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第4話『実に気持ち悪いな』

youtubeで人工音声の読み上げを投稿しております。

https://youtu.be/rnNNrGWKiQQ


あれから。


ドラマの撮影は非常に順調である。


走り出しこそ不穏な空気があったものの。


山瀬佳織を演技と会社で黙らせた後からは実に静かなものだ。


まぁ、そのお陰で夢咲陽菜が調子に乗っているという点は非常に腹立たしいのだが。


それはそれとして。


夢咲陽菜という女は非常に厄介な生き物だと僕は感じていた。


演技の才能に関しては? まぁ? 僕程じゃないけど。それなりにある事は分かる。


でも、だからと言って、誰も彼もが初めて演技を見た子供の様に夢咲陽菜にキラキラとした目を向けるのは間違っていると思うのだ。非常に。


まぁ、僕達役者サイドが演技が上手いと騒がれている素人アイドルを見て、じゃあ試してやろうじゃないか。


なんて事を考え始めたのがそもそもの原因の様な気もするけど。


それすらも乗り越えていく夢咲陽菜が注目されるのは必然と言えば必然なのだけれど。


だから納得しろ。と言われれば、それはそれだとしか言いようがない。


しかし、しかしだ。正直な所、僕は夢咲陽菜の演技が好きじゃない。


確かに、アドリブを不意にぶつけられて、違和感のまったくないアドリブでそれを返し、それが採用されたり。


圧倒的な演技力で迫るが、まるでそこに本人が居るかの様な存在感で追い返したり。


そういう物を見ていると、あぁ、才能があるんだなと思うのだけれど。


何だろうな。究極的に、夢咲陽菜は演技をしていないのだ。


ただ、与えられた役になりきって、話して踊って歌っているだけ。


そこに彼女の意思はない。


夢咲陽菜はあくまで人形の様に、鏡の様に、そこにある物を映し描き、動いているだけだ。


「実に気持ち悪いな」


「おいおい。こんな美少女を見ながら気持ち悪い。は無いんじゃないか? 天王寺くん」


「宗近さん」


「さっき撮った奴かい? 上手く出来てるじゃないか。少し見ない間に成長したな。天王寺くん」


「宗近さんにそう言っていただけると嬉しいです」


「だが、君が気になるのは、陽菜ちゃんか」


「はい。彼女の演技を見ていると、何か不気味というか。怖さを覚えて」


「ふむ。そうか。まぁそうだな。人は理解できない物を見ると恐怖を感じるというが、今天王寺くんが感じているのは、まさにソレだな」


「理解、出来ないもの?」


「そう。夢咲陽菜という少女は、その内側に怪物を飼っている様に俺には見える」


怪物という言葉の真実を確かめる様に、僕は画面に映る夢咲陽菜の動きを追った。


「俺も役者をやって三十年くらいだが、かつて彼女と同じ目をした少女に会った事がある。星野雛。という名の少女だ」


「星野雛。夢咲、陽菜?」


「そう。奇しくも彼女と同じヒナという名前を持つ少女だ。彼女は演技の天才だった。いや、天才という言葉では言い表せない。しいて言うなら、そう化け物だった。彼女は異常なまでの洞察力と表現力によって、より完璧に、より正確に、よりハッキリとした質感で、その人物に成る事が出来た」


「憑依とか言われる現象でしょうか」


「まぁ感覚としてはそれに近いな。ただ、彼女のソレは憑依という言葉にしても良いのか分からん。憑依にしたって元の人間の人格や癖やらは残るものさ。そしてそれがその役者の個性とか、らしさって奴になるんだろうが、彼女にはそれが無かった。自分という物を全て明け渡して、自分を全て塗りつぶして、その人物に成った。初めて見た時は鳥肌が消えなかったよ」


