帝国編:第十二話 誘惑の湯煙 ちょっと湯煙さん、そこを何とか! ここから先は有料だよ
サービスシーンはありません。
ありません。
何故なら
私が書けないから!
何故こうなった?
いや、理由ははっきりしている。そう、単なる不注意だ。
しかし、この状態に至るまでの過程を振り返ると悪意ある脚本に沿って行動させられたとしか思えないのだ。脚本家はどこにいるのか?なにもしないから出てきてほしいものである。ただ、一言文句を言いたいだけなのだ。「私になんの恨みがあるですか?」と。
この脚本を採用した演出家には文句だけでは済ますことは断じて出来ない!断固まともな演出家との交代を要求する!
現実逃避はそろそろ止めておこう。私の向かい側には私以上に困惑している人間がいることだし、そろそろ私こと前田義弘の置かれている状況について説明しよう。
などと少々勢い付けないと説明できない事柄である。
前もって断言しておくが、この状況は、私が望んだものではない。寧ろこの状況は向こうからやって来たのだ。
引き伸ばすのはここらで止めておこう。
簡単に言えば、私の目の前には生まれたままの姿の少女がいるのである。
簡単に言い過ぎたかも知れない。順を追っていこう。
そもそも、この屋敷に泊まる事になった辺りから歯車が狂ったのだ。
止みそうにない雨に困っていた私を屋敷の主人が見かねて泊まっていくように勧めたのである。
折角の申し出を断ることはないと考えた私を誰が責められようか?誰でもこの選択をするはずだ。
どうやら、この地方には温泉が出るらしい。「温泉」、その言葉を聞いた時の私のテンションは人生最高瞬間高さを記録していた。
IISの警告アラームとナノマシンのアドレナリン抑制がなければその場で踊り出していたかもしれない。
体を清めたいという感覚は日本人が長年持ち続けた物の一つだろう。「水に流す」という言葉に端的に現れている。
などと個人的欲求を民族的規模まで一般化したいくらい、その感動は大きかったと思っていただきたい。
紹介されたのは露天風呂であるがその大きさは半端でなく大きかった。もちろん泳ぎましたとも。
誰でもこの広さの露天風呂を前にしたら泳ぎたくなるに違いない!いや、それは少し厳しい。
人の目がないと人は大胆になるらしい。
何故人が他にいないと考えたのだろうか?未だに答えは出ないままだ。
泳いだ先から物音が聞こえ、背泳ぎで悠々と泳いでいた私は体の向きを逆転させ、そちらを向き直った。
そこに人がいたと言うわけである。
言いたいことは分かる。そんな漫画みたいなことがあるわけないだろうと。
だから、これは悪意ある脚本に・・・以下略。
「・・・あの。」
目の前の無垢なる・・・、えぇい!こっ恥ずかしいが言ってしまおう、美少女がこちらを見ていた。
そう呆然と。目が死んでいる。
『視線の固定率から注目度Aの事象に遭遇したものと判断。画像保存しますか?』
IIS、お前ちょっと黙れ。
「すみません、どなたか存じませんが失礼しました。私はこれでお互い忘れるのが最善だと考えます。では!」
よし。このまま去ろう。何もなかった!これがベスト。そう思った矢先、正気に戻った少女が話しかけてきた。
「あなた、私が誰か分からないの?」
不可解なことを言うものである。その若芽のように鮮やかな緑色をした波打つ豊かな髪、形のよい瑞々しい唇、すっきりとした涼しげな目付き、一度目にしたら忘れるはずがない。
『記憶装置内の秘密フォルダにアクセス。該当者0。』
IIS 、秘密フォルダへのアクセスを禁止。キーワード発声無しには開かないように。
「恐らく初対面だと思うのですが?」
そう言うと、彼女は呆れた様に息を一度吐くとこう言った。
「当たり前です。私が貴方のような下人と知り合いのはずがないでしょう?常識でお考えなさい。」
どうやら、私とは違う世界の住人らしい。
「では、やはりあなたのことは知らないと思うのですが?」
そう言うと、彼女はさらに不機嫌になり、私の度肝を抜く自己紹介をしやがった。
「神武将が一人、ペルセポネの長女にして戦略級精霊術師のデスポイアよ.知っていてとぼけているの?」
どうやら顔を知られていないことが信じられないらしい.見ず知らずの相手が自分の顔を知っていることが常識らしい。どこの芸能人だ?いやこの場合はロイヤルファミリーか?しかし、ここは謙るのが一般市民。相手は年下。美少女。なら謙るのになんの遠慮があろうか?むしろ喜んで謙ろう。
というか両手を腰に当ててえばってないで、上と下をお隠しなさい!そろそろ恥じらいを覚えてもいい年頃でしょうに。もしや、下賎なやからに見られても人でないから平気とかそういうことか?
