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9 使い魔

今日は2話目の投稿です。

 暫くして衝撃から立ち直った俺たちは、ベッドの上でピザに齧り付きながら、支給されたスマホの中身を確認していた。


 ちなみにうつ伏せに寝転がって足をプラプラさせてるのは俺で、龍之介はきちんと正座をしている。こういうところに日頃の育ちというか性格が如実に現れるんだな。


「使い方は普通のスマホと変わんないな。あ、これ美味い。俺これ好きかも」

「この肉のやつ? ……あ、うま。自分のステータスもここで確認できるようになってるよ」

「ステータス? どこ」

「ここから見られるよ」


 マジでゲームみたいだなあと思いながら、龍之介のスマホを覗き込む。龍之介はすっかり慣れた手つきで、ホーム画面からの出し方を教えてくれた。俺の親友は呑み込みが早くて助かる。


「……お、出た出た!」


 表示された俺のステータスは、こうだ。


谷口亘 18歳 男性

レベル 1

身長 164センチ(165センチは詐称)

体重 50キロ

HP 100(初期値)

MP 100(初期値)

状態 状態異常(女体化)

♡値 ♡

ペア 及川龍之介


「亘、身長詐称してたの?」

「うっせ」


 どうしてバレたんだ。心の中で舌打ちをした。


 それにしても、状態異常、女体化って。改めてこう書かれると、なんかイラッとするな。


 そして、気になるのがもう一点。


「なあ、この♡値ってなんだろうな?」

「さ……さあ、僕にもさっぱり」


 龍之介に尋ねると、龍之介は目線を自分のスマホに落としながら肩を竦める。


「龍之介のステータス画面も見せて」

「あ、う、うん」


 覗き込むと、龍之介は素直に見せてくれた。


及川龍之介 18歳 男性

レベル 1

身長 188センチ

体重 70キロ

HP 100(初期値)

MP 100(初期値)

状態 

♡値 ♡ ♡ ♡ ♡ ♡(最大値)

ペア 谷口亘


「……♡値が最大値になってるけど、意味分かるか?」


 横目で見上げながら尋ねる。


「えっ、ぜ、全然分かんないなあっ! な、なんだろね!? あは、はははっ! あの神竜の作ったゲームだしっ、おかしなところばかりだしね!」


 龍之介はどこか不自然な笑いを浮かべながら、ブンブン首を横に振った。


「言われてみりゃそうか。初っ端からおかしいもんな、アイツ」

「だよね! ま、問題なさそうだし気にせずいこうよっ!」

「だな」


 それにしても、今日は色んなことが起きた。俺と龍之介が日本のペアに選ばれたのも、きっともうとっくにニュースになっている筈だけど、家族は心配……してるよなあ。間違いなく。


 取り乱す母さんを想像したら、胸の辺りがギュッと変な感じになった。だけど、ここであまり考えすぎても仕方ない。意図的に意識を向けないようにした。


 ピザをペロリと食べ切った俺を見て、龍之介が頷く。


「じゃあ僕はもう少し中身を詳しく確認しておきたいから、亘は先に風呂に入って歯磨きしておいでよ」

「え? なら俺も――」


 身体を起こした俺の肩を、龍之介は押し留めるように掴んだ。


「亘をちゃんとした状態でダンジョンから脱出させるのが、僕の使命だから。亘はしっかり寝て、英気を養って」


 穏やかな、だけど有無を言わさない微笑みを浮かべた龍之介を見て、「あ、こりゃおかんモード突入だ」と悟った。


 こうなると頑固になるので、俺のでもだっても効かなくなる。


「……僕は男のままじゃないか。だから、亘を守るのは僕の責任だ」

「責任てそんな、別に龍之介のせいじゃないだろ」


 だけど、俺の言葉には龍之介は応えることなく。


 微笑みをたたえたまま、目線をスマホに向けてしまったのだった。



 風呂に入って改めて自分の女体化した身体を見て、少し泣けた日の夜。


 気疲れもあったんだと思う。真剣にドラゴン支給のスマホを確認している龍之介を眺めている内に、いつの間にか寝落ちしていた。


 ちなみに自分の元々のスマホは何故か電源すら入らない状態になっていたので、今は鞄の中に静かに収まっている。


 夢の中で、俺は家に帰れていた。夢でよかったって泣いたら、母さんが「寝惚けちゃって」なんて笑って、俺も笑い返していた。


 だけど穏やかな夢は、突然鳴り響いてきた騒音のせいで中断される。


『おっはよー! チームAのみんな、起きる時間だよ!』

「うおっ!?」


 あまりの爆音に文字通り飛び起きると、俺と同じように飛び起きたらしい龍之介が大慌てで腕の中に俺を抱き寄せた。警戒するように、周囲を睨みつけている。今日も龍之介のおかんは全開みたいだ。


 相変わらず人の都合なんて全無視で話を進めていくドラゴンが、実に楽しそうな声を出す。


『今日はDAY1! まずはみんなの相棒になるボクの使い魔を紹介するよ! ――出でよ使い魔!』


 次の瞬間、昨日スマホが現れた時と同じように、空中が激しく光り始めた。


「まぶしっ」


 咄嗟に龍之介の広い胸に顔を(うず)める。


「亘、飛び出しちゃ駄目だからね!」


 龍之介が俺の頭を抱き締めて庇いながら、三歳児に言うようなセリフを吐いた。俺の信用がなさすぎる!