「その人は……」


「亡くなったよ。役に食われて、自分がどんな人間だったかも思い出せなくなって、病院に入って、最後は存在する筈もない病でな」


「……」


「もしアレが役者としての頂点だっていうんなら、俺は二流で良い。そう思ったね」


「その存在するはずのない病気って言うのは、まさか」


「あぁ、君の想像通り。彼女が最後にやった役の人物が罹った、架空の病気だよ」


僕はその話を最後まで聞いて、恐怖に体を震わせた。


本当にそんな事が、この世にあるのか。


あり得ないと思いつつも、信じてしまうのは夢咲陽菜という現実がここに居るからか。


「なんてな」


「……は?」


「冗談だよ。冗談。そんなオカルトみたいな事ある訳ないだろうが」


「は、は!? じゃあ、さっき言ってた星野雛って人は!」


「全部俺の作り話」


「くぅぅんの!! 騙したなぁ!」


「ガハハ。俺の最推しである陽菜ちゃんを不気味なんて言うお前への罰だ。クソガキめ」


「ガキじゃない!」


「ガキって言われて怒ってるウチは、まだまだガキなんだなぁ。さて、俺は陽菜ちゃんにサイン貰いに行こうかな!」


「何処へでも行け!!」


僕は宗近さんを追い払って、また夢咲陽菜が映っている映像を巻き戻した。


少しでも演技を研究して、より良い役者になる為に。


「あー。一つ言い忘れてた」


「なんですか!?」


「あんまり、彼女の姿を気にしすぎない方が良い。あぁいうタイプは俺たちとは違う。お前も食われるぜ?」


「……分かってますよ」


「なら良い。さぁーて。俺はチェキでも貰いに行っちゃおうかな!」


最後まで真面目なんだか、ふざけてるんだか分からない宗近さんに頭を抱えながら、僕は少し休憩しようと映像から目を離した。


『食われる』か。


分かってはいるんだけど、妙に気になってしまう。


あの女が……。


と夢咲陽菜に視線を移そうとしていた僕は、他の共演者にせがまれてキャッチボールをしようとしている光佑さんを見つけ、椅子から飛び降りて走っていった。


今日は僕がキャッチボールをして貰う為にグローブとボールを持ってきたのに横入りとは汚い奴だ。


順番を守れ順番を!!


ただし、夢咲陽菜。お前は最後だ!!




その日の夜。


僕は木村さんに教えてもらったパソコンで、放映された第一話の感想を見ていた。


ネット上では夢咲陽菜の演技力について騒がれているらしい。


木村さんの話ではネット上に居るのは自称評論家ばかりで、役に立たないコメントばっかりだって言ってたけど。


結局僕らを観て楽しむのはそういう人たちなんだから、意見は意見として見ても良いとは思う。


まぁ参考になるかは知らないけど。


しかし、さらりと見て思うけど。よくもまあこんな好き放題書けるなとは思う。


【いやー陽菜ちゃんの演技力高すぎだろ】


【言うて本人そのままみたいな役だしな。これで違和感あったらむしろヤバイ】


【言うほど陽菜ちゃんそっくりか? 割と暗い面もあるし、そういう所も凄い自然だったぜ?】


【だから演技力が高いんだろ】


【いや、まだ陽菜ちゃんが大きすぎる闇を抱えている可能性が】


【要らんねん。そういうの。やめろよ。ただの明るいアイドルで良いだろ】


【そうだ。要らん設定を付け加えるな】


【でもドラマの方は闇抱えてる設定で行くんだがな】


【それは陽菜ちゃんじゃないから】


【まぁ確かに】


【てか、アイドルが本業なのに、これだけ演技力が高い陽菜ちゃんに比べて、山瀬佳織は】


【所詮二世】


【二人で話してるシーン。どっちがアイドルでどっちが役者か分からなくなったぜ】


【アイドルにフォローして貰ってる役者が居るって本当ですか!?】


いや、山瀬佳織の演技はそこまで悪くない。


アレはしいて言うなら夢咲陽菜の性格が悪い。


しいて言わなくても夢咲陽菜の性格は悪いんだけど。


山瀬佳織の癖を見抜いて、苦手な部分を見つけ出して、あえてそこを突く様にしつこく迫ったのが原因だ。


その上でフォローしてやったみたいな顔してるんだから、本当に最悪だよ。アイツは。


でも、まぁ。


先に突っかかったのは山瀬佳織だしなぁ。こっちとしてはどっちにも絡みたくない所だ。


【しかし天王寺颯真とか宗近清史郎は安定してんな】


【そらそうよ。マジモンのベテランだぞ】


【そんな二人にも食らいついてる陽菜ちゃん……! 流石や】


【宗近と言えば、最近宗近の呟き荒れてんな】


【え? マジ? 炎上って事?】


【いや、あのオッサン地下アイドルの追っかけすらするアイドルオタクだから、陽菜ちゃんとの共演で壊れてる。毎日嬉しいって発狂呟きしてるわ】


【そういう荒れてるかい。いい年して】


【なんだ俺らだったのか】


【鏡見た事ある? 目付いてる?】


【ドルオタやってなかったらただの渋いイケメンだぞ。男でもカッコいいと思う程度にはな】


【オタクがデバフみたいな扱いなんですけど!?】


【いや、デバフだろ】


【むしろ呪いの装備】


【この装備を外す事は出来ない。この装備を外す事は出来ない】


【どうすれば外せるんだよ】


【教会に行け。シスター陽菜ちゃんが外してくれる】


【そんなんそのまま陽菜ちゃん教に入信するだけやんけ】


【まさに無限ループ!】


……。


今日はこんな所にして寝よう。


あまり有益な情報は無かったし。


宗近さんのそんな姿は見たくなかった。

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