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婚約破棄をされたら「ざまぁ」だけど、やりすぎは禁物なのよね。



「アデール・ヴァンクレア! 貴様との婚約を破棄するっ! そして私はこの可憐なヒラリー・ルーと婚約を結ぶ! つまりはヒラリーが王太子妃、そしてこの国の王妃となるのだ!」




はーっはっは……と、大広間に響き渡る大声を出してきたのが、この国の王太子殿下なのだから、呆れる。




馬鹿ですか、殿下。


国王陛下がお決めになった王太子殿下と侯爵令嬢の婚約を、いきなり、夜会なんかで破棄宣言しちゃあ駄目でしょう。


陛下は、ご自分のお決めになった婚約を勝手に破棄されて、怒りに青筋を立てていらっしゃるし、王妃様は両手で持っている扇子を、真っ二つに折れそうなほどに握り締めている。




そもそも貴族の夜会に、平民の娘を勝手に連れてくるのも駄目でしょう。


常識って知ってる?


根回しって知ってる?


あのですね、我が国では、王太子殿下の婚約者を決める権限は、国王陛下にあるのですよ?


少なくとも、侯爵令嬢であるわたくしとの婚約を破棄したいのであれば、もうちょっとスマートな方法を取ってくださらないと……。




夜会で宣言しちゃえばみんな認めざるを得ないでしょ☆




なーんて、力技は、小説だの演劇だの、そういう架空のお話の中だけにしてくださいな。


王太子殿下と可憐な平民の真実の愛なんて使い古された題材なんて、イマサラ感動する人は……、まあ、テンプレ大好きな人は感動するかもだけど。


実際に現実にそんなことをされれば、まず思うのが「次代の王が、こんなあほたれで大丈夫か?」だと思うのよねえ……。




まあ、でも。テンプレとあれば。


ここは、王太子殿下の婚約者であった、このわたくし、アデール・ヴァンクレア侯爵令嬢が悪役令嬢役となって、王太子殿下とお花畑ヒロインに、いわゆる『ざまぁ』をしないといけないのかしら?




……面倒だわ。




なんでわざわざ親切に、このわたくしが、そんなことをして差し上げねばならないのかしら?




だいたい『悪役令嬢のざまぁ』モノって、バランスが難しいのよね。


ほら、たとえば……そうね。


わたくし、いきなり公衆の面前で、婚約破棄をされたけれど……、プライドが傷ついたからとか言って、この場で王太子殿下やお花畑ヒロインを殺害したら、悪いのはわたくしになってしまう……。




後から報復っていうのもねえ……。


たとえば我がヴァンクレア侯爵家が、この国を見限って、隣国へと移住なんかしたら。


……うん、国力低下するわね。


単純にうちのヴァンクレア侯爵家って、鉱山とかないし、農地とかも大したことないし、なんで侯爵家としていられるかって言えば……、商才がありまくり、だからだ。




父も母も兄も弟も叔父も叔母もいとこたちも、みんな五か国語話せるのが当たり前。算術には明るいし、商業的交渉なんてのも大得意。商品を安く買って、高く売りつけるのが趣味を通り越して快感……というちょっとどうかしている一族だ。




だから、国なんて放り出して、どこか遠くに行ったとしても。


裸一貫、財産も身分もコネも何もないところから、自分の力だけでのしあがって、あっという間に財を築いちゃう……。




そんな一族に見放されたら、この国、どうなるかしらねえ?




近隣諸国とのお付き合い、具体的に言えば、関税関係。




もうね、わたくしの父や叔父の手腕によって、最大限うちの国に有利になっているのに。


それが崩れたら、国力低下、平民の皆様の生活はどうなるのか、想像もつかないかしら?


陛下だって王妃様だって、元凶の王太子殿下だって、今までのような優雅な生活なんかできずに、粗食を啜る毎日になるんじゃないのー?




