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機械化少年の異世界史  作者: 噛ませ犬
第2章 帝国編 1
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帝国編:第三話 職安にいこう

 屋敷を夜に徘徊する人影が一つ。その影は気配を完全に消し、足音を立てずに領主の寝室に忍び込もうとしている。扉の前までたどり着いたその瞬間、突然闇と同じ色の髪をした青年が話しかけてきた。

 「おい、女性の寝室に夜分遅くに何のようだ?」

 その青年は兵士にはまず見えない。武器も防具も身につけず、身構えてもいない。刺客は青年を屋敷の単なる客人の一人と判断し、息の根を止めにかかる。

 その判断は正しい。確かに彼はこの屋敷の客人である。しかし、この刺客たちは間違いを犯した。単なる客人ではなかった。

 刺客が襲い掛かると、青年は驚いた風も無くあたりを照らしていた蝋燭の灯を消した。

 その瞬間、刺客は青年を見失った。いくら夜目が利く刺客も突然の光の消失には対応できない。気づく間もなく刺客は気を失った。


 「どう?うまくいった?」

 「ああ、どうすればいいのか分からなかったから連れてきた。」

 ヨシヒロの後ろに確かにいた。無造作に引きずられながら。

 「・・・ひどくない?」

 「抱きかかえることもできなくて。引きずるしかなかったんだ。台車も無かったし。」

 

 「・・・それでこれがその刺客ですか。」

 今後この刺客をどうするかヤンたちアダルト組に相談するためトモエとイレーヌの女性部屋に集まっていた。

 「どうしたらいいですか?」

 「捨ててきなさい。」

 捨て犬を拾ってきた子供をしかるようにヤンは言った。

 「ええ!」

 「まぁ、それは冗談ですが。」

 「・・・冗談なんですか。」

 「冗談です。まったく。私たちに一言も告げずに。何かあったらどうするつもりだったんですか?」

 「・・・ごめんなさい。」

 「無事だったからいいですけど。」

 「ただ引き渡したらあの人はどうなるんでしょうか?」

 「この辺境領の法では領主を害そうとした者はよくて投獄、悪くすれば縛り首です。」

 「そんな!」

 「あとは領主さんのさじ加減しだいですね。各邦領はそこの領主に裁量を任されているようですから。」

 「そうなんですか。」

 「心配なのは刺客だけじゃない。」

 イレーヌが眠たそうな目をしている。

 「??それはどういう?」

 「私たちが夜間に部屋から出てしまったことを言及されるかもしれないのですね?」

 ヨシヒロが気になっていたことを口にした。

 「そう。刺客を捕らえた以上、隠し通せない。おそらく刺客を捕らえたことで不問にしてくれるとは思うが。」

 「確かに、そうですね。」

 「ま、大丈夫だろう。ただ警戒が強くなるかもってだけの話さ。君たちはよいことをしたのだから気に病む必要は無いよ。」

 そうして刺客は領主に引き渡された。


 「・・・以上の経緯により怪しい者を捕らえております。」

 「わかった。ご苦労。刺客からは背後関係を聞き出せ。多少荒っぽくやってもかまわん。だができるだけ生かせよ。自身の手先のものが捕らえられているというだけで相手に圧力を与えられるからな。まぁ、死体でもそれなりに利用価値はあるが。」

 「は、了解いたしました。それで刺客を捕らえました例の異邦人はどういたしましょう?」

 「彼らか。彼らは夜中に室外へ出てしまったが、刺客を捕らえたことで不問ということにする。むしろこちらから礼をせねばならんな。十分な支度金を褒章として与え、自由にさせてもよいだろう。」

 「分かりました。そのように手配いたします。」

 「ああ、私から話すから面会室に呼んでおいてくれ。」

 「了解しました。」

 

 執務室でエオスは一人で昨日の夜の出来事を思い出していた。エオスは自身の光の精霊術により寝室の前の光景を映し出して見ていた。

 エオスは基本的に精霊術による能力は透視、遠視、幻術が主で、戦闘向きではない。刺客が入ってきたとき、光によるかく乱と幻術により逃げる準備をしていた。

 そこに予想外の人間が現れた。シンシアからあの者たちの特殊性は聞いていたがまさか刺客に気づき、待ち伏せるとは。その後の動きにも驚いた。まったくの暗闇でのあの者の動きはスムーズで暗闇をものともしないものであった。あらかじめ刺客の動きが分かっていたかのようであった。その時の暗闇にひっそりたたずむ青年の姿が目に焼きついて離れなかった。


 「昨夜はありがとう。おかげで助かった。」

 「いえ、当然のことをしたまでです。ただ一つお聞きしてよろしいですか?」

 「何?」

 「昨日捕まえた者はどうなりますか?」

 「まあ、事情を聞いてからおいおい決める。悪いようにはしない。」

 エオスは笑いながらそういった。

 「そうですか。」

 トモエはほっと安堵の息を吐いた。

 「そなたたちには支度金を褒章として与え、自由にしてもらおうと思う。この辺境領、ひいては帝国の法に触れなければな。」

 「本当ですか?!ありがとうございます。」

 「礼には及ばんよ。そなたたちのこれまでの行動からすれば当然の措置だ。幸運を祈る。」

 「ありがとうございます。領主様も御身安らかに。」

 「ああ。ところで仕事に困れば私のところで働けばよい。それなりの待遇を約束するぞ。屋敷のものでも気づけなんだ侵入者に気づき撃退したのだからな。私はそなたたちを高く買っておる。」

 「ありがとうございます。」

 

 「私に仕えよと命令することもできたけど・・・」

 エオスは面会室で一人つぶやいた。


 「さて。いきなり自由になったけどどうする?」

 「仕事を探さなければ。何もしなければ一年ほどで干上がってしまう。」

 「職安なんて無いですよね。」

 「手分けして探して見ますか?で昼ごろ集合してみるというのは?」

 「そうしましょうか?こちらの職業事情をよく知りませんし。」

そうして五人はいったん別れ仕事探しに向かった。

一橋 巴:元高校生。現在無職。絶対勘。

前田義弘:元大学生。現在無職。超感覚。

リチャード・ジョーンズ:元俳優。現無職。変態もとい変体。

イレーヌ・トレスカ:元エンジニア。現無職。不明。

ヤン・オールト:元研究員。現無職。不明。



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