表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願えば初恋  作者: y-r
私とアイツ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/44

14

次の日になり、遅番の私は今日も歩いて通勤中。


昨日はあんなに晴れていたのに、昼間でも暗くどんよりした灰色の雲に覆われた空は、まるで私の心情をあらわしているようで。


「はぁ〜、めんどくさいな〜。アイツとの関係は絶対バレないようにしなきゃ。」


それ程までに、砂東フロア長が現れた後の女性従業員達の賑わい方は尋常ではなく。


店まで歩く足取りも今日は重い。


「いっその事、バラしてみるか?」


先手必勝で先にみんなに同級生だと伝えていた方が、後々バレて何か言われるよりも自分へのダメージは少ないんではないか?


「いやぁ〜。」


タイミング的にはもう今更な気もする。


歩きながら、1人でブツブツ。


「はぁ〜、やめよ。」


この考える時間すら面倒くさい。


「やっと着いた。」


だだっ広いお客様駐車場を突っ切り、従業員専用の扉から一階の倉庫の前にあるエレベーターを使い2階へと上がると、まずはそのまま女子更衣室へと直行する。


6年間使っている自分専用のロッカーを開けると、肩に掛けていた大きめのトートバックを先に入れ。


今まで着ていた通勤用にしているパーカーを脱ぎハンガーにかけて、もう一個のハンガーにかかっている制服のベストを手に取り袖を通す。


そして家から履いてきた黒のスキニーパンツの後ろ左ポケットにトランシーバーを付けて、左耳にイヤホンを取り付けて、パーカーの下に着込んできた長袖の白いワイシャツの襟を正せば服装チェックはハイ出来上がり。


「一本1200円もしたけど買って正解だったな。」


左の胸ポケットには、つい最近購入したばかりの軽くて書きやすさ抜群のボールペンを2本。


こういう小物でも仕事へのテンションを上げていく。


ついでにカッターナイフも入っているかチェックして。


紺色のベストの右ポケットに手を突っ込み手探りでシャチハタを確認、左ポケットに入れている名刺入れを出し名刺に余裕があるか確認して、更衣室にある姿見で全身を最終確認してやっと事務所へ…行こうかと思ったけれど。


「あっぶな。携帯携帯!」


何かをすると何かを忘れるおっちょこちょいな私。


閉めたロッカーをまた開き、置いていたバックの中から携帯電話を取り出し、スキニーパンツの後ろの右ポケットに捩じ込んで、私は事務所へと向かっていく。


いつも昼番で事務所に入っていくと、岸川店長以外のみんなは売り場に出払っていて、無駄に広く縦長い事務所にはだいたいは誰もいない。


事務所のドアを開くと、まず最初に目に入るのが店長のデスクと経理のデスク、その後ろには各フロア長にもデスクがそれぞれ用意されている。


前にいたフロア長が辞めて以降、熊野フロア長の隣のデスクは誰も使用していない状態が続いていたが、今日はそのデスクの上には荷物が置いてあり、それは砂東フロア長の荷物なんだろう。


沢山の帳票類を収納している棚をうまく仕切りに使った向こう側には、フロア長以下の従業員が座れるようにと長机と椅子が用意してあったり、私達が使う業務用のタブレットの充電が出来るスペースが確保されていたりする。


更にその奥に行くと、たまーーーに隣店するこの会社の社長やお偉いさん方やメーカーの方々を応対できるようにと応接間にあるようなテーブルと横長いソファまで用意してあって。


一見すると洗練された事務所に見えるのだけど、新店から6年経った今は色んな物が色んな所に置かれて、定期的に掃除をしているとはいえ決して綺麗な事務所とはいいがたい。


「店長は…売り場かな?」


仕事が増える要因の第一関門を無事回避して、ホッと胸を撫で下ろす。


以前は昼番が出勤してくる辺りから岸川店長は事務所に入って経理から提出された帳票などのチェックをしているのだが、最近は店長自身の売上も本社から指摘されているようで、事務所にいる時間は以前より少なくなった。


