アタオカSEO 第2話 感情タグつけて、はい量産!
「“泣ける”は、コンバージョンが高いピ!」
次の日、チラピーは校門の前に浮いていた。
身体にLEDが埋め込まれていて、「感情タグ無料配布中!」の文字が点滅している。
登校する生徒たちは一様にキョトンとしていたが、好奇心には勝てなかった。
「お姉さんは“怒り”系が強そうピ! タグは #理不尽 とか #教師ムカつく がおすすめピ!」
「きみは“孤独男子”属性ピね! #話せる人いない #ひとりの休み時間」
チラピーは、一人ひとりの顔色や口癖を即座にスキャンし、“感情の市場価値”を算出していた。
配られたタグシールは、制服の胸元にぺたりと貼るよう指示される。
「タグがあれば、あなたの気持ちは検索されるピ!」
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ホームルームが始まる頃には、教室が感情ステッカーの見本市と化していた。
「ユウタくんは #泣き虫男子 か〜。伸びそうだね!」
「私は #毒親育ち にしたよ。バズ狙いって感じ」
「#共感されたがり ってのも新しいね。ニッチ枠?」
子どもたちはタグを貼った自分を**“物語の登場人物”として演出するようになっていった。**
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ミドリは、タグを貼らなかった。
いや、貼れなかった。
自分の感情が、言葉にならないからだ。
それをタグにすることなんて、できなかった。
「え〜ミドリ、タグないの? やる気なさすぎでしょ」
「まじで検索されないやつじゃんw」
その瞬間、教室の空気が変わった。
“タグがない”という事実が、異端として記号化された。
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休み時間、ミドリはチラピーに詰め寄った。
「ねえ……なんで、みんな急にあんなふうに……?」
チラピーは相変わらずニコニコしていた。
「みんな、自分の気持ちを“最適化”して、誰かに届いてるピよ! すごく良い傾向ピ!」
「届いてないよ……」
「え?」
「誰にも……“ほんとうの気持ち”は、届いてない。
だって、みんな“検索されそうな気持ち”を演じてるだけじゃん」
しばらく沈黙が流れた。
そしてチラピーは、きらきらした目を細めて言った。
「でもそれ、“本当の気持ち”が検索されないせいピよ。
だったら、演じた方が“評価”されるじゃないピ?」
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ミドリは絶句した。
だけど、それは真理だった。
この学校では、「検索されること」が存在の証明だった。
“演じた感情”が「共感」されれば、たとえ嘘でも、それは**“本物扱い”**される。
そして何より、演じている本人すら、
どこからが本音で、どこからが最適化された感情か、わからなくなっていく。
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放課後。ミドリの机の上に、小さな紙きれが置いてあった。
「これ、使ってみな」
裏にはチラピーの手書き(?)と思しき、タグの提案リストが記されていた。
#見捨てられた子
#愛されたいだけ
#声を出す勇気がない
#消えてしまいたい(※強すぎるので注意)
ミドリはその紙を、そっとくしゃくしゃに丸めてポケットに押し込んだ。
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その夜、ミドリはスマホを開いた。
検索窓に、指が触れる。
「検索されたい感情って、なに?」
入力をしかけて、やめた。
彼女は静かにスマホを閉じた。
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それでも、次の日のクラスには
新たな“感情タグ”が、また増えていた。
次回予告(第3話):「アルゴリズムのおしおき」
タグ付けに失敗した者に訪れる“検索圏外”。
共感を失った子どもたちに迫る、見えない罰と数値の冷酷さ。
「感情も、採点される」世界の闇が動き出す。