と、ポツリと言った砂東フロア長に「何?」と私は答え。


その後の、30秒ほどの静寂に私は戸惑う。


ちゃんと返事を返してあげたのに、中々話し出さない砂東フロア長に、もう一度問いかける。


「だからなぁに?何か言いたいことがあるんでしょ?」


「……今の電話ってさ。…そのっ、彼氏からか?」


「え?…違うけど。」


勇里の声は聞こえてなかっただろうから私達がしていた会話の内容は分かりようがないのだろうけど、その質問の意図が読めず、下を向いてお弁当のおかずを口に運ぶでもなくただ箸でつついているだけの砂東フロア長を私はジーと見つめる。


「じゃあさ、その、…お前さ、今、付き合ってるヤツとかいんの?」


「いや、そんな人はいない。」


「そっか。」


そう一言発した砂東フロアの表情はまだ俯いたままだけど、その口元は心なしか喜んでいるように見えて。


「この歳まで独り身なんて可哀想〜って心の中で嘲笑ってんの?そう思ってんなら残念ね。私、結婚したんだよ。」


「え。」


人の表情ってこんなに一気に変わるんだ。


さっきまでの表情とはうって変わって、真っ直ぐ私を見る砂東フロア長のその表情は、信じられないとでもいいたげな程驚いていて。


こんなにまともに砂東フロア長の目を見たのは初めてかもしれない。


瞬きすら忘れたその目に吸い込まれてしまいそうで、私は視線を逸せず、2人だけの休憩室は静まり返り。


「でも、……名前は?」


砂東フロア長の問いに我に返り、慌てて平静を取り繕う。


「あー、仕事中はね。夫婦別姓にしてんのよ。何かと面倒くさいでしょ?指輪も傷つけたくないから仕事中は外してんの。」


左手の甲をわざわざ砂東フロア長に見せて。

そして、私の口先は息を吐くように嘘をつく。


それらしい嘘に砂東フロア長もすっかり信じている様子だ。


「そうだよな。…で、いつ結婚したんだ?」


「ん?去年かな〜。相手はロシア人。日本人の男性と違って情熱的ですっごく紳士なんだよ。」


「だから、ユーリなのか。」と、砂東フロア長は目線を下に落とし、そう1人呟く。


さっきの私と勇里の会話が聞こえていたであろう砂東フロア長のまさかすぎる勘違い。


「健一くんに聞いてなかったの?」


「あぁ、最近は忙しくて連絡取ってなかったし。そっか。…ロシア人か…。優しんだろうな。ロシアでユーリ。そんなアニメがあったよな。」


うんうん。

確かにあったよね。

私も見たよ。


私は偶然の産物に必死で笑いを堪える。


「子供も産まれたしね。」


私は机に頬杖をつき、更なる追い打ちをかける。

これには、お弁当を食べていた箸すらそっと置いて、目の前にいる砂東フロア長はすっかり放心状態気味だ。


「子供……、それなのにフル勤務とか大変だな。若林さんみたいに時短にしねーの?」


「それも考えたけど、1ヶ月前に念願の一軒家を建てたばっかだし私も頑張んなきゃ。子供はリモートワークの旦那が面倒みてくれてるの。」


「そっか。」


「スコティッシュフォールドっていう種類の猫ちゃんも飼い始めたの。すっごくかわいいのよ。」


そうだったらいいな、を口にする。

実際は独身者がペットを飼い出したら終わりだと言う呪縛を恐れて、夜な夜な可愛い動物の動画を見ながら眠りについているのが現状だ。


「旦那さん。仕事、何してんの?」


「エンジニアだよ。」


「エ、エンジニアか…。…すごいな。えーと、挙式は向こうで挙げたのか?健一達にはもう会わせたのか?お前の両親は心配してなかったのか?」


コイツ、どんだけ質問してくるのよ?!


