45 後日談
完結です。
俺たちは一躍有名人になった。
お陰で、どこに行くにも何をするにも注目の的だ。戻ってきてたった一週間で、俺は心底うんざりしていた。一挙手一投足を観察されてネットに呟かれりゃ、誰だって嫌になるだろ。
「人の噂も七十五日って言うし、それまでの我慢だよ亘」
「そうかもだけどさあ!」
龍之介の部屋のベッドに、ボフッと仰向けに倒れ込んだ。
俺たちがダンジョンから脱出した後、当然のことながら俺の周りは大騒ぎになった。
再三の呼びかけにも関わらず、高校にまで押しかけてくるマスコミや龍之介ファンに辟易していた。そんな時、とうとう高校から「二人は暫くオンライン授業を認める」と言い渡されてしまった。
俺たちは自ら進んでダンジョンに入った訳じゃないし、たまたま条件が合ったから選ばれたに過ぎない。しかも日本を救ったといっても、男に戻りたければやるしかなかったんだから、結果がついてきただけだ。
俺たちがまだ学生だということもあって、世論は大体は俺たちの味方になってくれて、取材は控えようという空気は流れてはいた。だけど来る奴は来るんだよなあ。マジで勘弁してほしい。あと俺と龍之介の関係に進展があったかを周りに聞くのもやめてほしい。
当然、俺たちの家の前にも連日マスコミが詰めかけていた。だけどこれは地域の人たちの協力もあって、警察と自警団の見回りのお陰ですぐに落ち着いた。
俺たちは地元っ子で小さい頃から近所のおじさんおばさんに可愛がられて神輿とかを担いできたから、こういう時は本当下町っていいと思う。
ちなみに龍之介に龍之介ファン云々と伝えたところ、「何言ってるの? 亘ファンの多さに毎日血管が切れそうなくらいなのに。亘はもう少し自覚しようね?」と詰め寄られた。
結局、俺が「分かった、もう分かったから……っ」と認めるまで、濃厚なキスをこれでもかとされた。
龍之介は、俺の扱いを完璧にマスターしている。
学校に行かなくても良くなったことで、不必要なまでに注目されることは減った。
だけど、ここで新たな問題が浮上してくる。
そう。オンライン授業をひとりで観てたら、寝ちゃうよな? しかも一日中、事態が落ち着くまで毎日これが続くんだぞ。
受験も近付く中、龍之介は俺の将来をとても心配した。「永久就職でも僕はいいけど」なんてしれっと言うな。
ともかく、油断すると寝ている姿を披露してしまう俺を何とかしようと、龍之介は学校に確認を取って俺と一緒にオンライン授業を受けてもいいことにしてくれた。面倒見が最高にいいおかんがいるよ……!
龍之介は「元々僕には亘しか見えてないから他人の視線なんて気にならないんだけどなあ」とさり気なく俺オンリーアピールを挟みながら、毎朝俺を迎えにきては龍之介の家まで俺を連れて行く。時折寝ているところをキスで起こされたりもする。……うん。
俺、マジで龍之介がいないと生きていけない子になってない? 先日、「このままじゃ人として拙いんじゃないか」とさっちーや雪ちゃんに相談すると、二人ともに「今更?」と返された。解せぬ。
寝転がって伸びをした俺の頭を、龍之介がポンポン撫でる。
今日も、龍之介に起こされながらのオンライン授業が無事に終わったところだ。俺の脳みそは限界に近い。
「今日も寝ずに授業を受けられて偉かったね」
微笑みをたたえる龍之介を、軽く睨んだ。
「なんか底辺な褒められ方してる気がするんだけど」
「亘は生きているだけで偉いから、それ以上のことをしたら全部偉いよ」
……おかんもここまでくると、もう取り返しがつかないほど重症なのかもしれない。
でも。
以前までの俺なら、ここであっさりゲームでも始めていただろう。だけど今の俺はひと味違う。
勢いをつけて起き上がると、教科書とは別に用意してある英会話の参考書を手に取った。
「ほら龍之介、休憩は終わりだぞ。俺に付き合ってよ」
「勿論」
実は戻ってきてすぐ、俺たちはジャンさんたちと電話をする機会があったんだ。
アホドラゴンから支給されていたスマホはダンジョンを出た時には消えていたし、なんかあそこの中と外とでは全くの別物に感じていたんだよな。だから、連絡が取れるっていう発想がなかった。
だけど、ジャンさんは違った。
「外に出て、何か身体に異変がないかなど定期的に確認を取り合わないか」というジャンさんの提案に、龍之介は一も二もなく頷いたらしい。
言われてみれば確かに、女体化やら魔法が使えてたとか身体能力がアホみたいに上がっていたりとか、現実の世界じゃ起こり得ないことが沢山あったもんな。経験者同士でないとこういった不安は解消できないから、ジャンさんの提案はとても有り難かったと龍之介も言っていた。
それでだ。