ちなみお忘れの方のために、この会話は露天風呂での出来事である。まったく恥ずかしくないのか?
大変疑問に感じるところであるが、テンパってるときは大概そんなもんである。
「いや、すみませんでした。そうとは知らず失礼申し上げました。無知蒙昧なる私めをその寛大なお心でお許しください。」
温泉の水につかるぎりぎりまで頭を下げて言うと、何か納得した風に片手をあごに当ててうなずいておっしゃいました、このお嬢様。
「ふむ、あなた。どうやら本当に知らないようですわね。寛大な私は許して差し上げます。」
どうやらこのまま去るのもアリなようだぞ。では、退散するとしますか。
「では、これにて失れ・・「ところであなた。」・・はい?」
どうやら簡単には帰してくれないらしい。
「どうしてここにいるのです?」
何ってお前。見て分かるだろ?風呂入りに来てんだよ。
「旅の疲れを癒しに湯治にと。」
「そんなことは分かっています。どうやってここまで来たのですか?」
話がかみ合わないとはこういうことを言う。しかしここで途切れさせては会話は続かない。ピッチャーの悪送球にも対応してこそ、名内野手となれるのだ、義弘よ!はい!コーチ!
「どうもこうも、普通に。」
「嘘をおっしゃい。私が来た道には魔獣の死骸はひとつも落ちていませんでしたよ。」
はぁ?マジュウ?なんぞ?
「マジュウとはなんですか?」
「・・・あなた、私を馬鹿にしてますの?それとも下人とはこうも愚かなのかしら?」
あ、こめかみがぴくっと。これは怒っとりますなぁ。
「はぁ、馬鹿にしてるなんてとんでもない。おそらく私が特別無知なのだと思います。」
「・・・ここにくる途中に通常では見られない凶暴な獣に出会いませんでしたか?」
あきれ果てて言葉も出ない、といった風情ですね。
「あぁ、あの群れで行動してる三つ目の狼とか、やたらデカイ猪とかですかね?」
「そう!それを魔獣というのです!なんだ会っているのではないですか!」
お嬢様が少しうれしそうに目を輝かせている。これはなかなかレアな。
『やはり、保存されますか?』
IIS、お前ちょっと・・・、ナイス。
「はい、それらでしたら見かけましたが。」
「それなら、何故その死骸が道になかったのです!彼らは腹が満ちていない限り、必ず襲ってくるはず。なのに貴方はその腹に収まっていない。しかも、その外見から察するにあなた弱いでしょう!それで無傷とは何事です!自然の摂理に反しますわ!弱肉強食の掟に反してしまいますわ!」
何気にひでぇなこのお嬢様。おれは獣の胃袋に消化されてないとおかしいということらしいな。
しかし、これで合点がいった。なぜ、無防備にこのお嬢様が現れたか。それは道に魔獣とやらの死骸が落ちていないことからこの温泉には誰も着ていないと判断したのだろう。
「そりゃ、逃げたからですよ。」
「嘘です!彼らの視界に入った瞬間、あなたの逃げ足では追いつかれてしまうでしょう?」
あんたは俺の何を知ってるのだ。でも確かに俺の脚では逃げ切れんわ。
「はい。ですから見つかる前に逃げました。」
「は?」
お嬢様はまたフリーズしてしまっている。
少々お待ちください。
解凍中です。
「見つかる前にどうやって相手を見つけるのです!風の精霊術による探知では相手に自分の匂いを届けてしまうので魔獣の嗅覚で気づかれてしまうでしょう?まさか光の精霊術を使えるとでも?」
どうやら解凍されたらしい。
「いえ、赤外線処理と指向性ナノマシンによる探知ですので匂いは風下にいる限りは大丈夫です。このあたりの気象データはあらかた入手しましたから風の方向はある程度予測可能ですし、あとはその間を縫っていくだけでたどり着けましたよ。」
「はい?」
とことんかみ合わない二人であった。
つづく。
(続くのか?これ。)
書いてはみたが、
色気シーンにはならない。
恥ずかしくて
書けない
字数は少ないですが切がいいのでこの辺で。
いいのか?
いいんです。