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機械化少年の異世界史  作者: 噛ませ犬
第2章 帝国編 1
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帝国編:第四話 曲がり角にご用心

 ~トモエの場合~

 トモエは途方にくれている。トモエは働いた経験が無い。仕事探しは困難を極める。アルバイトは派遣団体に登録しておけば簡単に見つかる世界から来たトモエにとって仕事探しは未知の領域なのだ。そこで途方にくれていると突然声をかけられた。

 「ねぇ、君かわいいね。この辺じゃ見ない顔だけど外から来たの?」

 「ええ、まぁ。」

 男は年若くおそらく二十台。童顔なので実際よりは若く見えているかもしれない。青い髪をした優男である。トモエはこの男からは悪い予感はしなかった。

 「だよねぇ。この辺の人には見られない肌の色してるし。」

 「あなたはこの辺の人?」

 トモエは不思議に思っていた。このあたりの人は普通生まれた町を出ない。出るのは一握りの人間だ。行商人や各国の使節や伝令くらいである。行商人と言っても街道もまともに整備されておらず設備も整っていないこの地域に来る行商人はほとんどいない。「魔物」とこの国で呼ばれている化け物や盗賊の類も出没し、それらに対策も取れていない。辺境には辺境にしか取れない産物もあり、それらを目的とした一部の大商人が新しい市場の開拓と地方の産物を求めて護衛を連れてやってくるのが普通である。

 ではこの人は?見たところ商人とはとても思えない軽装で、洒落ている。護衛にしては武器も防具も無い。何者かわからなかった。

 「いや、各地を旅している吟遊詩人といったところかな?」

 「そうなの。てっきりどこぞの商人のお坊ちゃんかと思ったわ。」

 ますます胡散臭い。吟遊詩人の需要は確かにある。このあたりは娯楽(刺激)に飢えている。しかし見入りも少ないのもまた事実。危険を押してまで吟遊詩人がくるような場所ではない。いくら辺境領の主要な町のであるここテバイとはいえ消費は芳しくない。

 「いやぁ、手厳しい。確かに私は吟遊詩人ではないが見聞を広めるために旅をしているのは本当だよ。」

 「一人で?お強いんですね。」

 「ああ、私は強いよ~。何せ帝国に十五人しか確認されていない『戦略級』の精霊術使いだからね。」

 「戦略級?」

 「ああ。一概には言えないが、一人で万軍にも値すると認められた者のことだよ。この辺境領に二人も『戦略級』候補がいると聞いて見に来たんだ。」

 「へ~。」

 

 男は目の前の少女に興味を持ち始めていた。最初は外から来たと思しき少女が一人歩いていることを不思議に思った。近づいてみると黒い髪と目をした神秘的な少女であった。これはお近づきにならなくてはと思い、声をかけた。彼女は手のひらも爪もきれいなもので、とても肉体労働をしている立場とは思えない。どこかのお嬢様だろうか。それにしては共もつれていないようだし、何者か分からずにいた。

 その黒い瞳に見つめられるとすべてを見透かされている気がする。聞いてくる質問が一々自分の隠そうとしているところをついてくるのでこの娘には嘘はつけないと悟り正直に話すことにした。

 

 「ってなにばらしとんじゃ~。ワレコラ!」

 白髪をした十歳程度の少女が青い髪の青年にとび蹴りを食らわしていた。

 「何すんだ、こら。痛いじゃないか。」

 「そら痛いようにしたものな。こんくらいじゃなきゃお前へこたれないじゃないか!」

 もうこの少女すでに泣きそうである。彼女をこの青年のお目付け役としてつけた人間は青年の女子供に甘い性格をよく把握しており、彼女がこの青年の突拍子も無い行動をうまく抑えること期待していた。

