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13/46

13 バトル終了

 スライムは、龍之介の一撃であっさり倒せた。


 俺? 俺はまだ駆け寄っている最中だった。鈍足? うっせ。


 背後から一刀両断された沼色の巨大スライムは、中身の液体を噴射することなく萎れていく。残されたのは、例のリアルな目玉がふたつだ。おいアホドラゴンさ、どうしてこれを残す?


 俺と龍之介が「この目玉どうすりゃいいの?」とばかりに無言で固まっていると、スマホが親切丁寧に教えてくれた。そういや、まだチュートリアルの最中だった。


『ドロップしたアイテムを拾って下さい。ドロップしたアイテムを拾わない場合、バトル終了から五分で消滅します。ドロップしたアイテムを拾って下さい』

「えっ、目玉を……?」


 龍之介が明らかに嫌そうな顔になった。気持ちはよく分かる。俺だって、こんなリアルな目玉は触るどころか見たくもない。


 物凄く迷っている風な龍之介の背中を見つめる。


 龍之介は、凄く頑張った。日頃は石橋を叩いてからそっと渡る龍之介が、俺を危険な目に遭わせたくないからと、無謀なことが分かっていて突っ込もうとしたんだぞ。


 あの時俺は、龍之介の友情の深さに心底感動した。俺はこんな適当な奴なのに、そんな俺を親友だからと率先して守ろうとする龍之介の熱い心意気に、胸が一杯になった。


 だから余計に、こんな時くらい俺が何とかしないとって思ったんだ。


 躊躇っている龍之介の脇を通り過ぎて、目玉の前にしゃがみ込む。


「亘!?」


 ちょっと薄目になりつつ、ガッと手を伸ばして目玉をふたつ掴み上げた。うええ、ぬるっとしてる。


 すると次の瞬間、摘んでいた目玉が小さな光の玉になって、俺と龍之介のスマホにそれぞれ吸い込まれていった。


 内心、ホッとしていた。だって、モンスターを倒せば倒すほど目玉在庫が増えたらちょっとどころか大分嫌だったし。毎回消えるなら、まだ手がベトベトしてるけど何とか頑張れそうだ。


「亘、大丈夫!?」

(ぬめ)ってるけど大丈夫。俺も少しは役に立てただろ?」


 ニカッと笑って見せると、龍之介が言葉を詰まらせて「亘……っ」と涙ぐんだ。へへ。俺にとってもお前は大事な親友なんだからな、そこんとこ忘れるなよ?


 と、スマホがまたもや喋りだす。


『経験値を獲得しました。レベルが2になりました。レベルが上昇したのでスキルポイントを獲得しました。スキルポイントを振り分けますか』

「スキルポイント?」


 各々の画面を覗き込むと、『スキルポイントを振り分けますか』の文字の下に『はい』と『いいえ』がある。チュートリアルならやれってことだろうな、と躊躇うことなく『はい』を押すと、『HP値上昇』『MP値上昇』『魔法を覚える』の選択肢が出てきた。


「龍之介はどれにする?」


 俺と同じようにスマホの画面を見て唸っていた龍之介に尋ねる。


「うーん。戦い方としては、僕が前衛、亘が後衛の方がいいと思うんだよね。体力的にも」

「運動神経は俺に期待できないもんな」

「亘ってそういうところ冷静だからいいよね」


 龍之介は、息をするように俺のことを褒めるんだ。こうしてスペックは弱々なのに自信満々な俺が出来上がったという訳だ。俺、龍之介と離れたらすぐに自信喪失しそうで怖いよ。


「僕はとりあえずは体力に振ってみようかな」

「だな」


 俺はどうしよう。後衛ってことは遠距離攻撃ができないと駄目だ。ということは、魔法が使えないといけないからHPよりもMPを鍛えていった方がいい筈。


「じゃあMP――」


『MP値上昇』ボタンを押そうとした瞬間、手首をガッと龍之介に掴まれてしまった。


「待って亘! まだ魔法を覚えてないでしょ。MPだけ上げても意味ないよ」

「……龍之介、頭いいな」


 危なかった――と画面を見つめていると、スキルポイント振り分け画面の裏側にコメントが流れていることに気付く。


【名無し】ワタルちゃん思ったよりおバカちゃん?

