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神竜が東京にダンジョンを作ったので親友と行ったらTSされた俺、最初に踏破して男に戻らせてもらいます!  作者: ミドリ


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39 DAY10、地下十四階

 翌日。


 俺と龍之介は、とうとう地下十四階に下り立った。というか滑ったんだけど。ゴロゴロ地面を転がってるのはやっぱり俺だけだけど。


「じゃあ、今日の目的はセーフティゾーンでの回復薬を明日の分まで買う、後は」

「高級ステーキが食えるくらいモンスターを倒す!」


 拳を振り上げて宣言すると、龍之介がにっこり笑った。


「うん、今夜は前夜祭だもんね。ちょっとは豪華にしないとだ!」

「おう!」


 もうフロア転移陣を入手する必要もないから、今日はギリギリまでレベル上げに徹することにしていた。最後の仕上げってやつだな。


「龍之介、今だ!」

「うん! ウオオオッ!」


 元々誰よりもお互いのことを知っている俺たちは、阿吽の呼吸で次々にモンスターを倒していく。ジャンさんたちは今日は十三階にいるので、かち合うこともない。遠慮なく、全力でガンガンモンスターを倒しまくっていった。


 セーフティゾーンでは、ポーチに入るだけの回復薬を購入する。休憩所で換金したアイテムは翌日に持ち越しはできなかったけど、回復薬はそのまま持てることが偶然分かったことからの対応だ。十五階にセーフティゾーンがあるとは限らないからな。


「明日のボス戦は相手がどんな強い敵か分からないからね、念には念をだよ」

「だな!」


 昨日のキスの後、俺たちの間に流れたのは妙に照れ臭い雰囲気だった。そりゃそうだ。だってキスっていうのは普通恋人同士がするもので、まだ付き合ってもない元々はただの幼馴染みで親友だった相手とすることになるなんて、思ってもみなかったんだから。


 だけどそのお陰で、龍之介は昨日の件について深く突っ込んでくることがなかったのは助かった。


 そう。俺のハートがマックス値になったことについて、だ。


 龍之介が風呂に入って鼻歌を歌っている隙に自分のステータスを確認してみたけど、やっぱりマックス値になっていた。つまり俺は、龍之介に庇われて眩しい笑顔を向けられた瞬間ときめいて、完全に龍之介に恋しちゃったと心から認めてしまったんだと思う。


 龍之介にツッコまれたら、どう答えようかとずっとぐるぐる考えていた。だけど龍之介は穏やかな調子を崩さないまま、俺に何も尋ねることなくその日を終えてしまった。


 正直、肩透かしだった。なんで聞かないんだよって思った。


 だけど考えてみたら、俺が男に戻れるか女のままかはまだ決まってない。そんな中途半端な状態で、俺の好意を受け入れた後に俺が男に戻ってしまったら――?


 優しい龍之介は、俺を振らないといけなくなっちまう。龍之介は女の俺が好きなんだろうから、当然そうなる筈だ。


 もしかしたら、男の俺のことが元々好きだったんじゃないかって可能性だって一応は考えてみた。


 だけどさ、だったらどうして龍之介は俺に「好き」と言わないんだろう? どちらの俺でもいいんだったら、スティーブさんみたくもっと早い段階で好意を伝えていたってよかった筈じゃないか。


 だから俺は確信したんだ。龍之介はやっぱり女の俺がいいんだって。男の俺だと恋愛対象にならないんだって。


「亘? どうしたの? ぼーっとしちゃってるけど疲れた?」

「え? あ、うん、少しな」


 心配顔で尋ねる龍之介の様子に、変わったところはない。これまでとずっと一緒、安定的になにひとつ変わらない。つまり好きだとは絶対言ってもらえないから、俺のモヤモヤは消えてくれないままだ。


 だから余計、俺からも伝えられやしない。


 男に戻った時、龍之介が困る顔を見たくないから。



 十五階に続く階段を見つけ、今日のダンジョン探索は終了した。


「龍之介、ステーキ食えそう!?」


 アイテムを換金している龍之介の背中越しにスマホを覗き込むと、龍之介が満面の笑みを浮かべながら振り返る。


「うん! 二人分いけるよ!」

「よっしゃー! 念願の高級ステーキ!」


 両手の拳を握り締めて、ガッツポーズを取った。


「亘はライスとパンどっちがいい?」

「ライス大盛り!」

「スープも付けちゃう?」

「付ける!」

「デザートは最後にしようか」

「おお、いいな! 前夜祭って感じがしていい!」


 龍之介がスマホをタップしていくと、テーブルの上にほかほかの料理がどこからともなく転移されてきた。


「凄えいい香り! 龍之介、早く食おうぜ!」

「はいはい、ちゃんと手を洗ってからね」

「任せとけ!」


 ピャッと風呂場に駆け込むと、洗面台で手を洗う。俺はちゃんと笑えてるだろうか。鏡に映し出された大分見慣れてきた女の俺の顔を眺めて、ニッと笑ってみた。うん、きっと大丈夫。にしても、女の俺って結構可愛いよな。最初に龍之介が昔の俺がいるって感動してたけど、確かに以前の俺にそっくりだ。こりゃ龍之介も惚れる筈だよ、なんてな、はは……。


