第5話『おのれ、夢咲陽菜!!』
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さて、放映されているドラマも順調。
となれば?
「そろそろ。例の案件が動き始めました」
「いやだ」
「我儘言わない」
「いやだ!! あの女と仲良くバラエティー番組だと!? 絶対に嫌だ!!」
「前はやるって言ってたでしょ!」
「ただ一緒に出るだけって話だっただろ!? なんだ、この仲良くっていうのは!」
「いやぁー。二人が仲良くしている姿が思っていたよりも好評でして。なら、そういう姿でバラエティー番組もやって貰いましょうと」
「それはドラマの姉弟だろ!? 現実の僕らじゃない!!」
「いや、視聴者はそんなの知りませんから」
「ぐぅ」
「一度受けた話をひっくり返すんですか? まぁこっちは大手ですからね。向こうは飲むしかない。でも立花光佑さんはガッカリするだろうなぁ」
「ぐぅぅぅううう!!」
「どうします?」
「分かった! 分かったよ!! やれば良いんだろ!!」
「それでこそ、天王寺さんです。では早速いきましょうか。最初はクイズ番組ですよ」
「チッ!」
「ほら。お姉ちゃん大好きな弟君はそんな顔をしませんよ」
「チッ!!!!」
「駄目だ金剛力士像みたいな顔になってる」
そして始まったクイズ番組。
僕は年相応のニコニコとした表情を作りながら、受け答えをしてゆく。
無論横に座っている夢咲陽菜も営業用なのか、キラキラとした笑顔を浮かべていた。
「お二人は姉と弟という事でドラマにも出演されているんですよね」
「はい。そうですね! 私はお姉ちゃん役なので、今日はお姉ちゃんらしい所を見せられたらな! と思います」
「おぉ。意気込みは十分ですね。天王寺君は如何でしょうか」
「は、はい。普段とは違う所なので、少し緊張してますが、今日はお姉ちゃん……あ、いえ。夢咲さんが一緒なので、緊張しない様に、頑張りたいと思います」
「美しい姉弟愛ですね。では最年少チームですが、お二人にも期待しましょう!」
何が美しい姉弟愛だ。
事務所の言う様に、仲の良さをアピールする為に繋いでいる左手からは、常に夢咲陽菜のバカみたいに強い力で圧力がかかっていて、僕の左手は潰されそうなんだぞ。
仕返しに爪を突き刺してやる。
「……っ、も、もう。緊張してるのかな。天王寺君」
「あ、ごめんなさい。夢咲さん。震えてて、爪で引っ掻いちゃった」
「良いんだよ。私はお姉ちゃんだからね。気にしてないよ」
今にも潰しそうな程握りしめておいてよく言う。
しかし、まぁ、一応この番組に限定して言えば、協力関係を築かないといけない事は互いに分かっている。
あくまで番組の宣伝が目的!
そして観客席から僕を、僕を! 応援してくれている光佑さんの為にも無様な所は見せられない!!
僕はとにかく最下位にならない様に、注意して問題を待った。
「では問題。現在の世界人口は……! 早い! 天王寺君!」
「74億人!」
「正解!」
「わーい! やったー!」
無邪気に喜ぶ演技をしながら、とりあえず内心でガッツポーズを決める。
そしてカメラから見えない位置で夢咲陽菜を鼻で笑う事も忘れない。
バカにされたと気づいた夢咲陽菜は苛立った様にピクピクと眉を動かしていたが、流石に人前では笑顔を維持し、やや真剣な表情でクイズに向かった。
「これがいわゆる天下分け目の決戦に繋がった訳ですね。では! この時の、西軍総大将は……! お、早い! 夢咲さん!」
「はい! 西から来た人!」
「うーん! 惜しい! 残念!」
「ありー?」
「残念ですが、不正解なので、1点マイナスです」
はぁぁああああ!!!?
何やってんだこの女!!
人が獲得した点数を減らしてんじゃないよ!!
しかも座るときにカメラから見えない位置で僕を馬鹿にした様に笑う。
こ、コイツ、わざとだ。わざとやったんだ。
僕の点数が付いてるのが嫌だから、ペナルティで点数を減らしに来たんだ。
信じられないような事するな!
「では次の問題です。温めた牛乳の上に膜が出来る現象。その名前……早い! 夢咲さん!」
「えっと。ラムスデン現象?」
「正解!」
「わ。やったやった。お姉ちゃんが取り返したよ。天王寺君」
いけしゃあしゃあと、よく言う!
僕の活躍を全て消して、自分の正解数だけを稼ぐつもりか!
本当にクソみたいな性格してるな!!
許せん。今度はコイツに押させないで、全部正解してやる。
そう思って挑戦していた僕だったが、僕が正解する度に、夢咲陽菜は間違える為にボタンを早押しするのだ。
僕よりも早く。
何て腹立たしい女だ!!
