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機械化少年の異世界史  作者: 噛ませ犬
第4章 帝国編 2
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帝国編:第二十一話 神を人は詭弁により捏造する 

激しい展開にもって行きたい今日この頃。

 


 火の神殿のある街には徒歩で三日で到着できた。デスポイアの無茶振りに付き合わされた毎日に耐えてきた私の体は以前に比べてやたら強靭になったようで、ほとんど疲労せずに到着した。

 

 火の神殿はどこにあるのかペルセポネさんに聞いたところ、地図を渡された。地図があればすぐに見つかる、と考えていたあの時の私は救いようの無いアホだった。


 地図の縮尺、方角がすべて適当で、そもそも神殿のある街までしか記載されておらず、肝心の神殿周辺の詳細な地図では無かった。これでどうやってたどり着けと?

 目的地にたどり着くに用いる手段は地図だけではない。現地の方に聞けばよいのであるが、そんなことは思いもつかない義弘であった。

 

 ここであまりにも彼が哀れなので弁護をしておこう。彼の元いた世界では公共交通機関が発達し、自動運転のタクシーがタダみたいな値段で提供され、目的地にダイレクトに到着できる。

 また、現在地、目的地を表示する詳細なマップ、およびそれに付随するナビゲーションがIISによりなされる世界で『人に道を聞く』なんて文化は廃れて久しいのである。というか迷子になりようが無いのである。

 そんな彼が人に道を尋ねるという発想を持ち得なかったのは致し方なかったのである。


 彼は愚かしくも地道な探索の末、『火の神殿』という文字を発見した。そのときの彼は古の秘宝を発見したかのごとく狂喜乱舞し、しかる後に冷静になってその建物の外観を観察した。

 その外観は派手派手しい、赤一色である。いや正確には朱色というべきか。手前には広場があり、そこでは市場というか露天の集まりが形成されていた。その入り口の前には列柱が立ち並び、その廊下には多くの人が行き来していた。

 その人々の身なりは綺麗で髭や髪も手入れが行き届いていることからも生活に余裕のある層の人間であることが知れた。

 目線を自分の服に落とし、ため息をつく。俺にはまだまだそんな余裕はなさそうだと。


 そこで俺は出発する前に、ペルセポネさんに持たされた荷物を開いた。そこには黒一色で染め上げられた着衣があった。どうやらこれが俺の仕事着という訳らしい。

 第一印象というのは信用を得るのに大きく影響する。そのため見かけからしっかりすることは大変重要である。中身などその次の問題である。


 着替えるため、いったん街を出て森の中で着替えることにした。改めて荷物の中身を見るとその着衣の衣装のすばらしさに感嘆の息を漏らす。

 黒一色に染め上げられているがその染めにムラがまったく無い。折り目も均一で丁寧であり、さぞ名のある職人の手によるものであろう。その着衣は上からすっぽり被るようなワンピース状のものであり、丈はひざに被るくらいで恐ろしいくらいにサイズがぴったりである。いつの間にか自分の体形を調査されたことに戦慄を覚える。

 さらには黒に金で刺繍されたベルトがあり、これで腰周りを締めるらしい。かなり細かい刺繍である。その絵柄は植物が主体で、唐草模様が全体的にあしらわれている。

 

 これに裏が赤地のマントとルビーのあしらわれた額当てとイヤリングが出てきたときには思わず倒れそうになった。俺は一生、ペルセポネさんに足を向けて眠れまい。


 さて、着てみて全体の仕上がりを見るため、道中に見かけた池に行き、そこで髪と髭などの手入れを行う。幸い櫛はあるし、髭はナノマシンによる体組織制御で爪を変質させ剃った。


 町に戻り、市場を抜け、神殿へと進んでいくと入り口で止められた。止めた人は街中では見ないゆったりとした服装をしており、神殿の神職についている人なのだろうと推測する。


