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神竜が東京にダンジョンを作ったので親友と行ったらTSされた俺、最初に踏破して男に戻らせてもらいます!  作者: ミドリ


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42 優勝者のご褒美

 白い爆風を受け、俺と龍之介は互いに必死にしがみつく。


 ホワイトアウトした視界の向こうから、ドラゴンの断末魔が響いてきていた。


 やがて吹雪のような風が止んでくると、次第に視界が開けていく。


「倒した……か?」


 目を細めながら前方を確認すると、立ちはだかっていた巨体の影は見当たらなくて、雪が一番高く降り積もった天辺に、光り輝く宝箱が置かれているのが見えた。全身が白くなったジャンさんとスティーブさんの姿も、すぐ隣に見える。多分、俺と龍之介も同じような状態なんだろう。


「龍之介! 宝箱だ!」


 笑顔で龍之介を振り返る。


「うん! 先に取った方の勝ちだね! 急ごう!」


 龍之介が立ち上がった、次の瞬間。


「わ、」


 突然、龍之介が立っていた足元が崩れていくじゃないか!


「龍之介!?」


 咄嗟に龍之介の手を掴む。


「え、なに!? どういうこと!?」


 足が宙に浮いた状態になってしまった龍之介が、必死の形相で地面と俺の手にしがみつきながら、言った。


「ここだけじゃない! 台座が崩れてきてるんだ!」

「ええっ!? 早く上がって来いよ!」


 懸命に引っ張り上げる。だけど元々非力な俺じゃ、大した役に立たなかった。どうしよう、どうしよう!? 慌てて周囲を見回すと、ジャンさんが驚愕の表情でこちらに走ってくるところだった。


 よかった、手伝ってくれるんだ!


「ワタル! 手伝う!」

「ジャンさん! ありがとう」


 と、スティーブさんがバッと走り出すところが視界に入る。スティーブさんが向かっているのは、まさかの宝箱の方だった。


「スティーブ!? リューノスケを見捨てるのか!?」


 噛みつくように怒鳴るジャンさんに、スティーブさんが答える。


「二人いれば大丈夫だろ! そっちは任せた!」

「スティーブ!」

「俺は十分夢を見させてもらった! だから俺に夢を見させてくれたジャンに、平穏を取り戻してやりたいんだよ!」


 スティーブさんの声は、どこか泣きそうなものに聞こえた。


「スティーブ……くそうっ!」


 ジャンさんは歯を食いしばいながら龍之介の方に向き直ると、叫ぶ。


「リューノスケ! 一気に引っ張り上げる! そのまま走れ! お前の足の方が速い!」


 龍之介の目が大きく見開かれた。


「――はい!」

「いくぞ、ワタル!」

「おう!」

「せーの!」


 渾身の力で、二人がかりで龍之介の身体を引っ張り上げる。転落を免れた龍之介はそのまま前転すると、前傾姿勢で猛スピードで走り始めた。――速い! さすが俺の龍之介だ!


「龍之介、いけえええっ!」

「負けるなリューノスケ!」


 お人好しすぎるジャンさんが、リューノスケの応援をした。


 スティーブさんは斜めになった雪の壁に苦戦していて、つるつる滑り落ちている。龍之介はあっという間に追いつくと、一瞬で雪の壁を登っていった。


「させないぞ!」

「くっ!」


 スティーブさんは龍之介の手首を掴むと、滑り落ちてきた龍之介の肩に足を掛けて一気に上に登っていく。


「ああっ!」

「スティーブ!」


 拙い、このままじゃ宝箱は――!


 スティーブさんが、頂上に辿り着いてしまった。龍之介は、下まで滑り落ちてしまっている。スティーブさんは宝箱の前に滑り込むと蓋を開け――。


「取ったぞ!」


 中に収められていた光り輝く鍵を、高々と掲げた。


「あ……っ」


 嘘。俺、女のまま? 女でいる覚悟も男に戻る覚悟も、なにひとつできていなかったのに。


 脱力して、その場に座り込む。


「ワタル……!」


 ジャンさんが慌ててしゃがみこみ、俺の肩を抱き寄せた。


 すると次の瞬間、上空から強い光がスティーブさんが持つ鍵に向かって落ちてくる。


『スティーブ・ジャンペア、ダンジョン踏破おめでとー!』


 ふわりと地面に降り立ったのは、竜の翼、二本の角、爬虫類っぽい耳を生やした顎髭が立派なムキムキなおっさん、だった。情報量が多すぎる。


 おっさんはスティーブさんの鍵を持っている方の手首を掴むと、軽々と立ち上がらせる。


『君の執着、最高だったよ! ボクから失われていた成分、たっぷり補充できちゃった! お陰でほら、人型を取れるまでに回復したよ! ありがとうね!』


 口が、声と一緒に動いている。てことは、もしかしなくてもあれがアホドラゴンか……?