私は店長デスクを通り過ぎ、その奥にある、各々に割り当てられた自分の名前が書いてある引き出しの中をチェックしに行く。


「あ、居たんだ!お疲れ〜。」


「お疲れ様ですぅ。」


帳票の棚が目隠しになり私から見えていなかっただけで、事務所の奥には引き出しを確認中の遠藤ちゃんがいたようだ。


「遠藤ちゃんも昼番だったんだね。今日は売れてんのかな〜。忙しかったら嫌だね〜。」


「先輩!呑気に仕事の話してる場合じゃないんですよぉ!昨日は本当に凄かったんですからぁ!」


「えっ??何?何かあったの?まさかクレーム?」


遠藤ちゃんの力の入った目力に、内心自分宛のクレームじゃないかと戦々恐々。


「いやいや先輩!何とぼけた事言ってるんですかぁ?!今、うちの店の話題と言えば、砂東フロア長じゃないですか~!皆、砂東フロア長の話で持ちきりなんですよ?!」


「あー、そっちの話ね。」と、クレームじゃなかった事に一安心。だけど、遠藤ちゃんは私の反応に異論を唱える。


「何でなんですかぁ〜?!そんな事じゃ先輩だけ話題に乗り遅れちゃいますよぉ?!はぁ〜。今日も絶対かっこいいんだろうな〜。」


すっかり恋する乙女の遠藤ちゃんからは、甘ったるい吐息が漏れている。


でももし、それが世間の共通認識なんだとしても、私には全く関係ない事。


それ程までに砂東フロア長という存在に興味が湧かない。


「そうだといいね〜。」


自分の引き出しを確認すると、置きっぱなしにしているボールペンと予備の名刺以外は特に何も入っておらず。


「えっ?!どうしちゃったんですかぁ?!イケメンハンターの名が泣きますよっ!」


知らない間に不名誉な地位に祀りあげられてた驚愕の事実に、思わず私は吹き出す。


「ちょっと遠藤ちゃん!勝手に変な肩書き付けないでよっ。」


「えー!先輩、イケメン大好物じゃないですか!前の美容師の彼氏さんもイケメンだったしぃ。あ、そう言えば!私、この前たまたまその彼氏さんを見かけたんですよ!どうやら結婚したみたいで、赤ちゃんを抱いた女性の人と幸せそうに歩いてましたよ?」


後輩にぶち込まれたいらない情報に、苦笑いしかできない私は正論で返すしかなく。


「そ、そうなんだ。とりあえず今は、売り場に出よっか。」


「そうですね!早く砂東フロア長に会いに行こぉと~♪今日は何聞いちゃおっかなぁ〜。」


まるで推しにでも会いに行く様に事務所を後にした遠藤ちゃんに、私はため息しか出ない。


これからのことを想像すると、砂東フロア長に関わると、やっぱりめんどくさい!という事だけは容易にわかる。


行き先不安なこれからを思うと、やっぱりため息しか出ないのは仕方がなく。


「ま、顔を合わせなければいい話だし!どうにかなるか!」


私の良い所は、切り替えが早い所だと小学1年生の時にお母さんが教えてくれたっけな。


悪い所は、短気で気が強くてそそっかしくて、人の話を最後まで聞かない、めんどくさがりの怠け者のうんぬんかんぬん、、、


お母さん…。

酷い。


今思うと、1年生のかわいい盛りの我が子に対して、なんつー事言ってんの。


でも、その頃から今ままでも、何一つ変わらない性格の私も大概だけど。


休みに入る前に事務所で充電していた業務用のタブレット端末を肩に掛け、私も事務所を出ようと扉のノブに手をかけようとした瞬間。



「お、甘味。おつかれ。」


「おつかれ様っす!」


どうやら今"旬"らしい砂東フロア長とついでの平岡くんの、私に向けられる満面の笑顔には何の罪もないのだが。

 

「……。」


「甘味?どうした?おつかれって。」

 

うらやましい。

顔が良いと、どんな服でも着こなせるのね。


毎日見慣れた制服でも、中身が違うとこんなにも違って見えるのか。


スーツ姿同様、しわ一つない白いワイシャツの上に、これまた汚れ一つない紺色のベストをビシッと着こなす砂東フロア長の姿は、制服好き女子には堪らないだろう。


それに比べて…。


見比べられている平岡くんは、訝しげな表情だ。


「…ま、いんじゃない。」


「何が?」 「何がっすか?」


2人の真っ当な返答。

そりゃそうだ。

私はまだ挨拶すら返していない。


「…何でもない。お疲れ様です。それじゃ。」


「待てって。ちょうどいいから、今ここで朝礼内容を伝えとくから。」


「それなら熊野フロア長に確認しますので結構です。じゃ。」


今度こそ事務所から出ようと、開け放たれている扉から出ようとした私に伝えられた事実。


「熊野フロア長ならエンタメコーナーのフロア長になったって店長から言われたじゃないっすか。」


「え。」


「あー!甘味さん、昨日休みでしたね!熊野フロア長の代わりに、昨日から砂東フロア長が白物コーナーのフロア長になったんすよ。」


寝耳に水とはこの事だ。

耳を疑う衝撃に、眉間に皺を寄せ平岡くんを問い詰める。


「なんで??え?意味わからん!白物コーナーは熊野フロア長のままでいいやん!さっちが交代する必要あった?!」


「え、さっち?さっち、が?いやー、俺に言われても…。岸川店長の判断なんで…。」


"同級生の砂東くん"が目の前にいるせいか。はたまた、昨日、久しぶりに彩花と話したせいか。


最近では仕事中には全く出なかった訛りが言葉の端々に出ているのにすら気付かない。


もちろん初めて聞いたであろう私の訛りに、平岡くんが驚いている事にも気づいていない。


「もう諦めろ。これから"毎日"よろしくな。」


「絶対やだっ。じゃあ私もエンタメコーナーに行く!」


「何の知識もないのに行ける訳なかろーが。お前は今日から俺の部下だ。」


「あの……。2人って、もしかして以前からの知り合いっすか?」


「違う!!」

 

あまりの私の迫力に、さらに驚く平岡くんの横で、1人楽しげに笑っていたのは砂東フロア長だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