 「失礼ですがどのようなご用向きで当神殿に?」

  その物腰は丁寧で、貴人に対する応対であった。やはり着替えてよかったと心の中でほっとする。

 「ヒュペリオン様の補佐官殿への面会の約束をしております、デスポイア様の補佐官のヨシヒロです。お取次ぎ願えますか?」

 苦笑いするのを必死に堪えながら、つとめて真面目に答えた。

 「ペルセポネ様より伺っております。こちらへどうぞ。」

 彼の先導に従い、神殿の中へと進む。周りの人々の視線の矢がちくちくと皮膚を刺す。ちらほら『あれが例の・・・。』などと聞こえてくる例の何なのか非常に気になったので、聴覚を拡張して音声解析をした。


 「ペルセポネ様もなぜあのようなどこの者とも知れぬ男を補佐官にされたのか。」

 「なんでもデスポイア様が望まれたとか。」

 「ペルセポネ様も人の親ということですかな?」

 「まさに。娘のことになると判断を誤られるらしい。」

 

 なんと!こんなにも反対する方々がいらっしゃったか!これはチャンスではないか?ここの反対派を糾合できれば俺の補佐官になるのを阻止できるかも知れない。いや、して見せよう。

 しかし、なんの後ろ盾も無い俺が彼らを糾合できるはずも無いな。交渉のための手札を増やさなくては。ナノマシンを散布して、彼らの人間関係の把握とパワーバランス、弱み、強み、好悪の感情すべてを拾い上げてやろう!くっくっく、忙しくなってきた!


 彼は補佐官から逃げるために自分の持てるすべてを傾注し始めた。無駄だとも知らず。


 「テイア様、ヨシヒロ様をお連れいたしました。」

 「どうぞ。」

 中から聞こえてきたのはやさしげで、落ち着きのある女性の声であった。渋めのオジサンの声を想像していた俺は少し意外な感じがした。

 先導してくれた彼は扉を開けるとすっと後ろに下がり、消えていった。

 「どうぞ、お入りください、ヨシヒロ殿。」 

 「失礼いたします。」

 部屋に入るといい香りが鼻腔をくすぐる。思わず鼻をひくつかせてしまいそうになる。

 「どうぞおかけください。何かおのみになりますか?」

 「いえ、どうぞお構いなく。」

 彼女は手ずから茶を入れてくれる。その茶はこの地方特有の風味の強いもので、舌に対する刺激に飢えていた俺にとってはソレは珠玉のもてなしであった。

 「ここまでの道中、何か問題はありませんでしたか?」

 「いえ、何事も無く、平穏無事でした。」

 迷いに迷ったことは秘密にしておこう。

 「それは何よりでございます。補佐官殿にもしものことがあってはと案じておりました。」

 彼女の優しげな笑顔が眩しく思わず目を細める。

 「ありがとうございます。どうぞ補佐官殿ではなくヨシヒロとお呼びください。」

 「ではヨシヒロ殿と。私のこともテイアとお呼びください。」 

 「はい、テイア殿。」

 「ところで、ヨシヒロ殿は私に補佐官としての心得をお聞きになりたいとか。」 

 「はい!ぜひ!」

 あれ?勢いで言っちゃったけど違うんじゃね?心得とかじゃなくてやめ方というか、そもそも補佐官て何?とか、神殿ってどうやって作るの?とか、そういうことを聞きたいんであってだね。そんなポジティブに相談に来たんじゃなくないか?

 「そうですか。心得といっても特に無いのですが。」

 「無いんですか!?」

 「えぇ、お使えする方によって違うと思いますし。」

 「そうですよね。」

 「共通していえることは一つだけですね。」

 「それは?」

 「今もっている常識を捨てることです。」

 これ、笑うところですか?いや、真面目な顔してる。これはマジだ。マジなのだ。ジョークであってほしかったがマジなのだ。イヤー、捨てるも何もこちらの常識に疎い俺は捨てるものが無いというか。デスポイアが俺の常識、というか心ごと(?)粉砕してくれるからもはや手遅れというか。あれ?俺ってその段階をもうクリアしているのではないか?