『みんなもお疲れ様ー! とっても楽しませてもらったよ! ジャンくんの苦悩しながらも惹かれていき、身体を許してしまうあたりのくだり、もう涙なしには見られなかった!』

「見たのか……」


 ジャンさんが抑揚のない声で呟いた。


『龍之介くんは、ピュアな感じがよかった! だけど拗らせ具合は一番だよね!』


 龍之介はぽかんとしたまま、微動だにしない。多分色々ショックすぎて停止しているんだろう。


『そして最後に亘くん! 君もよかったよ! 幼馴染みゆえの距離感ていうの? そこに苦しみ悩む姿! ノルマの写真を眺めてはニヤける顔は百点満点をあげちゃう!』

「嘘だろ……そこも見てたのかよ……」


 俺が呟くと、ジャンさんが肩をぽんと叩いてくれた。


 ドラゴンのむさいムキムキおっさんは続ける。


『ということで、優勝したペアへのご褒美は、男に戻る権利! ジャンくん、君は行使する? さあよく考えて答えよう!』


 ドラゴンのおっさんが、ジャンさんの方に顔を向けた。満面すぎる笑みが怖い。


 ジャンさんはすっくと立ち上がると、凛とした声で尋ねる。


「私が行使しない場合、権利は二位に譲渡できるか?」

『うん? 君は男に戻りたくないのかな? それはどうして?』


 ドラゴンのおっさんの言葉を聞いたスティーブさんが、目をこれでもかというくらいに大きく見開いた。


「ま、待てジャン! 俺はもう十分なんだ、ありがとうと伝えた筈だ……! 俺の我儘でジャンを振り回してしまった、俺がジャンを好きでいなければ、ジャンが女体化することもなかったんだぞ!」


 え、どういうこと? ゆっくり俺の方を振り返る龍之介と、目が合う。


『お、スティーブくん偉いね! ダンジョンに入る為の条件に君は気付いていたんだ! 嬉しいなあ!』


 ドラゴンのおっさんが、竜の尻尾をご機嫌そうに左右に振りながら、ジャンさんに問いかけた。


『ジャンくん、さあどうする? 君が決めるんだよ!』


 ジャンさんはドラゴンのおっさんを静かな目で見据えると、腰に手を当てて仁王立ちのポーズを取る。威風堂々って感じで格好いいしかない。


「スティーブ!」

「ジャ、ジャン……?」

「お前の知る通り、うちの家族は厳格だ。男同士の結婚など、まず許されない」

「は……」


 スティーブさんの目は、今にも落ちそうだ。


 ふん、という息でも聞こえてきそうな態度で、ジャンさんが言い放った。


「お前は私をこんなに夢中にさせておいて、捨てるというのか? 女の私はもう飽きたか?」

「……そんなこと、ある筈がない!」


 スティーブさんの目から、涙がボロボロ溢れ出す。


「ではお前が責任を持って私を幸せにしろ。――私は責任を持ってお前を幸せにする!」


 ジャンさんは俺に小さく笑いかけた後、スティーブさんの方に向かって駆け出した。


 ジャンさんの言葉に、スティーブさんも()けつ(まろ)びつ走り出すと、飛び込んできたジャンさんを全身を使って受け止める。


「ジャン……! 俺は夢を見ているのか……!?」

「勝手に夢にしないでくれ。これから先の人生を私と共に過ごすのだから、夢で終わらせられたら困る」

「ああ、ジャン、ジャン……!」


 二人は熱い抱擁を交わすと、もう周りなど関係ないとばかりに濃厚な口づけを交わし始めた。


 ドラゴンのおっさんが、にたりとした笑いを浮かべながら頷く。


『じゃあ、優勝者のご褒美、男に戻る権利は亘くんに譲渡されます! ただしこれは例外だから、譲渡は一回のみ! 亘くん、男に戻れます! おめでとー!』

「えっ!?」


 直後、眩い光が俺の全身を包んだ!


「ま、俺、まだ何も覚悟を、」

『この後四人はそれぞれの入口から出た後、ダンジョン入口が消えてなくなります! 巻き込まれないように気を付けてね!』


 身体が、作り変わっていく。俺は身動きが取れなくなって、その場でただ自分に起こる変化を眺めていることしかできなかった。意識が、少しずつ薄れていく。


 待って、俺、だって龍之介に一生好きって言えなくなるのは嫌だ……! だったら、女の内に伝えておけばよかった。


 でも……もう遅い。


『じゃあ転移しまーす! ダンジョンの全員が踏破終わったら、最後に全世界に向けて挨拶するからまたその時に!』


 なんだよ挨拶って――。


 ドラゴンのおっさんの声をどこか遠くで聞きながら、俺は意識を手放した。

まだ最終話書き終わってません…お昼休みに書きます


続きます

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