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変わりゆく世界の中で

作者: 山クタ

「未来」と聞いたらどんなイメージを思い浮かべるだろうか?明るく進歩した街の風景が浮かんでくる奴が多いだろう。しかし俺からすれば現実はもっと悲惨な物だ。世界は常に未来へと進み、俺らの懐かしい思い出達は置き去りになり忘れ去られていく。そんな俺は三笠 隼、普通の高校二年生だ。正直言って、俺はこれから来るであろう未来に何の期待も抱いていない。いや、期待するのに疲れてしまったのかもしれない。

この世界は常に効率的に進んでいき、俺らがガキの頃毎日のように泥まみれで遊んでた土のグラウンドは人工芝のサッカー場と化しそのサッカー場でも子供たちはほとんど遊んでいない。

最近の奴らは皆スマホやゲームに熱中し家から出ようともしなくなった奴がほとんどだ。俺がそう思いながらサッカー場をボーッと見ているとその時「よっ、隼。なにしてんのさ?」と唯が声を掛けてきた、俺は少し振り返り「ここ、懐かしいだろ?昔はお前とよく一緒に遊んだもんな」と言うと唯は「はは、そうだったね。まぁ…今は誰も遊ぶ人居なくなっちゃったけど…」と唯は歯切れが悪そうに言った。ああ、今更だがこいつの名前は不知火 唯、俺とは保育園からの幼馴染だ。まぁ、最近はあんまり関わってないけど。「それより隼、先生が怒ってたよ?なんであいつは授業抜け出したんだ!って」「ゲッ、最悪だ……また補修コースかよ」俺は肩を落としていると「まぁ頑張りなよ、私も勉強教えてあげるからさ」と唯は励ますかのように言ってくる。それから俺と唯は分かれ、俺はと言うと久々に自動販売機でジュースを買おうとして今必死に自動販売機を探しているザマだ。最近じゃ、自販機一つを見つけるのもひと苦労なんだな、と俺は考えながら探し続ける。そしてやっと俺は、まるで、この時代から取り残されたかのようにひっそりと佇むその機械をようやく見つけた俺は、少し手こずりながらも硬貨 を投入し、冷たい缶のコーラを取り出した。プシュッ、とプルタブを開ける音。ただの炭酸が抜ける音だ、しかし俺はこの音を聞くたびに泥まみれで遊んだ後、自販機でジュースを買って飲み干していた事を思い出してしまう。俺は少し感傷的になりながらも、空き缶を自販機の横にある缶入れに投入しながら、自宅に帰っていく、俺が歩を進める度に。景色は古びたネオンサインの町並みは薄れ、高層ビルや新時代の住宅などが建ち並ぶ景色に変化していく。俺はそんな街に飽き飽きすると同時に、そして世界に戻ってくる。それから俺が家に帰ると、一番最初に迎えてくれるのは親でも妹でもなく、「三笠 隼様、お帰りなさいませ。今日の晩御飯のメニューはどうしますか?オススメはハンバーグの,…」家庭用ロボットが俺を出迎えてくる。はぁ、と俺は溜め息をつきながら家庭用ロボの電源を切り、ソファーに深く腰かける。とその刹那、家のチャイムが鳴り響く。俺はめんどうくさかったが仕方なく思い足取りで玄関に向かっていく。そしてドアを開けるとそこには無駄に厚い参考書と筆箱を持った唯が居た。「ほら、約束通り勉強教えに来てあげた訳だけど…なんか言う事ない?」「今はそういう気分じゃないんだ、帰ってくれ」と俺が言うと唯は呆れたような怒ったような表情を浮かべながら「全く、せっかく来てやったのになにその態度!」と強引に家に上がってくる。お前はいつまで経っても変わらないな、という言葉を、喉元で引っ込める。それから俺は嫌々ながらも唯に勉強を教えられる事となった。俺は適当に聞き流していく、唯の声とシャープペンシルの筆音のノイズはどこか俺の耳をくすぐり、俺が眠たくなっているとふと唯が近づき、唯のシャンプーの匂いが俺の嗅覚を刺激する。普段あまり気にした事はなかった、けど…昔っからの匂いだ。俺はハッとしてそんな考えをしないように努力をする。とその時「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」「んっ?あ、あぁ!聞いてる聞いてる」と俺がなんとか取り繕うとすると唯はいぶかしげな顔になり「ほんと~?まぁいいや、そろそろ休憩にしよっか。流石に疲れたでしょ?」唯はお茶を二つ淹れ、俺にも渡してくる。……話す事がない、正直お互いの事や現状についてはほとんど知ってるしかと言って変に話題を振ろうとしたら逆に気遣わせるだけだ。