8 ノルマ
俺たちがどぎつい色の存在感が強すぎるベッドに圧倒されている間にも、ドラゴンのチュートリアルは続く。
『部屋はペアごとに用意されているよ! ダンジョンのどこにいてもその日の冒険が終わったら戻って来られて、前日に終了した地点からスタートできるんだ!』
ふうん。所謂セーブポイント的な感じになるらしい。
『長期戦だと視聴者も飽きちゃうからね、ダンジョンは浅めに設定したよ! 階層は全部で十五階! 地下十五階にラスボスがいるからね!』
ドラゴンの説明によると、一日に踏破できるのは一階ずつ。地下に続く階段を見つけた段階で、その日の冒険は終了になる。モンスターを倒したり宝箱を見つけると、アイテムを入手できる。それらを部屋に持ち帰ってポイントに換えることで、部屋で食料や装備に使えるようになるんだそうだ。
部屋を出ると、手持ちのポイントはリセットされる。つまり何もしないでダンジョンを走り抜けてしまうと、飲まず食わずでジ・エンド。うまいことできてるもんだ。ムカつくことに。
『各階には、次の階をスキップできるアイテム、フロア転移陣がひとつだけあるよ! 最短でゴールを狙うなら、このアイテムゲットは必須! 毎日ランキングが出るから、確認してみてね!』
え? じゃあひとつもゲットできないと、早々にランキングから落ちるってこと? ……ふざけんなよ!
『じゃあ、みんながびっくりしただろう性転換について説明するよ!』
「! くそ……っ」
これはさすがに、聞き逃したら拙い。怒りで余計なことを喋らないように、自分の手で口を塞ぐ。
『今回、ペアのとある条件下にある片割れが女体化しているよ!』
なんと、俺だけじゃなかったらしい。
『最初に説明した優勝したペアへのご褒美は、男に戻る権利でーす!』
「はあっ!? じゃあ優勝しない限り元に戻れないってことかよ!?」
「シッ!」
またもや龍之介に抱え込まれて、口を塞がれた。むぐう。
『どちらかが死亡した時点で、そのペアはゲームオーバー! 次のペアが選ばれるまでモンスターが外に出ていくから、家族とお友達が大変なことになっちゃうよ! 頑張って阻止してね!』
「もごっ」
『やむを得ない場合にリタイアする場合は、後で渡すスマホからリタイアを宣言してね! リタイアする場合、女体化は戻りません!』
……マジかよ。
『あ、それと、毎日部屋にいる間に科されたノルマがあるよ! 忘れないように壁に映しておくから、毎日確認してね! 尚、ノルマを達成できないと強制リタイアとなりまーす!』
次の瞬間、ボタンの上の壁に黒い文字が浮き出してきた。
……俺も龍之介も、ポカンと口を開けて見ることしかできなかった。
何故なら、その内容がとんでもないものだったからだ。
DAY1 手を繋いで寝る
DAY2 膝枕をして耳かきをする
DAY3 膝の上に座らせてアーンで食事する
DAY4 腕枕をして寝る
DAY5 バックハグをして寝る
DAY6 正面から抱き合って寝る
DAY7 おやすみのキスをする(Lv1おでこ)
DAY8 おやすみのキスをする(Lv2ほっぺ)
DAY9 おやすみのキスをする(Lv3唇)
DAY10 おやすみのキスをする(Lv4深いキス)
DAY11 一緒にお風呂に入る(配信非公開・公開を選択のこと)
DAY12 お互いを洗い合う(配信非公開・公開を選択のこと)
DAY13 裸のまま抱き合って寝る(配信非公開・公開を選択のこと)
DAY14 愛し合おう♡(配信非公開・公開を選択のこと)
……は? 特に最後のやつ、マジでは? なんだけど!?
『今日は0日でカウントされないよ! そうそう、ひとつのダンジョンには五ペアずつ振り分けることにしたんだ! 君たちはチームAの最後のペアだから、明日からいよいよダンジョン配信が開始しまーす! 明日の朝にボクの使い魔が呼びにいくからそれまでに準備しておいてね! 0日の間は食べ放題飲み放題にしておくから、今から渡すスマホから注文してね! あ、勿論今日から愛し合っても全然オッケー! 配信前だから、ボクだけ見させてもらうよ!』
見るんかい。
唖然としていると、突然右腕に光が集まってきた。
「わっ!? なにこれ!」
「亘! あ、僕にもっ」
光はすぐに止む。と、スマホが装着されたベルトが二の腕に巻き付いてるじゃないか。これがさっきドラゴンが言ってた注文できるスマホってやつ!?
『鑑定機能を付けたから、ドロップしたアイテムの鑑定もこれひとつで簡単! 視聴者参加型配信の予定だから、視聴者の声もここで確認できるようになるよ! あ、それと大事なことを言うのを忘れてたね! 優勝できなかったペアも、踏破した段階で該当エリアのダンジョン入口が封鎖されるよ! 優勝できなくても、君たちは英雄になれる! 凄いね! だから最後まで気を抜かずに頑張ってね!』
やり切らないとモンスターは湧いて出るぞってことだ。えげつないことを考えるな、このドラゴン。
『分からないことは、スマホで検索してみてね! じゃあまたね!』
唐突にブッと接続が切れた音が聞こえた後、静寂が俺たちを包み込んだ。
無言で壁に書かれた文字を見上げている龍之介の顔を、そっと見上げる。
龍之介は、顔だけじゃなく、耳も首も真っ赤になっていた。
もしかしたら夜に次話を投稿するかもです。
しなかったら明日の朝に。