世界最凶と呼ばれる由縁
時は今より少し前。争いの絶えない日本にいる、とある女に、超能力が発現した。
女の名を、時影綺蘭々。雷色の長い金髪に、キラキラ輝く大きな金色の瞳。睫毛はバサバサと音を立てそうな程長く、細身だが胸がデカイ。黒の十字架のプリントされたTシャツと、南京鍵のネックレスをし、ジーパンのショートパンツ履いている。
20歳で、両親は幼い頃に亡くしている。
女が大学に行く時代ではないので、キララは高校を卒業してそのまま働きに出た。都会でOLをしており、禿げた上司のパワハラに青筋を立てていた所である。
この上司とはいつも口論になっている。気が強いキララだから、やられたらやり返すのは当然なのだ。
くどくどと中身のない自慰行為のような説教を続ける上司。キララは遂に脳の血管を切らし、激怒した。
「ッチ、さっきから黙って聞いてりゃグダグダグダグダうっせーんだよ!!!」
ブチ切れた、その瞬間。キララから激しい雷が発せられ、上司を感電させた。
「ぎゃああああ!!」
「っは、?」
呆気にとられると、雷は収まる。上司は火傷を負って倒れ、呻いている。周りの人達は、混乱しながら恐怖に陥り、動けずにいた。
「っは、なに、?」
キララは驚いた。自分の手をまじまじと見る。そして、もう一度雷を出すイメージをしてみた。
パチパチ…!
微弱な雷が手から発せられる。キララに超能力が発現した瞬間であった。
目を見開く。キララは興奮した。顔を上気させ、息が荒くなる。誰もが夢見る、自分だけの超能力。キララは、最凶の力を手に入れたのだ。
「はははは!おもしれー!!!」
キララは、叫び声を上げた。かつて無い興奮。心臓がバクバクと煩く、頬を赤く染める。興奮そのまま、嫌いな同僚の元に走っていく。
「あっ、く、くるな!!」
「はは、やだねー!」
同僚は腰を抜かし、椅子から転げ落ちる。キララは手を同僚に向かって突き出して、雷を出した。そして、感電させる。
「やだっ、あ"あ"あ"あ"!!」
同僚は痛みのあまり失神してしまった。
「はははっ!この力があれば世界征服できるかもな!」
外に出たキララは、とりあえず家に帰って私服に着替え、その後、旅支度を整えて、電車で戦場へと向かった。人を幾らでも傷つけられるところ、今のキララにとって戦場とはそういう認識である。
ボストンバックを建物の影に置く。すると、影の中にバックが吸い込まれていった。
「これも能力かァ?」
キララは首を傾げる。思いつきで、影を操作してみた。
すると、影が空中に伸びて、人の形を作る。それは銃を持った屈強な男になった。
「へぇー!おもしれぇ!色々作ってみるか!」
刀を持って着物を着た女、ハンマーを持った幼女を1人ずつ。そして銃を持った男を量産した。
「名前付けてやるよ!刀の女はツバキ!ハンマーの女の子は、マリーゴールドのマリー!銃の男はゼファー!他の男共は、シャドウ・ファントムな!」
名前を付けた途端、影達は意志を持つ。影は色を持ち、まるで生きている人のようになった。
「ふふふ、わたくしツバキ、主様の為に戦果を挙げて来ますわ」
「マリー、いっぱい人殺しちゃうよ!楽しみにしててね!主様!」
「お任せ下さい、主様。このゼファー、確実な勝利を貴方様に」
いざ出陣。
「行くぞテメェら!!!」
銃と爆弾の雨霰が降る荒野に、軍団が進んでいく。その先頭を、キララは爛々と目を光らせて走っていった。
「っなんだ!!」
「誰だこいつら!!」
異国の兵士達が、戸惑ったように知らない言葉で声を上げる。
「はァァっ!オラー!!!」
両手を上げて雷を溜めたキララは、兵士達に向かってそれを放つ。躊躇いは無く、力を持った者の残酷さが顕になっていた。
「ぎゃあああ!!!」
「なんだ、なんだアイツは!!見たこともない力を使うぞ!!」
異国の兵士達は、恐怖と混乱の渦に巻き込まれた。
「な、なんだアイツ!!?」
「分かんねぇ!味方っぽいぞ!?」
日本の兵士達も混乱したが、どうやら強力な味方らしいと気付き、共に戦う。
「誰だか知らないけど戦ってくれるんだな!?」
「ア?別におめーらの為とかじゃねぇけど…ウチが戦いたくて戦うだけだからな!!」
「それでも助かる!!」
ゼファーとシャドウ・ファントム達も、次々に兵士を攻撃していく。
ツバキは刀で人を切り捨て、マリーはその体格に見合わない大きなハンマーで人を撲殺していく。
「なんだこいつら!銃で打っても死なない!」
「傷ついても再生するぞ!?」
そう、影達は影だから、死なないのだ。銃によって影が崩れても、すぐに再生してしまう。
キララに銃弾が当たった。
「っい!!ったくねぇ…?痛くねぇな。なんでだ?」
どうやら体が作り変わったらしい。銃を通さない体になったみたいだった。
キララ達は、あっという間に兵士達を蹂躙し、背後に死体の山を築き上げていった。
「ハーッ!人殺しってスッキリすんな!!な!マリー!」
「ねーっ!主様がマリーのこと顕現してくれて良かった!こんな楽しいこと出来るんだもん!」
「主様、わたくしは活躍出来ておりましたか?」
「あ?見てなかった!でもよくやったな!」
「ふふふ、お褒め頂き光栄ですわ…♡」
ツバキはしっとりと色気のある声でキララに垂れかかる。
「あーっ、ツバキズルい!マリーも主様とくっつく!」
