表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

5

 冷たい朝露が顔に触れる感覚で目を覚ました。目を開けると、木の葉越しに柔らかな朝日の光が差し込んでいた。寝床からゆっくりと体を起こし、昨夜の寒さと恐怖を思い出しながら周囲を見渡した。


 焚き火の跡には、燃え尽きた薪の灰が静かに残っていた。蓮は冷たい空気が肌に触れるのを感じながら、焚き火が夜の間に消えてしまったことに気付いた。


 「また火が消えちゃったか…」


 少しの不満を感じながら呟いた。昨日よりも寒さを感じなかったものの、夜の間中焚き火の灯りがないことが彼に不安をもたらしたことは否めなかった。


 昨夜は、煙で虫を追い払うことに成功し、寝床の環境は少し改善されていた。しかし、熟睡することはできず、何度か目を覚ましてしまった。特に、夜中に聞こえる獣の遠吠えや風に揺れる木の音が彼の不安を煽り、心臓が高鳴るのを感じた。


 「まだ怖いな…」


 伸びをして体の固まった筋肉をほぐした。昨夜は焚き火の暖かさと集めた葉のクッションのおかげで少しは快適に過ごせたが、完全に安心して眠ることはできなかった。


 昨日と比べて環境が少し改善されていることに満足感を覚えつつも、まだ改善の余地があると感じていた。


 「もっと住みやすくする方法を考えないと…そして、もっと食料を確保しないとな。今日は頑張ってみるか。」


 そう決意しながら、朝の静けさの中で新しい一日の始まりを感じ、気持ちを引き締めた。


 朝の冷たい空気を深呼吸しながら、今日の行動計画を考えた。昨日は水辺で魚を捕まえて体力を回復できたが、同じ場所に頼り続けるのはリスクがあるかもしれない。新しい食料源を探すか、再び水辺に行くか迷っていた。


 「昨日の水辺に行くのもいいけど、他の場所も探してみるべきかもしれないな…」


 新しい場所での発見があれば、食料のバリエーションも増えるかもしれない。一方で、水辺は安全で確実な食料を提供してくれた場所でもある。


 拠点の周りにはスライムくらいしか見かけないため、少し安心していたが、拠点から離れることで未知の生物に出会うことに対する不安も少し感じていた。


 「まずは新しい場所を少し探してみて、それでも見つからなければ水辺に戻ろう」


 そう決意し、新しい食料源を探すために森の奥へと足を踏み出した。木々の間を歩きながら、食べられそうな果物や植物を探し、鑑定のスキルを使いながら安全かどうかを確認していった。


 森の中を進むうちに、彼の目に赤い実がなる低木が映った。蓮はその実を手に取り、鑑定の力を使った。


 [赤い実 - 食用。ビタミンが豊富]


 「これなら食べられるな」


 少しの実を摘み取り、少しずつ食べながらさらに探索を続けた。しかし、他に目ぼしい食料が見つからなかったため、再び昨日の水辺に戻ることにした。


 「やっぱりあの場所が一番確実だな」


 再び水辺に向かい、昨日石で覆った囲いがまだ残っていることを確認した。水の中には、再び小魚たちが泳いでいた。


 「ここでまた魚を捕まえよう」


 昨日の経験のおかげで、今日は魚を捕まえる手際が良くなっていた。石で作った囲いを使い、魚を追い込む作業を再開した。慎重に手を伸ばし、魚を捕まえることに集中した。数匹の魚を捕まえることに成功し、昨日よりも多くの魚を確保できた。


 「これでしばらくは食料の心配はないな」


 捕まえた魚は8匹で、その中には少し大きめの魚も含まれていた。2~3日分の食料になりそうだったため、蓮はそのうちの半分を燻製にしようと考えた。


 「半分は燻製にして保存しよう」


 まずは魚の処理を始めた。大きめの魚を手に取り、石を使って鱗を取り除き、内臓を出して川の水で洗った。処理を終えた魚を慎重に干し、燻製を作る準備を整えた。


 次に、火を再び起こすために必要な材料を集めた。乾燥した葉や小枝を使い、火を起こす作業に取り掛かった。火が安定した後、燻製用の煙を作り出すために、湿った木を使って煙を発生させた。


 「これで燻製ができるはずだ」


 燻製用の装置を簡単に作り、魚を吊るして煙で燻す作業を始めた。これで数日分の食料を確保できることに安心感を覚えた。


 「少しずつだけど、確実に良くなってきてる」


 蓮は自分の手で環境を整えながら、この異世界での生活を少しでも快適にするための工夫を続けた。次第に心の余裕が生まれ、この世界の謎や自分の目的について考える時間も増えてきた。


 燻製作りの合間に、ふと考え込んだ。


 「どうしてあの時、燻製の方法を知っていると思ったんだろう…」


 焚き火のそばで魚を燻製にしながら、自分の記憶が少しずつ蘇り始めていることに気づきつつも、まだその断片的な記憶は彼の全貌を明らかにするには足りなかった。燻製の方法を思い出したのも、スライムを倒した後のことだったが、その理由もはっきりとは分からないままだった。心の中で燻製の方法を思い出した瞬間の感覚を思い返す。それはまるで、長い間忘れていた知識が突然蘇るような感覚だった。 


 蓮は一度深呼吸をして、心を落ち着けると決意を新たにした。


「もっとこの世界を見て回って、自分が何者なのか知るための手がかりを探そう」


 これまでの経験から、異世界には自分の記憶やアイデンティティに関わる重要な情報が隠されているかもしれないと感じていた。燻製の知識が突然蘇ったように、他の場所でも何かしらの手がかりが見つかるかもしれない。


 蓮は新たな決意を胸に、当面の間は拠点をベースに生活を続けることにした。安全で食料も確保できる場所を基盤に、この世界についてもっと知識を深め、自分の能力を向上させる必要があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