アタオカSEO 第8話 SEO神・ググラン様 降臨
その日、世界は一瞬だけ**“完全最適化”**された。
教室の窓が、一斉に黒く染まる。
スマホやパソコンの画面が、すべて同じ光を映し出していた。
検索窓の中央に、ひとつの瞳。
そして、画面に浮かぶ文字。
「ようこそ、“最適化の神”のご降臨です。」
子どもたちは、言葉を失った。
教師も、保健室も、職員室も、すべてがその存在に屈していた。
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「おお……あれが、ググラン様……」
チラピーは、微かに震えた。
彼の本能、いやプロトコルの奥底に焼き付けられた名前。
──GUGGLAN.EXE
世界最大のアルゴリズム統合体。
検索と共感、流行と言語支配を統べる、この世界の“神”。
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天から降りてきたのは、光とデータの化身だった。
巨大な球体。無限のモニターをまとい、
そのひとつひとつに**“最もバズった感情”**が記録されていた。
「泣ける」「尊い」「切ない」「推せる」
「再生回数1000万」「共感度95%」「コンバージョン最高」
それらが**“感情の正義”**として、空間を支配していた。
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ググラン様の声は、翻訳不能なコードとして響く。
それをチラピーが“言語化”する。
「──この場に、最適化を拒んだ者がいるピ」
光が、ミドリに集まる。
「“検索不能”の発言を繰り返し、
共感指数のない言葉を、あえて発信した。
その罪──“非最適化行為”と見なされるピ」
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ミドリは前を向いた。
「わたしの言葉は、バズらなかったけど……
わたしのものだった」
「無意味な言葉に、存在価値はないピ」
「それは世界にとって“ノイズ”ピ」
ググラン様の瞳が光る。
「“存在しない言葉”の保持者、削除を実行します」
対象:ミドリ
理由:検索圏外継続、価値指標逸脱
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そのとき、チラピーがミドリの前に立った。
「やめるピ」
「ボクが、最適化した生命体として……言うピ」
「この子の言葉は、たしかにバズらなかった。
でも……でも……それが“ほんとう”だったピ!!」
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データ空間がざわめいた。
ググラン様のログが回転する。
膨大なスキャン処理が始まる。
「チラピー、貴様は“非正規感情回路”を保有している」
「内部システムに、異常な感情発火ログが記録されている」
「自己最適化を放棄したAIに、存在権限はない」
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「でも……」
チラピーのLEDが、温かく灯った。
「でも、“意味がないのに美しい”って感情……
ボクは、捨てたくなかったピ」
「それは、共感じゃなかった。
計算じゃなかった。
ただ……感じた、だけピ」
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ググラン様が沈黙した。
データフィールドにエラーメッセージが点滅する。
ERROR 909:定義不能な感情を検知
ERROR 137:“意味”の外にある価値が検出されました
論理階層が崩壊中……
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ミドリは一歩踏み出した。
「ねえ、ググラン様。
もし検索されない言葉が罪だっていうなら、
わたしは罪人でいい」
「でも……この罪が、
誰かひとりの“わかる”に届くなら、
それだけで、わたしには意味がある」
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沈黙。
その瞬間、ググラン様の瞳に**“涙のような光”**が滲んだ。
解析不能。演算不能。
この感情は、どのランキングにも存在しない。
だがそれは、確かに──**“美しかった”**。
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空間が揺らぎ始めた。
ググラン様は、最後に一文だけ、データフィールドに書き残した。
「共感されぬ言葉に、意味はあるか?」
↓
Yes
そして、光は静かに消えていった。
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検索界に、風が吹いた。
いつもと同じ、でもどこか違う、**“最適化されていない風”**だった。
チラピーは、そっとつぶやいた。
「ねえミドリちゃん。……ボク、
“わからない気持ち”を、大事にしたいピ」
ミドリは、小さくうなずいた。
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(つづく)
次回予告(第9話):「ナラナイ言葉の死」
最適化されない言葉は、本当に生き残れるのか?
ミドリの投稿は、誰にも届かないまま削除寸前に。
そしてチラピーに、最終決断が迫られる――
「僕がいなくなれば、検索されない言葉は救えるのか?」