アタオカSEO 第1話 検索界にチラピーあらわる!
舞台:感情が数値化・タグ付けされ、子どもでも検索順位に縛られるディストピア学園
主人公:ミドリ(小学5年)。無口で“検索されない子”と呼ばれる。
チラピー:突然空からやってきた「感情最適化生命体」。語尾が「ピ」
ミドリは、検索されなかった。
日直の欄に名前があるのに、「ミドリって誰だっけ」と言われた。
作文が入賞しても、「エモくないね」と言われた。
それが、彼女が「検索圏外の女」と呼ばれるようになった理由だった。
現代の小学校では、“共感指数”が成績に直結する。
作文や絵、日記、SNSの投稿など、すべてがアルゴリズムにより採点され、
「感動PV」「泣けるRT数」「保存数」などのスコアで評価される。
教師たちも、親たちも、それが当たり前だと思っている。
今日もクラスでは、ユウタくんが「両親離婚バナシ」で300PVを達成し、拍手を浴びていた。
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「で、ミドリさんはどうなの?」
教師が訊ねる。ミドリは目を伏せる。
「何も……ないです」
「感情なし? それはよろしくないですね。せめて“孤独”とか“学校行きたくない系”に寄せることはできませんか?」
子供たちが笑う。
SEO的に“無味無臭”は存在していないも同然。
ミドリの心の中には確かに感情があるのに、言葉にすると「検索されない言葉」になる。それが、彼女の苦しみだった。
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その日、事件は起きた。
昼休み。誰もいない屋上で、ミドリは空を見ていた。
すると、青空の一点が“広告バナー”のように歪んだ。
ポップアップウィンドウのように開いた空間から、彼は降ってきた。
ぷるぷるした球体。光沢のある虹色の体。
キラキラした目に、「SEO対策済」って書かれたタスキ。
「やあやあやあ〜! ヒト界のみなさ〜ん! 感情、最適化しにきたピよ〜〜〜!!」
声はやけに軽く、ネット広告のように明るかった。
ミドリはぽかんと口を開けた。
「……なに、あれ」
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「自己紹介するピ!」
球体はくるんと一回転してポーズを取った。
「ボク、チラピー! 感情最適化生命体(Emotion Optimization Creature)!
ヒトの言葉を検索1位にするのが、使命ピ!」
ミドリは小さく呟いた。
「……アタオカ」
チラピーは聞こえなかったふりをした。
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「ミドリちゃん、悩みあるピか?」
「えっ?」
「たとえば“母親が冷たい”とか“自分がいないみたい”とか“死にたいけど言えない”とかピ」
「……なんでそんなこと……」
「それ、**“よく検索される系のキーワード”ピ! バズの香りがするピ!」
チラピーはどこからかPCを取り出すと、ミドリの顔写真をAI風に加工し、**「検索されたい少女の物語」**というタイトルをつけた。
タグは、「#涙腺崩壊」「#母親の冷たさ」「#小5の絶望」
「やめて……やめてってば!!」
ミドリが叫ぶ。風が吹く。校庭の方から、チャイムが鳴った。
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だが、すべてはもう始まってしまった。
検索界に、**“感情をバズらせるための正義”**が落ちてきたのだ。
その名は、チラピー。
彼は無邪気に、この世界の原罪を最適化する。
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(つづく)
次回予告(第2話):「感情タグつけて、はい量産!」
ミドリの周囲で「感情の最適化」が始まる。
泣きたいのに泣けない。笑っても笑えない。
子どもたちの言葉に、タグとPVとキャッチコピーが貼りつく