そりゃあ、私から始めた悪戯だけど、赤の他人の結婚事情を根掘り葉掘りと詮索する砂東フロア長に押され気味の私は戸惑いつつも、面倒くさくなってきたこの茶番を終わらせようと話を畳み掛ける。


「今時さ、外国人との結婚なんて珍しくも何ともないでしょ?何の心配もしてないわよっ。」


「そっか。そうだよな。あのっ、」


「まだ何か聞きたいことがあんの?!」


砂東フロア長のあまりに真剣な表情と、嘘の上乗せに段々と罪悪感も感じてきちゃったりなんかして。


「…甘味。……今、幸せなんだな。」


「うん、そだね。鼻が高い20人のかわいいハーフの子供達に囲まれて毎日幸せだよ。」


「………………あのさ?………お前がニヤニヤしてたから薄々気づいてはいたんだけどさ?この話しはどっからが嘘なんだ?」


「全部。」と正直に話せば、砂東フロア長は眉間に皺を思いっきり寄せ、その表情はまるでイケメンの般若の様だ。


「彼氏は?」


「だぁかぁらぁ!いないって言ってんじゃん。」


また戻ってきたこの質問に、私はキレ気味に答えを返す。


「じゃあさ?!さっきのユーリからの電話は何だったんだよ?!」


「人ん家の兄を呼び捨てしないでくれる?アンタが勝手に勘違いしたみたいだけど、"ユーリ"じゃなくて勇ましいに里で"勇里(ゆうり)"だから。どう?私に彼氏がいなくて大満足?」


「うん。…って、お前な!!ついていい嘘とそうじゃない嘘があるだろ!!ガキじゃねんだから分かりづらい嘘つくなよな!!」


嘘をついたのは悪いけど、そんな本気で怒らなくても。


反省はするが、もちろんしっかり反論もある。


「あのさぁ?フロア長になりたてで浮かれてんのは分かるけど、彼氏はいるのか?とか部下のプライベートにまで踏み込まないでよ。一応昔の顔馴染みだから忠告しとくけど、今時そんな上司嫌われるよ?」


「はぁ?!みんなに聞いてる訳ねーだろ?!お前だから聞いたんだろ!」


「あーーー。私より上にたつ優越感に浸りたいのね。性格悪。」


「違うっ。いや、違わねぇな。確かに俺のが立場は上だし?分かってんなら素直に従えよ。」


フンと鼻で笑う砂東フロア長。

この憎き態度、昔っから何一つ変わってない。


「自分の彼氏がこんな高圧的だと思うと、アンタの彼女が可哀想だわ!」


「は?!そもそもお前のくだらねー嘘が原因だろ!」


「そのくだらねー嘘を先についたのはアンタでしょ?!不器用なアンタがそんな栄養満点なお弁当を作れる訳ないじゃん!せっかく彼女が愛情込めて作ってくれてんだから一粒残さず綺麗に食べなさいよね!そして、弁当箱は感謝の気持ちを込めて綺麗に洗って返しなさいよねバーカ!!」


「だから!バカは余計だろ!」


まぁ確かに人様の彼氏を捕まえて、そこまで言ったら彼女さんに!悪いかとここは素直に反省し。


「ま。今度、ぜひ紹介してくださいよ。じゃ!私はもう行きますね。」


「相変わらずだな。あのさ、だから違っ、、」


私の耳に入ってきたのは砂東フロア長の声より、遠藤ちゃんの砂東フロア長を呼ぶ甘ったるい声だ。


「トランシーバーでまた呼ばれてますよ。モテる男は辛いですね〜。あ、そうだ!中村様ってお客様の商品の入庫先の倉庫間違えてましたよ。明後日配達なんだから、早めに伝票訂正しといてください。仕方ないから配達先の倉庫には電話しといてあげますね〜。」


そう言い残し、すっかり喉を潤した私は、手に持っているパックをグチャッと潰してゴミ箱に投げ捨て休憩室を後にした。

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