「地理の問題です。この地方に存在する人口百万人以上の都市は……! おっと、早い! 夢咲さん!」
「あ、分かりません!!」
「分からなかったら押したら駄目だよ! 夢咲さん! はい。ペナルティ!」
「あうー。ごめんね。天王寺君。お姉ちゃんちょっと焦りすぎちゃった」
舐めやがって。
あんまり図に乗るなよ。夢咲陽菜。
ここでお前の、光佑さんからの評価を叩き落としてやる!
「……ううん。しょうがないよ。だって問題が難しいんだもん。でも、今の多分僕は分かったから、次は押させてね!」
僕にはわかったけど、お前はバカだから分からなかったよな?
と、純粋無垢な少年の目と言葉で、お前がいかにバカかを光佑さんに示してやる。
僕を怒らせた事! 後悔しろ!
「たはー。これじゃお姉ちゃん駄目駄目だね。番組が終わったら、お兄ちゃんとしっかり復習するねー」
落ち込んだ様に顔を伏せて、夢咲陽菜はそう言った。
そして僕にだけ見える所でニヤリと笑う。
この女……!
利用した!? 僕の事を!!
この後に光佑さんに勉強を教えて貰うというご褒美を手に入れる為に!!
「そ、それなら僕も、お願いしようかなぁ」
「いやいや。天王寺君はいっぱい正解してるんだから。たまにはお勉強をしないで休むのも大事だよ」
な、舐めやがって!!
自分だけ! そうやって自分だけ!!
おのれ、夢咲陽菜!!
そして番組では十分に宣伝をしながら、二位という結果で番組を終わる事が出来た。
まぁまぁな結果と言えるだろう。
僕のこの心の中にある闇の部分を除けば、全て万事よし。という所だ。
そしてその日の夜。
僕はせめてネット上で夢咲陽菜がバカにされ、それが光佑さんに届いて失望されるという未来を夢に見る為にパソコンを触っていた。
【陽菜ちゃんの珍解答がおもしろ過ぎる】
【テレビの前で一生笑ってたわ】
【陽菜ちゃん「西から来た人!(キリッ」 司会者「惜しい!」】
【いや、冷静になって思ったけど惜しいってなんやねん】
【まぁ石田は西から来たし。間違いではないだろ】
【総大将は毛利だバカタレ】
【意外と勘違いしている人多い】
【そら敗軍の将に興味なんて無いからね】
【もっと歴史に興味持って】
【陽菜ちゃんに言え】
【陽菜ちゃんは惜しかったし。実質正解してただろ】
【間違いではないということが、正解ではないと、彼に教えるのは難しい】
【陽菜ちゃんのノリと勢いだけの回答すき。押してから分かりません。はもう優勝だろ】
【輝かしい笑顔だったな。会場みんな笑ってたし。一人を除いて】
【陽菜ちゃん「分かりません!」 天王寺「(こいつマジか)」】
【いや、マジでそういう顔してたけど】
【でもまぁ結構ちゃんと点数も取ってるから】
【だからこそたまに出てくる珍解答が目立つわけだが】
【輝きが隠せねぇからさ】
【弟の稼いだ点を無駄にするな】
【姉も稼いでるからセーフ】
【別にセーフではねぇな?】
【まぁでもアホの子ほど可愛いともいうので】
【確かに】
【しかし、姉弟仲良くて、えぇな。まさかドラマはほぼ素か?】
【お姉ちゃんに懐く颯真きゅんは良いぞ】
【私もお姉ちゃんになりてぇなぁ!】
【まず陽菜ちゃんと同じくらい可愛くなります】
【最初のハードルが既に高すぎるんですけど?】
【いやだって、颯真君と並んでも違和感ないくらいの見た目が居るでしょ】
【キッツー】
【や。でも颯真君なら、私でもお姉ちゃんと慕ってくれるはず】
【陽菜ちゃん「私と勝負ですか? 弟君はあげませんよ?」】
【いやな、事件だったね】
【姉対決に負けるとバラバラにされるのか】
【しかも腕は一本見つからない】
【狂気のバトルが過ぎる】
【まぁもう向こうは番組中ずっとおてて繋いでるくらい仲良しだからな】
【陽菜ちゃんとずっと手を繋いでるとか、もう手洗えないじゃん】
【家に帰って、手の匂いを嗅いで。初めての感覚に落ちる天王寺颯真か。アリだな】
【今夜はこれで良いか】
【実際ドラマでも颯真君の演じる藤田陰人はシスコン超えて怪しい雰囲気あるし】
【絶対姉で抜いてるだろ。アイツ】
【そら。あんなに可愛い姉が距離感バグってるのか。ってくらい近くに居るんだぞ】
【まぁ周りの女なんか見えんわな】
【てことは初恋は陽菜ちゃんか。良いね。禁断の恋】
【つまりリアルでも、天王寺颯真の初恋が陽菜ちゃんになるって事!?】
「なる訳無いだろ!!! バァカ! 適当な事ばっかり言いやがって!!」
僕は向こうに聞こえる訳も無いけど、思わずモニターに向かって叫んでいた。
許せん。夢咲陽菜!
僕の名誉をこんなにも、汚して!
絶対に許さないからな!!