 「もうすでに捨てております。」

 窓から遠くの景色を見ながら呟く様に俺は言った。

 「・・・そうですか、もう。では、後はデスポイア様のお側でそのご意思に沿うようになされば、それが補佐官の職責になります。」

 「それだけですか?」

 「それだけです。」

 「補佐官は戦略級精霊術師と人とをつなぐ架け橋ってペルセポネさんはおっしゃってましたが、そうなら時に逆らうことも必要になるのでは?」

 テイアさんが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたかと思うと、笑い出した。そんなに面白いことを言ったかな俺は。

 「確かにヨシヒロさんは常識を捨てましたね。戦略級精霊術師様に逆らおうとは。なかなか言えません。」

 「そうですか?」

 「そうなんです。確かにその必要なときも出てきます。しかし、逆らうのもバカらしくなるような力を彼らは持っているのです。」

 身をもって体験しております。

 「そうですね。」

 「ですので、出来る限り無茶な要望をしないように制御することが必要です。そのためにはデスポイア様にあなたの話を聞いてくれるように誘導しなければなりませんよ。」

 いきなり頑固親父の奥さんみたいなことを言い出したぞこの人。

 「なるほど。そういうことですか。しかし、要望をすべて叶えるなんて事は可能でしょうか?」 

 「可能、不可能ではありません。やるのです。たとえどのような障害があろうとも。」

 あの、テイアさん?少し怖いですよ?

 「そうなんですか?」

 「そうなんです!」

 少し話題を変えよう。

 「テイア殿がこの神殿を御作りになったときはどうされたのですか?」

 「ヒュペリオン様は基本的にあまり口出しされませんでした。神殿にはあまり興味がおありで無かったようなので。だから大体私が設計しました。」

 「そうなんですか。」

 「せっかくですから、ご案内しながら説明差し上げましょう。」

 「お願いします。」


 テイアさんに案内してもらった感じだと基本的に好き勝手に作ったようである。そこかしこに彼女の信心深さを思わせる工夫が見られ、ツッパリ先生に対する敬愛が表れているようだった。

 これだけの規模の施設を作るのに人と資金はどうやって集めたのだろうか?聞くと人は勝手に集まり、資材は商人に集めさせたとか。神殿はそういった寄付行為で成り立っているらしい。

 しかし、公共性が高くないと求心力が無くなり寄付も集まりにくいのだろう。手前の広場は露天のために公開し、出店した業者は商品を供物として落としていく。そして、神殿の建物もサロンのように人と人が話すのに適したものらしく、契約を交わしたりするのに使われるらしい。

 どのように周辺住民、および協力業者と折り合いをつけるのかが補佐官の腕の見せ所といったところか。


 ・・・まてまて何故こんなにノリノリで考えているのだ俺は。確かに面白そうだけど、将来的にまっているのはあの(・・)デスポイアのお守りである。しかし、俺の独力でトンズラこくのは不可能事だ。やはり、あの反対勢力を焚き付けなければ。


 「・・・といった感じですね。参考になりましたか?」

 「えぇ、大変参考になりました。本日はどうもありがとうございました。」

 「いえ、こちらこそ仲間が増えるのは喜ばしいことですから。」

 「そういっていただけると助かります。」

 うーん。やりたくないとは言えない。

 「ヨシヒロ殿、今日の宿はどうなさるのですか?」

 「この町の宿をこちらについたときにとってあります。」

 「そうですか。よろしければこちらにお泊りいただこうと思っておりましたが・・・。」

 ぴくっと俺の節約魂を揺さぶる一言であったが、そこは固辞しておいた。


 宿でどうやって反対派に渡りをつけるか考えながら今日は眠ることにした。








その国の権力者の権力の裏づけとして神話を用いるとき、

権力者自体が神(またはその末裔)である設定にするか、

権力者が神の意思の代弁者とするか、

だいたいどちらかである。


どちらにしても、世界、そして人類のルーツを知りたいという

人の欲求をうまく利用しており、


その設定の細かさといったら、

分厚い設定資料集が必要である。

誰が読むのか、まったく。


その設定を考え出した想像力、

なんとなく納得してしまうくらいのロマンを刺激するセンス、詭弁力

は手放しで賞賛できる。




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