しばし俺らの間には気まずい微妙な空気が流れる、そんな空気に耐えられなくなった俺はまだなんとか俺でも知っている流行りのネタを振る。「そ、それより最近あのゲームが発売されたらしいな?お前もそういうの興味あるのか?」「隼……そのゲームもうオワコン化してるよ?流石に流行りに鈍感過ぎない…?」と唯は衝撃的な事を言ってくる。「へっ!?ほ、本気で言ってるのか?確か出たのまだ2ヵ月前だぞ?」「まぁ仕方ないよねー、今やすぐ流行りは変わっていくから。私だってついていくので一苦労だよ。」俺はそんな事実をとても信じられなかった。俺にとってはまだまだ現役の話題だった。それに、まだ遊べるしやり込む事だっていくらでも出来る。まだ味が残ってるじゃないか。しかしまぁ、俺みたいな奴のゴタクは吐き捨てられていくのだろう。どのみち、俺のような過去にすがるような奴らは常に未来に進む世界にとっては、過去という繭に埋もれて未来を見ない"かいこ"と同じ存在なんだろう。と俺がそんな事を考えている途中、ふと時計を一瞥するともう既に時計の針は7時を回っていた。「お前、もう7時だけど帰らなくていいのか?」と言うと唯は驚いたように「ふぇっ?ってマジじゃん!時間が過ぎるのって以外とあっという間だね」唯は急いで参考書やその他の荷物を片付け、足早で去っていく。俺はまだ、この部屋に唯の存在を感じながら、ボケーッとしてしまう。俺は唯が帰ってしまった事に一時の悲しさを感じる。しかしその刹那も時計の針は、そんな余韻に浸る事さえ許さないかのようにとめどなくチクチクタクタク回り、俺に現実を突きつけてくる。次の日の朝、俺は久しぶりに遅刻せずきちんと登校すると、クラスメイトは一瞬だけこちらを一瞥するが、すぐまたスマホの画面に目線を戻す。俺は軽く舌打ちをしながらも素直に自分の席につき授業の準備をしていると「わっ!」俺は一瞬体をビクッとさせると背後から聞き慣れた笑い声が聞こえてくる。「あはは、驚いた?私って意外と人驚かす才能あると思うんだよね」俺はそんな唯に呆れながらもどこか安堵し「なんだよそれ」と返す。チャイムが鳴り響き、皆は席につく。そして俺たちはくだらなくて退屈な授業をパソコンの画面越しに聞いている。いつからだろう、教師の負担や生徒の移動時間を考慮して、ミートによる授業が当たり前になってしまったのは。別に移動授業に愛着があった訳ではない、でもなんかこう…そういう日常が好きだったのかもしれない。俺は授業に嫌気がさし、イヤホンをつけ音楽を流す。今こう俺らが授業を受けている最中にも世界では千変万化が起きているんだろう。俺はそんな事実に少し目が回りながら、考えるのを放棄する。それから何分が経ったんだろうか?俺はいつも間にか寝てしまっていたらしい、俺は唯に肩をゆすられ起きた。「ホント隼ってやる気ないよね、もうちょっと授業真面目に聞いたら?」俺は寝起きなので少しイラついて「うっさいなぁ…クソみたいな授業聞く価値すらないだろ」と少し強めに言い返すと、唯は一瞬悲しそうな表情をし「そんな事言わないでよ、そんなんじゃ進学出来ないよ?そんなの…私が許す訳ないじゃん……」と寂しそうに、しかし力強く呟く。俺はそんな唯に少しの儚さと罪悪感を感じ、それ以上はなにも言えなかった。そんなこんなもありながらも授業は終わり、俺は帰るためにバックに教科書を詰めていると。「ねぇ、隼。今日隼の家で勉強会していい?」と聞いてくる。俺は内心めちゃくちゃ嫌だったが、仕方なく乗ってやる事にした。そして僕が下校していると、唯もついてきて執拗に勉強のアドバイスや入試のポイントなどを語ってくる。正直、俺はとてもウザかった、なので適当に聞き流していた、まるで相槌打つだけのロボットのように。そして俺の家につくと、唯は付きっきりで勉強を教えてきた、俺はめんどくさくてそれも聞き流していると「ねぇ、ちゃんと聞いてくれてる?これは隼の将来に関係することなんだよ?」と真剣な眼差しで行ってきたが、俺からしたらただのお節介としか思えなかった。それから数回ほど、そんな事が続いて行った。唯は俺の態度に、なにかやきもき焦っているような表情をした。「隼、なんでわかってくれないの…?」と言ってくる。そんな唯にいい加減イラついた俺は、こんな事を言ってしまう。「最近お前したこいんだよ、お節介だ。俺のことなんて構わないでくれ。」そう言うと唯はショックを受けた表情になり、部屋を出ていってしまった。