ま、わたくしも、うちの一族も、どこに行っても大丈夫だけどね☆




しかも、そのどこへ行ってもの、どこかに行くための転移魔法はお母様が使えるし、今まで蓄えた財産を国に没収されるのがもったいないから、全財産を持って移転するための収納魔法は兄も弟もわたくしも使うことができる。




うん、魔法にも長けてるのよ、我がヴァンクレア一族は。




というか、この国の魔法使いの半数位がヴァンクレア一族と関係がある。


魔法省のトップはおじいさまの親友だし、大魔法使い、中堅魔法使いの皆様も、たいてい、何かしらつながりがある。


ヴァンクレア一族が、他国へ出奔とかしたら、魔法省の魔法使いたちだって、一緒に出奔しちゃうんじゃないかしらー?




あらら、貿易と魔法を、国から取り上げたら、それで国が成り立つのかしら?


それって、ざまぁバランスが悪くないかしら?





そんなわたくしが、この場で王太子殿下に報復なんてしたら……。やりすぎ感がありあり……になってしまう。




さて、どうしましょう……と、お父様とお母様を見れば、お二人ともものすごおおおおおおくイイ笑顔になっておりました……。


お兄様も「やっちまえ!」とばかりに拳を握って、バキバキと鳴らしているし。


弟は「魔法使うなら、ボクの杖使うー? 威力三十倍までアップできるよー」と口パクで言ってきております……。


ああ、ええと……。




まあ、でも、報復をしないのもアレだし、してもアレだし。


簡単にサクッと仕返しして、でも、無関係の皆様には被害が及ばない、そんな都合のいい報復は……。




……と、悩んでいる間にも、王太子殿下はわたくしの悪口……というか、冤罪? を、べらべらと演説している。




「アデール・ヴァンクレアは可憐なヒラリー・ルーを虐める悪女だ」とか。


「学園で階段から突き飛ばした」とか。


「ドレスを破いた」とか。




テンプレートな悪行を並べた上に、更に。




「俺に愛されるなどと思わないことだ」とか。


「お前を見ていると虫唾が走る」とか。


「たとえ、陛下の命令通りに婚姻を結んでも生涯お前を愛することはない」とか何とか喚いていらっしゃる。




あー、めんどくさい。


どうしようかなー。




ま、取り合えず。




「かしこまりました、王太子殿下。わたくしアデール・ヴァンクレアは、婚約破棄を受け入れます」




王太子殿下に背を向けて、国王陛下と王妃様へと一礼をする。




「さて、わたくし、国王陛下に申し上げたき儀がございます」


「……聞こう」


「ありがとうございます」




陛下は渋い顔だ。というよりも、わたくしがなにを言い出すか、内心戦々恐々としているのだろう。




「まず、王太子殿下とわたくしの婚約は、無条件で破棄。慰謝料も何もいりません」


「ほう……?」


「代わりに、王太子……いいえ、レックス殿下と可憐なヒラリー・ルー嬢とやらの婚約をお認め下さいませ」




わざとわたくしが王太子殿下と呼ばずに、途中からレックス殿下と言い換えた意味を、陛下にはお判りいただけたかしらね?


王太子は代えてもいいんですよ……と、暗に言っているのですよふっふっふ。


まあ、でもそれがメインじゃない。




「そして、わたくしが祝福として、この場で一つだけ、魔法を使うことをお許しください。ああ、魔法といっても、誰かを害したりするものではありませんのでご安心くださいませ。ある意味……そうですね、他国の文化においては、喜びが増すような種類のものでございます」




にっこりと笑う。




どんな魔法を使うとは、具体的には言わない。だから、陛下は考え込んだようだが。


それを見たわたくしのお父様が一歩進み出た。




「アデール。おまえが使う魔法はそれほど大きなものではないのだろう?」


「はい、お父様。一個人に対する祝福程度です」


「ならば、ヴァンクレア侯爵家当主として申し上げましょう。アデールの魔法ひとつで、我がヴァンクレア侯爵家は、今回の婚約破棄に対して何の不満も責も申し上げません。これからと同様、今後もこの国の発展のために尽くしましょうとも!」




