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蓮は水辺に向かって歩き出した。太陽の光が木々の間から差し込み、清々しい空気が彼の気持ちを和らげてくれた。昨日の果物では満足できなかったため、今日はもっと食べられるものを見つけることを目標にしていた。
水辺に到着すると、澄んだ水が流れる川の景色が広がっていた。水の音が心地よく、少しだけ心の緊張が解けた気がした。蓮はまず喉を潤すために手ですくって冷たい水を飲んだ。水が喉を通る感触は心地よかったが、不安が頭をよぎった。この水は本当に安全なのだろうか?
「この水、大丈夫かな?」
疑念を抱きつつ、鑑定スキルを試してみることにした。心の中で「鑑定」と呟き、水をじっと見つめると、頭の中に情報が流れ込んできた。
[川の水 - 安全。飲用可]
「名前だけじゃなくて、安全かどうかもわかるんだ」
蓮はその結果に驚き、少し興奮がこみ上げてきた。鑑定スキルが進化しているのかもしれない。
「スライムを倒したからかな?」
理由は定かではないが、この世界での生活が少しずつ楽になっていく予感がした。
水が安全であることがわかり、安心して喉の渇きを癒すことができた。冷たい水が体に行き渡り、エネルギーが少しずつ戻ってくるのを感じた。
次に、水辺を見渡していると、小魚が水中を泳いでいるのを見つけた。見たことのない魚に対して、再び不安が募る。魚が食べられるものかどうか確かめるため、再び鑑定スキルを使った。
[小魚 - 食用。焼いてから食べると安全]
魚を捕まえるために、周囲に落ちている石を集め始めた。丸い石をいくつか手に取り、それを使って簡単なトラップを作ろうと思いついた。石を川の浅瀬に並べて、小さな囲いを作ったが、魚はなかなかその中に入らない。
「どうすればいいんだ」
焦りを感じながら、何度もトラップを調整した。魚が警戒して近づかない様子に苛立ちを覚えつつ、少しずつ工夫を重ねた。囲いを広げ、石の配置を変えることで、魚が自然に入りやすくなるように試みた。
「もっと効率的に捕まえないと」
さらに工夫を凝らし、逃げ道を無くすために石を配置し直した。石で囲いを作った後、小魚たちを追い立てるように手を動かし、水中で魚を誘導することにした。小魚たちは警戒しながらも、少しずつ石の囲いの中に入っていく。
「今がチャンスだ」
蓮は素早く手を伸ばし、一匹の小魚を掴んだ。しかし、水中で素早く動く魚を捕まえるのは容易ではなかった。何度も逃げられ、手が滑ってしまう。水面の反射で魚の位置が見えにくくなり、焦りが募った。
「もう少し」
集中し、もう一度魚に手を伸ばした。今度は慎重に動きを見ながら、魚を確実に捕らえた。手のひらより一回り小さい魚だった。
「よし、一匹目だ」
その魚を安全な場所に置き、再び川に目を向けた。次の魚を捕まえるために、同じ方法で魚を囲いの中に追い込んだ。手を使って魚を追い立てる動作は少しずつ慣れてきたが、依然として魚は素早く動いて逃げようとする。
「もう少しで」
蓮は石をうまく配置し、魚の逃げ道をさらに狭めた。囲いの中に追い込まれた魚を見て、再び手を伸ばす。慎重に、そして素早く魚を掴むと、また一匹捕まえた。
「二匹目」
息をつきながら、捕まえた魚を見つめた。捕まえるたびに少しずつコツを掴んできた気がする。
「もう少し頑張ろう」
次の魚を捕まえるために、再び同じ方法を繰り返した。手のひらより一回り小さい魚が3匹目に捕まったとき、少し達成感を感じ始めた。魚の動きを見極め、タイミングよく手を伸ばすことで成功率が上がってきた。
「あと一匹」
最後の一匹を捕まえるために、再び集中した。魚を囲いの中に追い込むと、今度は素早く、確実に手を伸ばした。手の中で感じる魚の滑らかな感触が、捕まえたことを知らせてくれた。
「これで四匹目だ」
苦労した割には少ない成果だったが、何かを行って成果が出たことに喜びを感じた。
「やった。これで少しはまともな食事ができる」
魚を手に持ち、近くの平らな石の上に置いた。次に、魚を調理するための準備を始めた。道具がないため、鱗を取ったり内臓を取り除いたりするのは難しかったが、川の水でよく洗い、できるだけ清潔にした。手で魚の表面をこすり、泥や汚れを落とすことに集中した。
蓮は木の根元に戻った。蓮は朝に火を起こしていたので、残り火を使って魚を焼く準備を始めた。
まず、火種を確認し、乾燥した枝や葉を追加して炎を大きくした。火が再び勢いよく燃え始めるのを見ながら、彼は魚を焼くための枝を用意した。手頃な太さの枝を見つけ、それに魚を刺して焚き火の上にかざした。
「これで大丈夫かな」
魚を焼きながら、香ばしい香りが漂ってくる。魚の表面が少しずつ焦げ始め、良い匂いが広がった。蓮は枝を回しながら、魚が均等に焼けるように注意深く見守った。
「この匂い、本当に食欲をそそるな」
魚が適度に焼けたと感じた蓮は、火から魚を取り出し、少し冷ましてから口に運んだ。焼きたての魚を一口かじると、その柔らかさと風味が彼の期待を超えてきた。
「美味しい!」
思わず声に出してしまうほど、魚の味は素晴らしかった。外はカリッと、中はふんわりとしており、口の中で広がる旨味が蓮を満たした。昨日の果物とは比べ物にならないほどだった。
魚を食べ終えると、物足りなさを感じながらも久しぶりのタンパク質を摂取できたことに満足感を覚えた。手のひらより一回り小さい魚が4匹では十分な食事とは言えなかったが、それでもエネルギーが補充されたことに感謝した。
「これで少しは力が出るな」
蓮は夕暮れが近づいていることを感じ取り、焚き火の灯を絶やさないように薪を集める必要があると思った。
周囲を見渡して乾燥した枝や落ち葉を探し始めた。焚き火の炎を保つためには、十分な量の燃料が必要だ。森の中を歩き回りながら、手頃な大きさの枝を拾い集めていった。
「今日の分は足りるかな?」
何度か往復して焚き火の近くに薪を積み上げる。手際よく集めた薪を焚き火に追加しながら、炎が再び勢いを増すのを確認した。炎の暖かさが彼の体を包み込み、心に安らぎをもたらしてくれる。
「焚火があれば昨日よりは安心だ」
蓮は自分に言い聞かせながら、焚き火のそばに腰を下ろした。日が沈み始め、森の中は徐々に暗くなっていく。焚き火の明かりが彼の周囲を照らし、その暖かさと安心感が彼を包み込んでいた。
焚き火の炎を見つめながら、今日一日を振り返った。魚を捕まえ、食事をとり、薪を集めて焚き火を保つことで、自分の力で生き抜く術を少しずつ学んでいることを実感した。
「明日はもっと食料を探してみよう」
新たな目標を胸に抱きながら、蓮は焚き火のそばで静かに夜を過ごす準備を始めた。異世界でのサバイバルは続いていくが、彼の心には希望と決意が満ちていた。次なる冒険が彼を待っていることを信じて、蓮はゆっくりと目を閉じた。