今でも俺は、あの時なんて言えば良かったのかが分からない。それから、俺と唯は一切関わる事がなくなってしまった、学校で会ってもお互いに話しかける事もない。お互いに互いをまるで居ない存在として扱っていた。しかし、唯は授業中。こっそりこっちをチラチラ見ていた。俺はそれに気付きながらも無視していた。しかし、日が経つ毎に唯の存在は俺にとっていかに大切な物だと認識せざるを得なかった。なんだか、唯がいないと実感すると俺の胸は締め付けられ、虚無感と虚しさに包まれた。足は懐かしさを求めるようによろけながらも動き出し、いつの間にかいつも唯と遊んでいた元グラウンドに来ていた。しかしそのグラウンドを眺めていても、前のように昔に浸る事が上手く出来なくなっていた。俺は過去にしがみつく事の限界を感じながらふらふらと家に向かって歩き出す。俺は気付けば不登校になっていた、あぁ…なんでだろう?今はもう学校に行く気力もなにも湧かない。それから季節は巡り、夏休みに入った。けれど俺の日常に変化はなかった。相変わらず、朝は重い体を起こし、スマホを眺めるだけで一日が終わる。唯と口を利かなくなってから、どれくらいの時間が経っただろう。学校には行ってない。行く気も起きない。唯がいない教室なんて、俺にとってはただの空間でしかなかった。ある日、母さんが心配そうに俺の部屋を訪ねてきた。「隼、いつまでそうしてるの? 唯ちゃんが、心配してたわよ」その言葉に、ピクリと反応してしまった。唯が…? いや、関係ない。俺は布団を頭まで被り、返事をしなかった。母さんは諦めたように部屋を出ていった。俺は唯に酷い事を言った。それは到底許されるような事ではなかっただろう。それに、今更あいつに合わせる顔なんてどこにもない。とその時、久しぶりにスマホが震える。見ると唯からだった、俺は迷いながらと開いて見ると 唯》ねぇ、今から会える? とメールが着ていた。俺は微かな希望と大きな不安に押し潰されそうになりながらもなんとか震える指で文字を打ち 隼〉わかった、じゃあいつものグラウンドで 俺はそう打つといつぶりだろう。きちんとお風呂に入り清潔にしながら自分に合う服を着ていた。俺は母さんに外に行ってくると伝えた後、その刹那にはもう既に走り出していた。俺はグラウンドにつくと、土の匂いが香る。もちろん、本物の土の匂いじゃない、どこかプラスチックの無機質な香りだった、しかし今はそれも悪くないように感じれた。まだ唯は来ていないようだった、俺は焦燥感や焦りに包まれながらも待ち続ける、俺が待ち惚けを食らっていると。その時、奥から一つの人影が見えてくる、奥からやってくるそいつは鮮やかな夕陽に照らされ、どこか艶っぽく、大人びているように見えた。その時「隼!」という唯の声が聞こえると同時に、唯は俺に駆け寄りそのままの勢いで俺を抱き締めてくる。「っ…!?おまっ、なにして…」俺の心臓はドクンッドクンッな激しく動き出し、唯にまで俺の鼓動が聞こえてないか少し恥ずかしくなったがそっと抱き締め返す事にした。「隼…、会いたかった」という唯の言葉に、俺は「俺も…」と返す。「私、もう気にしてないから大丈夫だよ!」と唯は清々しい表情でこっこり笑う。俺は、少し遅れてから理解し、さらに唯にしがみつく。俺らはそうして少しの間抱き締め合った後、唯が切り出すように「ねぇ、どうせなら昔探検してた山行かない?」俺は素直に「あぁ、もちろん」。それから俺たちは、無言で手を繋ぎ山を登って行った。今の俺たちにとってはその沈黙もただ心地よかった。山頂に登りきる寸前、俺はずっと疑問だった事を唯に聞いてみた。「なぁ、なんで唯はそんな…過去に囚われず生きていけるんだ?」と俺が聞くと、唯は「だって…こう言ったりするじゃん、全て楽しんでこそ上級者…って」その時振り返りざまに見た唯の表情と発言を、頭から忘れられなかった。俺はずっと見惚れていた。そんな唯に、俺はそっ寄り顔を近づけそのまま…ゆっくりと脣を合わせた。それは、どこか甘酸っぱくて甘い、青春の味だった。お互いに慣れない様子で脣を合わせ合う。俺は、唯さえ居ればどんな未来でも良いやと思った。

「ねぇ…」唯は少し微笑む。

「ん?」俺は端的に言う。

「好きだよ、隼」

「俺も…」そのまま俺と唯はこんな未来の中でただ、溶け合って行った。

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