ダンジョンにいる間は、英語は読めなかったけど、言葉は全部勝手に翻訳されていたから意思の疎通は全く問題なく行えた。だけどいざ会議招集がきて顔出しをして、久々な顔に興奮して話しかけたら――。
当然だけど、言葉が通じなかったんだ。
ちなみに龍之介は比較的英語を喋ることができていたので、龍之介が通訳を買って出てくれた。
「シーユー、ワタル」
「シーユー……? ジャンさんたち……」
手を振って最後の挨拶を交わした時、俺は決意した。
絶対自分の力だけでジャンさんたちと意思の疎通ができるようになるんだ、と。
そこから俺は、英語の勉強を始めた。今はまだ分からないことだらけだけど、英会話に付き合ってくれる龍之介がたまに「うん、今のいいね!」と褒めてくれるから、やる気に満ちあふれている。
大学進学についても、これまで何も考えていなかった適当な「文系」目標から、「英文科」目標に変わった。
「いつかペラペラになったら、単身ニューヨークに行ってみようかなあ」
「ちょっと亘、さり気なく僕を置いて行かないで。勿論絶対一緒に行くからね」
「全くしょうがないなあ、うちの龍之介は」
バンバンと龍之介の肩を叩いてからかっても、龍之介は不機嫌になったりなんかしない。
幸せそうに微笑みながら俺だけを見つめると、「うん、僕は亘がいないと生きていけないから、一生傍にいてね」なんて言うんだからなあ、もう。
どちらからともなく、顔を近付けていく。俺が瞼を閉じて、龍之介が顔を斜めにして今にも唇同士が触れ合おうとした、その瞬間。
突然、脳内に大声が響き響いた。
『パンパカパーン! たった今、全世界のダンジョン入口が封鎖されましたー! 頑張ったみんな、お疲れ様でしたっ!』
キスが中断されてしまった龍之介が、あからさまに顔を顰める。
「相変わらず騒音レベルだね」
「そのことを指摘するの、そういや忘れてたな」
「したところで聞かなさそうだけどね」
「確かに」
龍之介はスマホを手に取ると、最新ニュースを表示させた。驚くべきことに五ペアずつのチームはAからJまでの十チームあったそうで、つまり全世界で五十ものダンジョン入口が出現していたらしい。作りすぎだろ。
アホドラゴンが元気一杯な声で続ける。
『みんなが沢山の萌えを供給してくれたお陰で、弱り切っていたボクの神力が復活しました! やっぱり時代はジレジレもだキュンだよね!』
きっと今頃、世界中の人間が「知らねーよ」と心の中でツッコミを入れているんだろうな。思わずクスリと笑いが漏れてしまった。
『ということで、頑張ってくれた地球のみんなの頑張りを称えて、滅びちゃったりモンスターにやられちゃったエリアを再建します! 死んじゃった人は生き返らせられないのが神界のルールなんだけど、特定の対象の時だけ戻す許可をもらったんだ! みんな褒めて!』
「褒めたくないけどよくやった」
「亘偉い。僕は死んでも亘以外は褒めたくないよ」
目を合わせて、目元だけで笑い合った。
『じゃあ三、二、一でいくよ! そうしたらボクはまた暫く別次元で世界を管理するお仕事を頑張るけど……また成分が不足したら来るから、楽しみに待っていてね!』
「二度と来んな」
「同意しかない」
『三、二、一、まったねー!』
ブッという接続が切れる音と共に、静寂が訪れた。
龍之介の手にあるスマホは、『神竜の奇跡!? 復活の街』なんて見出しのニュースが次々に流れていく。
「お、ちゃんと戻した? 偉い偉い」
すると龍之介が、屈んで俺の顔を下から覗き込んできた。キラキラした瞳で俺を見つめる。
「亘、それは後でいいよ。さっき邪魔された続きをしよ?」
「ぶ……っ、お前本当俺のことが好きだな?」
「当然でしょ。亘は俺の生きる理由なんだから」
熱が籠もった眼差しで言われた俺は。
龍之介の頬を両手で掴んで顔を引き寄せると、「……俺も龍之介がいないと生きていけないよ」と囁きながら、唇を重ねたのだった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
こちらの作品は、相互さんに「こんなネタがあるんだよね」「書いちゃえ書いちゃえ!」というやり取りから始まったものです。
最初は中編で書いていた筈が、気付けば長編に……。
時間がなくてプロットなしでGOしてしまったせいですね!
風呂敷を広げすぎて畳むのに14万字かかってしまいましたが、それでも楽しかったよ! と思われましたら、是非下の方にある評価☆☆☆☆☆をポチッと押していただけると嬉しいです。
最後に、次の回に旧ツイッターの宣伝で使用した自作イラストを置いておきますので、こんなキャライメージで書いてたのか~などのご興味がありましたら、是非覗いていって下さい。
ありがとうございました!