【名無し】ちょっとおバカくらいが俺は好き

【名無し】リュウくん大変そう

【名無し娘】わざとじゃないの? こいつあざとそうだし。リュウくん騙されないでーw


 え、なにこれ。


 悪意が感じられるコメントを見て眉根を寄せていると。


【男バス元女マネさっちー】ちょっと、うちの谷口を馬鹿にするのやめてくれる? 谷口は愛すべし馬鹿なんだから、あざとくないよ!

【男バスマネ雪】さっちー先輩それフォローになってない。でも亘先輩は愛すべきおバカなのは間違いない


「さっちー……雪ちゃん……!」


 さっきから馬鹿馬鹿言われてはいるけど、二人の「馬鹿」には愛情が込められているのが分かるから嫌な気持ちにはならなかった。


【通行人A】ルールをざっと聞いた感じ、リスナーのサポートがないとバトルも辛い感じだな。ダンジョンからあんなの出てきたら、日本壊滅でしょ

【名無し】確かに

【通行人A】俺東京住みなんだよね。死にたくないから徹底的にサポートするつもり

【名無し】同意。てかこれ名前変えられたんだ。変え方分からないんだけど

【名無し】一度登録すると変えられないみたい

【名無し】じゃあ俺一生名無しかよ!

【通行人A】長くても二週間でしょ。一日一階で全十五階なんだから

【名無し】もうついていけてない。通行人Aさんどっかにまとめてほしい

【通行人A】り

【名無し娘】私関東住まいじゃないから関係ないやw他の配信見てこよ


 名無し娘さんはどうも俺のことが気に入らないのか、去ったみたいだ。学校にもこういう女子はいたから、嫌だなと思いはしたけど、驚きはない。


 もてる龍之介の隣に四六時中いると、告白したのに振られてそれを俺のせいにする女子が時折いるんだよね。「あんたみたいな中途半端なのがあざとくウロチョロしてるから龍くんが彼女作らないんじゃん!」っていきなり突き飛ばされた時は、さすがに驚いたけど。


 て、あれ? さっきの名無し娘さん、あの時の女子と何となく言ってることが……うん、深く考えるのはやめよう。


 とにかく、この通行人Aさんのお陰で、一触即発だった空気がガラリと変わった。純粋に嬉しい。


 ふわふわ飛んでいるキューに手を振る。


「キュー! カメラこっちに向けて!」

「キュイッ」


 キューの視線が俺を捉えたのを確認すると、キューの目玉に向かってペコンと頭を下げた。


「俺、確かに馬鹿かもしれないけど、踏破目指して頑張る! だから……応援お願いします!」


 頭を下げていた俺の横に龍之介が並んだのを、気配で察する。


「僕からもお願いします! 亘を元の身体に戻す為にも、協力をお願いします!」

「龍之介……」


 画面には、次々に「応援するよ! 死にたくないもん!」や「ワタルちゃん素直で可愛い! 応援するね!」などといった肯定的なコメントが流れ始めた。中には俺たちなんて応援したくないって奴も勿論いるんだろうけど、誰だって住んでいる所は滅ぼされたくない筈だ。


 他の国に脱出することも、全世界でこのイベントが開催されている以上は叶わない。大体は自国の配信者ペアを応援する形になるんだろうけど、俺たちがあまりにもダメダメな場合は見捨てられる可能性だってなきにしもあらずかも、とちょっと背筋がゾクリとした。


 先に踏破した国に移住しちゃうなんてことも、今のこの滅茶苦茶な状況だったらあり得るかもしれない。


 だったら、視聴者を味方につける為には、頭を下げて懸命に頑張る姿を見せるしかないんだ。……ずっと見られ続けるのはプレッシャーだけど。


 頭を上げる。改めて、『魔法を覚える』をタップした。『火魔法Lv1、または水魔法Lv1が取得できます』とある。


 スライムの弱点は火魔法ってあったもんな。迷うことなく火魔法Lv1を選択する。画面に『火魔法Lv1を取得しました』と表示された。……効果音とかないのか、そうか。ちょっと残念。


「亘、できた?」

「うん」


 龍之介が覗き込んできたので、スマホの画面を見せてやる。画面の枠のところにある炎のマークの隣に、Lv1と新たに追加されていた。


 龍之介の画面には、HP150とある。一気に50も上がるのか。俺も次はHPにしようかな?


 スマホが次のチュートリアルの指示を出す。


『チュートリアルミッションが発生しました。宝箱を見つけてみましょう。セーフティゾーンを見つけてみましょう』


 龍之介と顔を見合わせた。深く頷き合うと、ダンジョンの奥へと歩を進めたのだった。

次話は明日の朝投稿します。

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