「……やべ、ちょっと虚しくなってきた」


 こんなんじゃ、計画がパーになっちゃう。駄目だ駄目だ。最後の夜の今日は、あえて明るく振る舞うことに決めたのに。


 今日までの、友達以上恋人未満みたいなふわふわな状態で過ごす二人きりの時間は、今夜でおしまいになる。スティーブさんには素直になって俺から押せみたいなアドバイスをされたけど、この先もずっと龍之介の一番でありたい俺には、その勇気はなかった。


 そもそも、もし明日無事に男に戻れたら、これまでの幼馴染み兼親友ポジに逆戻り確定だ。龍之介は消えた女の俺に対する心残りはあるかもしれないけど、男に戻って可愛くなくなった俺とこの先恋愛しようなんて、考えもしないだろう。


 龍之介はモテるし、相手なんて腐るほどいる。わざわざ男の俺を選ぶなんて酔狂な選択をする筈もないんだから。


 だったら俺は、そんな龍之介の隣で一番の親友として笑顔で居続けないといけないんだ。龍之介がそう望んだように。


 パンッと頬を叩き、気合いを入れた。辛気臭い顔をすんじゃねーよ、俺。笑え。


 もう一度表情筋を動かして笑ってみせると、笑顔のまま部屋に戻った。


「龍之介、早くステーキ食おうぜ! すげー楽しみにしてたんだよね!」

「うん、じゃあ明日は頑張ろう! 乾杯!」

「乾杯!」


 コーラで乾杯をすると、一心不乱に食事を食べ始める。


 正面の龍之介が「美味しいね」と声をかけてくれば「おう!」と笑顔で答えて、無理やりテンションを上げていった。ステーキは頬が落ちちゃうくらい美味かったから、テンションを上げるのは簡単だった。


 なんだけどさ。


 馬鹿な俺は、この日も忘れていたんだ。


「亘……今日のノルマのことなんだけど」

「あ」


 風呂も終わり、ベッドに仰向けに寝転がっていた俺の横に、龍之介が腰掛ける。


 ダンジョン最後の夜のノルマである、『DAY10 おやすみのキスをする(Lv4深いキス)』。これこそ、どんな顔をしてすればいいのか分からない。


 龍之介は昨日同様目元を赤らめながら、提案してきた。


「亘、お願い。亘の方から、昨日のキスをして」

「えっ」


 とんでもない提案にギョッとすると、龍之介は更に続ける。


「そうしたら、後は僕に任せてくれればいいから。……お願い」

「龍之介……」


 ピンときた。多分龍之介は凄く恥ずかしいんだ。だから俺からしたら、勢いで舌も絡ませられるんじゃないかと考えたに違いない。きちんと考えて行動に移そうとするあたりが、やっぱり龍之介だよな。


 俺は起き上がると、両手を突いて龍之介の方に這いずっていく。龍之介は口を閉じて俺をじっと目で追った。


「……あんまじっと見るなよ。目え閉じて」


 口を尖らせながら伝えると、龍之介は「うん、そうだね」と顔を綻ばせながら瞼を閉じる。龍之介の顔を眺めた。


 明日男に戻ったら、もう二度と龍之介にキスをする機会は訪れないだろう。


 龍之介に好きと伝える機会も、きっともう――。


 龍之介の肩に手を置いて、身を乗り出してゆっくり唇を重ねていく。柔らかい感触に鼻息が荒くなりそうだったけど、息を止めて耐えた。


 なんだけど、待てど暮らせど龍之介が動かない。おい、後はお前に任せりゃいいんじゃなかったのかよ。


「りゅ……うわっ!?」


 抗議しようと唇を離した次の瞬間、肩を押されて仰向けに押し倒される。すぐさま身体の上に体重がかかり、両手を組むように握られてしまい、ベッドに万歳の状態で押し付けられてしまった。


「ちょ、りゅ……んむぅ……っ」


 いきなり何をするんだと文句を言おうと開いた口に、龍之介の舌が入り込んでくる。え、ええっ!? なにこれ!? 動いてる、ひ、ひえ……っ!


「わ、りゅ、」

「黙って」

「……っ」


 人生初の深いキスは、想像していたものよりも遥かに濃厚で、相手が龍之介だと思うと余計に気持ちよくて。


「も、だめ……」



 龍之介は、息が上がってヘトヘトになっている俺の鼻の頭にダメ押しのキスを落とすと、「おやすみ、亘」と微笑んだのだった。

脱稿まであと少しなので、今日完結予定です。

話数多いのでこまめに投稿していきます。

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