「キーキー!」


 甲高い鳴き声が聞こえてきたので、龍之介の脇から顔を出す。


 と、意外な物が宙に浮いているのが見えた。


「龍之介、なんかいる」

「えっ、また勝手に顔を出して……っ!」


 俺に注意をしながら背後を振り向いた龍之介が、固まる。「うお……」という小さな声が漏れるのを、俺は聞き逃さなかった。


 そこに浮いていた物体は、おたまじゃくしの表面みたいに艶光りしている黒い球体だった。バスケットボールくらいの大きさの球体の中心には、大きな目がひとつ。黒い瞳孔に青い虹彩だけ見ている分には綺麗と言われりゃ綺麗だけど、若干血走り気味な白目が普通に怖い。


 球体からはふざけたような細い手足と、背中にはコウモリのような翼が生えていた。


『どお!? 可愛いでしょ!』

「可愛くはないな」

「うん、僕も亘と同意見」


 するとどうしたことだろう。パタパタとコウモリの翼を元気よく羽ばたかせていた黒い球体は目に大きな涙を溜め始めると、「キュイ……」悲しそうに泣き出したじゃないか。


 途端、物凄い罪悪感に襲われた俺は、慌てて訂正した。


「あっ、今の嘘! 冗談! 可愛いっ、めっちゃ可愛いよ!」

「え、ちょっと亘――」

「みっ、見慣れなかったからびっくりしたけど、よく見たら目とかめっちゃ綺麗だし! うん、可愛い! 世界一!」

「……キ?」


「本当?」みたいにつぶらな目でこちらを見る、黒い球体。ひ……っ、普通に怖いけど……ほら! 見た目で差別はよくないしな、うん!


「本当本当! あ、俺亘っていうんだ! お前の名前は!?」

「キューッ!」


 俺に可愛い世界一と言われて気分が上がってきたのか、黒い球体が嬉しそうに目を細めた。手をパタパタさせているのは、うん、まあ可愛いかもしれない。ほら、ブサ可愛いってやつあるじゃん? あれだよあれ、きっと。


「キューっていうの? 可愛い名前じゃーん!」

「亘、多分あれ鳴き声じゃ」

「キュイー! キュッキュッ!」


 黒い球体、キューは嬉しそうにこちらに向かってくると、俺の胸の上にぽんと乗る。ぴょんぴょん跳ねちゃって、あは、かわいーじゃん。そこはトランポリンじゃねえけどな!


「こ、こら! 亘の胸に何をっ」


 龍之介がキューの羽を掴むと、キューが「キュインッ!」と泣きそうな目で抵抗した。


「龍之介! 引っ張るなよ! 可哀想だろ!」

「えっ」


 急いでキューを抱いて奪い去ると、龍之介が愕然とした表情に変わる。


「え……嘘でしょ」


 涙目のキューが、甘えるように俺の首にしがみついてきた。


 キュン、とした。心臓を鷲掴みにされた瞬間だった。


「……な、なんだよ! 滅茶苦茶かわいーじゃんこいつ! なー? キュー!」

「キュイーッ!」

「あははっ、くすぐったいって!」


 キューは俺の頬にぐりぐり顔、といってもほぼ目玉をこすりつけると、俺を味方認定したのか、俺の肩に鳥のように止まる。やば、見た目はグロいけど、行動が半端なく可愛い!


『みんな、担当の使い魔との自己紹介は終わったかな?』


 唐突に、ドラゴンの声が喋り始めた。空気の読めなさ具合は、もう知ってる。


『使い魔の目が、カメラになっているよ! 音声も拾って、各ペアの状況を全部配信していくからね!』

「なるほど、お前自身がカメラってことかー。凄いなお前」

「キュイッ!」

「亘……」


 残念そうな目で俺を見ている龍之介は置いておいて、俺は「よーしよーし!」と新しい仲間、キューの頭を撫でてやったのだった。

次話は明日の朝投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれあれあれ〜(笑) 亘く〜ん!使い魔のキューくん?に、キュンして、心臓を鷲掴みにされましたか〜 龍之介くん!ライバル登場ですね。   楽しみです!!
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