帝国編:第六話 誕生
仕事探しをしていたらもう昼の鐘が鳴ったので昼食をともに食べるために一行はいったん集まった。
「さて、ご飯を食べますか。」
「あ、そこの塩とって。」
「はいはい。」
「おい、リチャード。皿に服かかるぞ。気をつけろ。」
「あ、すんません。」
「この煮物おいしー!」
「え、ほんとに?一口もらえませんか、トモエさん?」
「いいよー。」
「あの、勝手に肉取らないでくれますか?イレーヌねぇさん?」
「あぁ、すまんな。うまそうに見えてつい・・・な。」
「つい・・・なっじゃないですよ。ひどいじゃないですか。最後の一個だったのに。」
「あぁー、皆さん。仲良く食べましょう。」
かなり騒々しい食事の後、職探しの結果を報告しあった。
「なんだ。結局皆さん決まったんですね。職。俺はぜんぜん見つかりませんでしたよ。今日は親切な人にお金を恵んでもらえましたけど。」
「そうですねぇ。まぁ、定職につけばいいってものでもないですし。我々も雇い続けてもらえる保障をもらったわけでもないですしね。」
「まぁ、何事もないのが一番いいが。」
「お店に来てくれれば、少しくらいは融通利かせてあげられるかもよ。」
「・・・いい、なんかヒモみたいだから。」
「手伝おうか?何なら自警団の口を紹介してもらえるかもしれないし。」
「・・・それもいいですが。やっぱり自分で探したいですから。」
「そうか。」
皆がヨシヒロを哀れみを込めて見つめていた。
その数日前。
「さて、白き麗しい領主は忙しくて面会できないということだから先に赤い髪の乙女に会いに来たよ。」
「誰に説明している。まったく。女なら誰でもいいのか、己は。」
「いやー、今回は候補が二人とも女性でいいねぇ。」
「いっぺん死ね。」
「・・・口が悪いね。どこで教育を間違えたかなぁ。」
「お前が言うな!」
「・・・何しに来たんだ、お前たちは。」
呆れ顔でシンシアはため息をついた。
「うん、君が精霊の申し子だとかよばれているといううわさを聞いてね、どれほどのものか見に来たんだ。」
「あんた、少しは隠しなさいよ。」
「馬鹿だなぁ。戦略級に小細工は無用だよ。純粋に力だけで圧倒できるようでなければ戦略級の名に値しないよ。」
「確かにそうだけど。」
「なんだか知らんが私は興味ないよ。」
「いや、君に無くとも私にはあるのさ。戦略級は基本的に王権以外に屈しないですむ。公職に就く必要は無い。いや、むしろ就くことが難しくなるくらいだ。」
「今の生活で十分満足しているよ。」
「うん。性格は合格かな。戦略級は良くも悪くも揺るがないからねぇ。」
「協調性が無いだけだろう。」
「そうともいう。さて、おしゃべりはここまでだ。その美しい体はできるだけ傷つけないようにするよ!」
言い終わると同時に突然、風が吹き荒れ回りの木々をなぎ倒していく。
「な!」
息つく暇も無くシンシアの体ははるか上空へ運ばれた。
「降参すれば安全に降ろしてあげるよ~。」
「誰が!」
シンシアは大地に落下する寸前に下に向かって衝撃波を放ち反動で落下の衝撃を殺して着地した。
「おー、やるね。でもまだコントロールはできてないみたいだね。」
「・・・いい加減にしてよ。」
シンシアを中心に重力場が周りの森の木々をなぎ倒しながら広がっていく。
「これは・・・すばらしい。一定の空間の重量を操れるのか。こんな力は聞いたことが無いよ。神の決めた摂理を操る力だ。こんな辺境まで来てよかったよ。」
「こら、アリ。あたしの心配はなしか!」
「アル、君も戦略級の補佐ならこれくらい余裕だろ?」
「あんたらとは『世界』への影響力が違うんだよ!このままじゃ、私の体にあいつの力の支配力が及んでつぶされちまう。」
「しかたないなぁ。離れたとこれで見物してなさい。」
「ってまさか・・・」
アルの止めるまもなくアリはあるの体を遠くへやさしく飛ばしていた。
「あとで覚えてろ~。」
「仮にも戦略級同士の戦いに補佐官クラスじゃあ下手したら軽く死ぬからねぇ。さて、ほぼ合格といっていいんだけど、そういってもさっきの様子じゃあ、戦略級に登録してくれないかぁ。」
