表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械化少年の異世界史  作者: 噛ませ犬
第4章 帝国編 2
26/64

帝国編:第七話 何か背中を押してくれる言葉が必要なときもある。。。かもしれない

 一人の男が途方にくれていた。影の薄さに定評のある我らが主人公、前田義弘君である。彼は今、探し物をしていた。大事な探し物である。自分探しではない。そんなものは五年ほど前にすでに永遠に見つけることはできないという事実を発見している。そう探しているのは金、糊口をしのぐ手立て、ありていに言えば働き口である。


 何故このようなことになったか。

 この男、就職活動を一年後に控えていたがまだ考えたことは無かったのである。しかし、耳学問として何をすればいいかは知っていた。


 1.自分のアピールポイントを考える。

 ○ナノマシンによる超感覚

 ○IISによる演算能力

 ○ナノマシンによる干渉能力

 ○上記を組み合わせた鑑定眼


 結論:ナノマシンとIISだのみである


 2.上記を踏まえて自分の能力を何に生かせるのか

 ○わっかね。


 そうそこなのである。このセカイ、というかこの町の生活がまったく分からん。何が求められているのか観察せんことには何も決められんではないか!そこで町の実態調査をすることにしたのである。


 まず、なにが求められているのかと言えば第一に衣食住であろう。そこで衣類について観察を始めよう。

 以下は前田義弘の観察記録である。


 【テバイ観察記録】


 『衣類について』


 まず服飾関係の店をさがしてみた。

 結論から言おう。そんなものは無かったのである。

 ははは。衣類は布を購入し、自宅で作成するのが普通だそうです。もっと大きい都市にはそういう店もあるらしいですがこの街には無いとのこと。(シンシアさん談)


 というわけで布屋に来ました。

 布分厚!肌触り悪!織り目汚い!と思いつつも声には出しませんでした。

 話を聞くと動物の毛から縒りだした糸を織り機をつかって織ったものだそうである。これまた各家庭で暇なときに織るといった具合のものでつまり、織る人によって製品の出来に差があるということである。手工芸品の限界か。しかし、○○○さん家の布はいいといううわさがあり、その作者の名前で布を頼んだりするらしい。人間国宝!


 次に糸はどこで作っているのかといえば、その動物を飼育している牧場がありそこで糸の作成もしているらしい。飼っている動物の爪の先から内臓まですべて無駄なく売るそうである。ただ、この動物、毛を取ることが目的に飼われているものではなく、食肉用の動物で糸つくりは副業のようなものだとか。この様子だと植物や蟲の繭から糸は作っていなさそうである。


 とかの何とかつぶやいていたら店のおっちゃんや牧場のおっちゃんがしきりに感心して古い布とか糸とか染料をくれました。俺はそんなに哀れか!と逆切れせずにありがたーくいただきました。


 (結論)

 服飾関係は布の作成に用いている織り機を改良の余地がある。このあたりはイレーヌさんあたりのほうが詳しかろう。

 糸の作成についてだが作成時に熱処理したほうが細く滑らかな糸を作れるのではないか。他の材料も考えたほうが良いと思う。これもイレーヌさんあたりのほ・・・以下略。



 『食』


 まず食堂的なものを探してみた。まぁ、探すまでも無く昨日食べたところに行ったのだが。

 結論、食堂は宿屋と兼ねているところがほとんどであり、客は宿屋の住人。夜は酒場に変わるので宿屋の客以外も入る。収入は酒場の収入と宿代がほとんどらしい。さもありなん。一般家庭は自分で作るものな。食文化がそこまで発達してないし。


 食材はどこから調達しているのかといえば農家と契約しておろしてもらっているらしい。なるほど。

 ちなみ一般家庭では市場に農家が並べているのを交渉して買っているらしい。時期によって相場の変動が激しいらしい。


 酒はどこで作っているのか?なんと酒蔵を領主が経営していた!さすがである。おいしいところはきっちり専売にしてやがるなどと色眼鏡で見る無かれ!おそらく酒の製造量を制限してアルコール依存症の患者を少なくしようという親心なのだと思いたい!


 調味料は塩と山で取れる山椒もどきだけである。私としては胡椒がないと料理に味気が無くて困ると思うのだが。


 油は畑のアブラナもどきから取られたなんちゃって菜種油である。非常にくさい。


 このなんちゃって菜種油を精製したほうがいいんじゃないかとか何とかつぶやいたら、農家のおっちゃんがしきりに感心して菜種の入った箱を1箱くれました。


 (結論)

 味付けで進歩しなければ調理の分野に発展はない。

 材料に関しては油の精製を如何にかしたほうがいい。これもイレーヌさんあたりのほ・・・以下略。


 『住』

 

 大工というかそういう職業の人、いるんですか?

 いました。レンガ積み職人さん、左官屋さんなどの人たちが組合を作っているらしいです。


 アーチ構造とか材料にコンクリートとか使わないのかなとか思っていたら、口に出ていたようで職人さんがしきりに感心し、机と椅子とナイフをくれました。


 (結論)

 組合は閉鎖的で内部まではよくわかりませんでした。


 泣きたくなるくらい自分のポイントを生かせないという結論に達した。そこで途方に暮れたのである。


 布屋のおっちゃんにもらった古い布を牧場のおじさんにもらった糸で縫いあわせ大きな布にしてテントを造り、職人さんにもらった机と椅子をテントにおいて椅子に座りながら途方に暮れているとある夫婦が近づいてきた。

 「こんにちは」

 よく見ると昨日、愚痴をこぼして財布を丸ごと置いていった豪快な奥さんとその夫と思しき男ではないか。何をしにきたのだろうか?やっぱり財布返せとか、この詐欺師とか、好き勝手いいやがってこのやろうとかいわれるのだろうか?