 「ごめんよ。一人にして。さびしかったろう?」

 「子ども扱いスンナ。あんたが勝手にあちこちふらふらふらふら。いい加減にせいよ。」

 「ごめんごめん。でもこれは僕の性分のようなものだから。」

 「はー、分かってるけどさあんたがそういうやつなのは・・・。で?だれ?この女?」

 「まだ、名前も交換していないけど。外の人ってことは確かかな?」

 置いてけぼりにされていたトモエがいきなり話題を振られたので、少し肩を震わせた。

 「えーっと、ヒトツバシ トモエです。よろしく。」

 「私はアクリシオス=アネモス=ヴァシロプロだよ。アリと呼んでくれ。」

 「アルクネーメ=ケイモーン=カラジアスだ。アルでいいよ。うちの馬鹿ぼっちゃんが迷惑かけたね。見たところどっかのお嬢様だろ?屋敷まで送っていくよ。」

 「いえ、私は今仕事を探しているんです。どこか仕事を探せるところは無いですか?」

 何を勘違いしたかアリが気遣わしげな顔で

 「それは大変だね。よし私の使用人として・・・。」

 「馬鹿いってんじゃない!あんたはいっつもその調子で!あんたの家はもう使用人でいっぱいじゃないか。探す手伝いだけしてあげりゃいいんだよ!」 

 「・・・わかったよ。」

 「ありがとうございます。」


 「どうだい店主?彼女ならこの店の看板娘になること請け合いだ!この黒髪、黒目!神秘的ですばらしいだろ?彼女を雇わないか?」

 女性をプロデュースさせたら右に出るものは無いだろう。

 「うーん、うちも結構厳しいくてね、あんまり余裕はないんだよ。歌でも歌えりゃ別だが。」

 「歌えるかい?」

 さも歌えるよねみたいな聞き方をしてくる男である。

 「まぁ、歌えますけど。」

 説明しよう!いまどきのカラオケは点数をつけるだけではないのである!声の質にあった発声の仕方をIISにダウンロードできるのだ!しかも声質にあった歌まで紹介してくれる機能まであるのである。そして彼女はほかの高校生の例に漏れずカラオケが通いをしていた。

 そこで彼女はブームから少し外れたしかしノリのいい曲を無難に歌い上げ店は大盛り上がりになった。もちろんOKが出たことは言わずもがな。

 「ふむ、やはり私の専属歌姫として・・・」

 「しつこい!」


 一橋 巴:元高校生。現在 歌って踊れるウエイトレス。絶対勘の少女。


 ~前田義弘の場合~

 しかし、この世界にどんな職種があるかまったく分からん。はっきりいってトモエと同様にヨシヒロも途方にくれていた。道ばたに座り込んで道行く人を眺めていた。

 「あなたこんなところに座り込んでどうしたの?」

 あまりに哀れに思われたのか心配そうに年若い女性が覗き込んだ。

 「いえ。別にこれといって・・」

 この人、心臓に疾病があるな。それにピアスを両方にしている。既婚者だ。(この世界では成人すると耳にピアスを片方にする。そこでペアになるピアスを交換し合うことで結婚が成立するのである。)ピアスの後からして結婚二年目ってところか。脳内物質の成分からすると慢性的なストレスにさいなまれているな。

 「あなたの方こそ何か悩みがあるんではないですか?」

 「そんなもの、ないわ・・。」

 そう言いながらピアスに手を当てている。

 「そうですね、たとえば二年前に結婚なさった御夫君のことなどで。」

 「な!いいがかりをつけないで頂戴!・・・なんで結婚二年目って分かるの?初対面よね?」

 「ええ、初対面です。しかし私には分かるのです。あなたの悩みが。あなた最近胸の辺りが苦しくなったり、急に立ちくらみがしたりしていませんか?」

 よく言うよ・・

 「ええ、そうなのよ!最近、ちょっと動くとめまいがしたり胸が痛むわ。」

 「それはあなたが悩みを抱えているからです。ささ、思う存分胸のうちを吐き出してください。」

 それから最近夫が冷たいだの姑がいじめるだの愚痴を延々聞き、これからどうすればいいかを適当にそれっぽいことを伝え、これから起こることとその対策を適当にでっち上げて伝えた。そしてナノマシンを女性の体内に忍び込ませ心臓の疾病原因を除去した。

 「分かったわ。夫がもうすぐ行きつけの飲み屋の看板娘と浮気するのね。それでその看板娘にこっぴどく振られるのね。」

 「ええ、ですのでまだ怒っちゃいけません。看板娘に振られるまで耐えるのです。振られたところをやさしくしてあげれば御夫君もあなたの元に戻ってきます。」

 「わかったわ、ありがとう!おかげで胸のつっかえも取れたようだわ!」

 「それはよかった。」

 「これ少ないけど取っといて!」

 といって財布後と丸々よこて走っていった。

 よくあたる占い師だの人生相談者だの病気を治す名医だの奇跡の人だの言われる人間が現れたのはこのあたりである。


 前田義弘:元大学生。現在占い師、人生相談室、医者、奇跡の人。超感覚男。


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