「なに独り言をぶつぶつと。男らしく堂々としなよ。」
「これが性分なもんで。じゃあ趣味じゃないけど堂々と力ずくで納得してもらおうか。」
「やってみろ!」
二人がぶつかり合っている様子を遠くから覗いているものがいる。アルではない。同じ様式の服装で身を包んだ集団の中で一人、黒づくめの男であった。精霊の紋章の周りを囲むように各領邦の紋章が縫いこまれていることから共和国の軍隊と知れた。周りは彼の指示を待ち静かにたたずんでいる。
「・・・事前情報に無かったな。『流雲のアリ』がいるとは。」
「彼の男は行動が読めない男でして。しかも最近テバイ内に潜入していたものたちが軒並み消息を絶ちまして・・」
報告していた男が言い訳をしていると
「言い訳を聞きたいわけではない。私が聞きたいのは正確な鮮度の高い情報だ。それを届けられない諜報員には用は無い。」
黒尽くめの男がちらと報告していた男を見た瞬間、黒い棘が男の股から体を突き刺した。
「・・・撤退する。」
部隊は現れたときより静かに整然と撤退して行った。
彼は戦略級とはいうものの森の未熟な小娘と統治のためテバイから出られない引きこもりの姫なら打ち破る自信があったからこその出陣だった。しかし、ここに帝国でも五指に入るアクリシオスがいることで状況が変わった。太古の昔から戦略級は誰かに従うような者はおらず、また誰かを従えようと思うものもいなかった。それが精霊の趣味なのか精霊とシンクロしやすい性格がそうなのかは分からないが、その中でも特に束縛を嫌うのアクリシオスである。やつの目的を知ることは無意味と割り切っていた。そんな不確定要素に加え、テバイに進入した間者との連絡が取れなくなっている。
「今、これまでと同じと思い攻めるのは危険だな。」
苦々しげな顔をしながら黒尽くめの男はつぶやいた。
「いい加減あきらめろ!」
「いやいや、君みたいな子が入ってくれるとこの国も少しは面白くなる気がするんだよね。」
「・・・口で言っても分からないようね。」
「口でキスしてくれたらあきらめるかもよ。」
「・・・もういい。」
シンシアは重力制御により岩石や巨木をアリに向かって飛ばしていたが、アリはそれを風で軌道をそらしいなしていた。
「よけてるだけじゃ何にもならないよ!」
シンシアが叫ぶとアリを下の大地ごと持ち上げひっくり返した。
「ちょ・・・それ反則・・・」
地響きがあたりの砂埃とともに広がって行った。
「これで・・・」
地面が風で吹き飛ばされ無傷のアリが現れた。
「終わりなわけないか。」
「いや、これで終わりさ。」
「もうあきらめたのかい?」
「いや、君は戦略級と認め登録を行うよ。」
「面倒はごめんよ。」
「なに、すぐ済むよ。君はもう精霊術を使えないしね。」
「何・・」
シンシアが精霊術を使おうとするが少し土が盛り上がっただけだった。
「精霊術は術者の精神力で行う。精神力が切れれば当然使えない。君は今まで全力で使ったことが無かったから精神力切れの経験が無かったんだ。ちゃんと制御しなきゃ無駄に力を使ってしまっているからこうなるんだよ。」
「・・・どうする気だ。」
シンシアは抵抗をあきらめていた。
「なに、戦略級の証をその体に刻んだ後書面にサインしてもらうだけでいいよ。」
どこから取り出したのか書類がアリの手に収まっていた。
「・・・わかった。その代わり・・」
「その代わり?」
「私に精霊術を教えて。できるだけ早く。私はここを守らなきゃいけないんだ。そのための力がほしい。」
アリは少し興味ぶかそうにシンシアを見つめた。
「君は戦略級には珍しくしばられているのかな?」
「いや、私はここが好きだからそうするだけさ。」
「分かった。私のできる範囲で教えて差し上げよう。」
「・・・約束だぞ。」
「もちろんさ。約束は守る。」
いつに無く真剣な表情でアリは答えた。
アリはシンシアの手をとると手の甲を撫で
「ここにアクリシオス=アネモス=ヴァシロプロの名においてシンシアを戦略級精霊術師と認定する。」
と唱えると、シンシアの手の甲に紋章が浮かび上がった。
ここに帝国の十六番目の戦略級精霊術師が誕生した。
「さて、次はお姫様かな?」