お父様の援護で、陛下のお心が決まったようだ。


鷹揚に頷くと陛下は言った。




「ヴァンクレア侯爵家がレックスの責を問わないというのであれば、アデール嬢がこの場で祝福の魔法とやらを使うことを許そう」


「ありがとうございます、陛下」




わたくしは、淑女の礼をしてから、王太子殿下……ではなく、可憐なヒラリー・ルー嬢とやらに笑みを向けた。




「近隣の国にファットバーン神聖帝国という国があるのだけれど……。可憐なヒラリー・ルー嬢とやらはご存じ?」


「し、知らないわよっ!」


「レックス殿下はどうですか?」


「知るか!」


「あら……そうですか。豊穣の女神を信仰する豊かな国ですわ。わたくしが今から差し上げるのは、そのファットバーン神聖帝国式の祝福です。わたくし、それを魔法で再現できるのです」




わたくしは両手を合わせて「パンっ!」と鳴らして、そして「可憐なヒラリー・ルー嬢へ、神の祝福を授けましょう!」と言った。




ま、台詞はテキトウです。


与えたのは神の祝福ではなくて、本当はわたくしオリジナルの魔法ですけどね。




可憐なヒラリー・ルー嬢は、キラキラした輝きに包まれました。


そして……、その光が終息するとともに、可憐なヒラリー・ルー嬢は、その場にしゃがみ込みました。


ええ、そうでしょう。


しゃがむというか、立っていられないでしょう。




「な、な、な……なんだこれはああああああ!」




レックス殿下が叫びます。




「いやあああああああああああ! なによこれえええええ!」




可憐なヒラリー・ルー嬢もです。





「何って、言った通り、ファットバーン神聖帝国式の祝福です」




ファットバーン神聖帝国式は、豊穣の女神を信仰する国です。


豊穣……つまり、豊かさイコール美。


更に言うのなら、太っていればいるほど美しいという文化を持つ国です。


体重百キロ程度ではまだ甘い。


二百キロが可愛らしい。美の基準。


バストもお腹もたゆんたゆん。ああ、包み込まれる柔らかさ……。


流石に三百キロ近くなると、自力で歩行も難しくなるから、流石にあちらの国でも太りすぎと言われるようだけど。


豊穣の女神像だって、なかなかの巨漢……失礼、たゆんたゆんとしたお腹と、ぼってりとしたお尻だしねえ。




「ファットバーン神聖帝国の美の象徴、豊穣の女神像と同じ体型、同じ顔つきにさせていただきました。福々しく、また、豊穣を体現する、まさにレックス殿下に相応しいではありませんか!」


「こ、こ、こ、ここは、ファットバーンではないっ! 私はスリムな女性が好みだっ!」


「あら……。そうでしたか。それは失礼。まあ、ですが、真実の愛なのでございましょう? 体型程度で左右されるような愛ではないですわよね? それに、王太子妃教育、王妃教育はなかなかにハードです。美しい淑女の礼が出来るまでは朝から夜中までだって、礼の練習をしますから。あっという間にお痩せになることも可能ですわよ」




なーんてね! 


はっはっは!


ま、痩せるかどうかは本人のやる気次第。


とりあえず、わたくしとしては、国も滅ぼさない。わたくしの体面も保ったまま。我がヴァンクレア侯爵家に傷ひとつつかない。


やりすぎないざまぁになったなあと思うのですけれども。


どうかかしらねえ。




ま、いいか。




「では、そういうことで。永遠の愛、真実の愛を貫いてくださいませね、レックス様」




ほーほほほ……と、最後だけは悪役令嬢っぽく、高笑いをしてみました。




これで、どこからともなくわたくしにも真実の愛の相手が登場してくれれば、ますます演劇や小説の悪役令嬢のざまぁっぽくなるんですけど。


流石にそこまでは無理ね。




とりあえず、今日のところはお父様のエスコートで華麗に退場。


さーて、明日になったら運命のダーリンを見つけにあちこちの国を巡りましょう。




フフフ。待っていてねー素敵なダーリン。痩せてても太っていてもイケメンでもイケオジでも構いませんわーなーんてね。





終わり


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