「ふふふ、マリー?主様はあげませんよ」
「皆の主様だもん!!」
死体に囲まれた中、ツバキとマリーがキララを巡って争っている。隣でゼファーが羨ましそうにそれを見ていた。そこに、日本兵士の内、1人が勇気をだして声をかけた。
「あの、貴方は…?」
「あ?ウチ?時影綺蘭々!世界最凶の女だ!!」
キララはビカビカ光る大きな瞳で、そう言い放った。
「あぁ、そうなんですね…!貴方はまるで神様のようだ、未知の力を使って敵を殲滅して下さった…!是非テントに来てください、食料を分けましょう!」
「ホントか!助かる!暫くは戦場で戦うから、ヨロシクな!」
「こちらこそ助かります!!皆!神様が助けに来てくれたぞ!」
「ウォー!!」
兵士達は雄叫びを上げて歓喜した。
皆はテントに戻る。シャドウ・ファントム達は影に戻した。マリーとツバキとゼファーは健在だ。
「こやつは何者だ?」
司令官が突如入ってきたキララ達を見て、警戒する。
「司令官!この方、時影綺蘭々殿が超能力で敵を殲滅して下さいました!」
「?何を言っている?頭にヤキが回ったか?」
「ねぇおじさん、口には気をつけなよ?主様に失礼なことしたら殺すからね」
「そうですわよ。人間なんて心臓を一突きなのですから…。」
「そうだぞ。主様に逆らったら、貴様、分かっているな?」
マリーとツバキとゼファーは、氷点下の如く冷たい空気を醸し出す。その殺意はホンモノで、経験のある司令官すらも恐怖した。特にゼファーは身長も高く筋肉が隆起しているので、見た目の圧も強かった。
キララは手に雷を出す。
「見ての通りだぜ?ウチのこと上に報告しな、世界最凶の女が味方についたってな!」
「ほう、面白い…。いいだろう、いずれにせよ本部には報告する。どうやらお前は強力な味方のようだ。ここで過ごすことを許可しよう。但し、作戦には加わるように」
「あたりめーだろ!ウチは人を殺したくてここに来たんだからな!!」
「ふ、血戯の盛んなヤツだ」
そうしてキララ達はテントで過ごした。
「なぁ、風呂はねぇのか?」
「少量のお湯で体を洗うのみだ。」
「ふーん、家帰れねぇのかな…。」
マリーとツバキは顔を見合わせる。
「主様、主様もマリー達も影を通して家に転移できるよ!」
「お、まじか!じゃあ私1回家帰るわ!司令官とやら!ウチ1回家帰って寝て、明日また来るから!」
キララは、軽い調子でそう言った。本人としては、やった!風呂入れんじゃん!位でしかないのだ。
「何?転移が出来るのか?何人まで出来る?」
しかし、司令官の目の色が変わった。真剣だ。
「ア?影に入るなら何人でも出来るんじゃねぇか?出る時の影も広くねぇといけねぇと思うけど」
「何!?!では、直接敵陣の本拠地まで行けるということか!?!」
「いや、1回行ったことねぇと何処か分かんねぇよ?」
「そうか。では、戦闘機で近くまで行った後に1度戻って転移させることは?」
「アー、それなら出来るかもな」
「これは革命的だ、この戦争をすぐさま終わらせることが出来るぞ!!」
「ア?まぁウチは世界最凶だからな!」
「キララ!作戦を変更する。明日の朝、敵国に戦闘機で連れてって貰え。そして、兵士達を転移させるのだ!!」
「ふーん、いいけど、報酬あんの?」
「本部と相談するが、莫大な金と名誉と地位を約束しよう」
「いーじゃん!!やってやるよ!!ウチのシャドウ・ファントム達も戦闘力に加えな、力になってやる!」
「感謝する。この戦争、勝ったな。」
司令官はニヤリと笑う。まだ油断出来ないが、勝ちがほぼ確定していた。
キララは家に帰って、風呂に入った。キララは風呂が好きだ。温かくて、スッキリして、リラックス出来る。温泉も好きだから、今度有名な温泉地に行きたいと思う。転移も手に入れたし。
家は実家を引き継いだので、ある程度広さがある。4人くらい入れそうな浴槽なので、マリーとツバキも一緒に入った。ゼファーはリビングで正座でお茶を飲んでいる。
「主様とお風呂!やったー!」
「裸の付き合いというやつですわね?」
「まぁ、仲良くなるのも大事だしな!」
体を洗いっこしたり、マリーとお湯を掛け合ったりして遊んだ。真横でツバキが微笑んでいる。肌から湯気が上がっていて、艶っぽい。
「キャッキャッ!」
「ははは、マリーはカワイーな!」
「主様もかわいいよ!おっぱい大きいし!」
「あっコラ触んな!揉むな!!!」
「キャハハ!!」
「テメー!こちょこちょしてやる!」
「キャー!」
ホカホカになってお風呂を出た。
「あ、布団ねぇな…。影戻るか?」
「影で布団を作ればいいのではないですか?」
「天才か!!そうすっか」
名前をつけていない影はあくまで真っ黒だったが、布団としての役割は果たすらしい。質感すらも操作できるようだ。
ゼファーは男なので別室だが、堪忍して欲しい。
「じゃ、おやすみ!!」
「はーい、おやすみなさい、主様!」
「良い夜を、主様…♡」
寝ようと思った。が、なんか2人がぴっとりくっついてくる。
「あちぃよ!!」
「あら、だってくっつかないと損ではありませんか」
「くっついて寝たーい」
「あちぃから離れろ!」
「ちぇー」
「酷いですわ…」
そうして、4人は眠りについたのであった。
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