 「君のおかげで妻と仲直りできたよ。ありがとう。」

 「あなたのアドバイスおかげで夫と素直に話し合うことが出来たの。感謝してるわ、占い師さん。」

 「はぁ、それは良かった。」

 「これは改めて御礼にと思ってもってきました。受け取ってください。」

 思わず受け取るとそれは紙であった。

 「僕は紙職人なんです。それくらいしかお礼に渡せるものが無くて。本当にありがとう。」

 そうして夫婦は見ているこっちが幸せになりそうなくらい幸せな空気を垂れ流して去っていった。かなりの量の羊皮紙を残して。


 何を思ったのだろう。もらった染料を使って羊皮紙に絵をかいた。占い師といわれたからだろうか。タロットカードの図柄で絵をかいた。それをナイフで適当なサイズに切りそろえカードにした。なにをやっているんだ俺は。


 そうこうしていると三人の俺より7つくらいの下の年頃の娘さんがやってきた。

 「ここ、よくあたる占い師がいるって聞いてきたんですけど。」

 なんですと?わけが分からん?あの夫婦がうわさをばら撒いたのか?考えられる。幸せたっぷりに語りそうだ、あの夫婦。

 「はいはい、そうですよ。」

 もはや自棄である。途方に暮れて多少やさぐれていたのだろう。このときの俺はどうかしていた。

 「やっぱりそうだよ!占ってもらっちゃいなよ!」

 いったい占いに何を求めるというのだ、結局占いはその人の不安、不満、願望などを言葉にしてそれにあった一般的に上手くいくとされる対処法を語れば安心するというちょっとしたストレス発散くらいの効果しかないぞ。

 「・・・悩みがあるようですね、真ん中の娘さん。」

 悩みの無い10代などいない。それに占ってほしそうなのは真ん中の子だった。それだけである。それを物々しくいかにも占い師の口調で言ってみた。ノリノリである。

 「そうなんです!実は・・・。」

 「恋・・・ですね?」

 10代の悩みは家族か友人か恋などの人間関係である。そのなかで占いに頼りに来るのは何か?恋である確率が一番高い。それにさっきからA-10神経から周りの細胞にドーパミンを放出しているのでこれは恋愛がらみと推察がつく。何より顔に書いてあるんだよ、絶賛恋愛中と。

 「そうなんです!彼のことを考えると幸せでこっちを向いてほしくて・・・」

 彼女は勝手に彼のすばらしさについて滔々と語り始めた。どうやら彼は鍛冶職人でたくましく、頼りがいのあるごつい男らしい。実名を出すのは問題があるので彼をAと呼ぶ。ナノマシンを飛ばすとA君はたしかに鍛冶屋にいた。なるほどいい筋肉してやがる。顔の作りもよい。ほれるのも納得である。親方とは親子であり、仲が良いことが会話の端々に見られる。性格は職人堅気で頑固そうだ。こいつ、すでに鉄と結婚してやがる。

 「なるほど。彼は堅物でなかなかあなたに関心を向けてくれそうにない。」

 「そうなんです。どうしたらいいでしょうか?」

 知るか!という心の声を内に秘めつつ

 「では占って進ぜよう。」

 さきほど作ったたろっとカードもどきを混ぜる。すべてのカード位置は把握しているのでむちゃくちゃにかき混ぜているように見えて所定の位置にカードがやってくるように混ぜることも容易である。

 「これは!」

 「どっどうですか?」

 「戦車の逆位置と吊るされた男の正位置と死神の逆位置・・・」

 「なんだか不吉な絵ですね。」

 彼女がすでにあきらめモードに入ってしまった。

 「まぁ、お待ちください。このカードにはそれぞれ意味がありまして。カードの向きによって意味が異なるのですよ。戦車の逆さの向きだと暴走と挫折、吊るされた男の正の向きだと自己犠牲と忍耐、死神の逆さの向きだと死からの再生とやり直しという意味になります。つまり多少強引でもいいんで彼に頻繁に会いに行くことです。それで堅物な彼は疎ましく思いあなたを遠ざけるでしょう。そこで彼に会いに行くのを忍耐強く耐えるのです。そうすれば彼があなたという存在の大切さに気づき、恋心が芽生え二人は結ばれるでしょう。」

 「本当ですか!?」

 「本当ですとも!」

 知らんがな、という本音は隠しつつ適当なことを言ってお茶を濁していた。

 「ありがとうございます。これ少ないですけど、料金です。」

 「これはこれは、ありがとうございます。」

 もはやこれはお参りに来た学生がお布施を払っていっているようなもんだなとか考えつつ金を受け取っていた。

 

本日の稼ぎ:

古い布

染料

菜種1箱

机 

椅子

ナイフ

羊皮紙

金(5デナリウス=5000円)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