会談2
「彼は異邦人だと聞いているが?」
カールの目が俺に向く。まつげに覆われた眼窩からは、その真意が読み取れない。
「そうだけど、なに? 誰をパートナーにしようが、私の勝手でしょ?」
「まぁそうだが。色々と気苦労が多いだろう」
「関係ないし、つまんない世間話はやめて。本筋以外の話はするつもりないから」
ラハは敵意を露呈し噛み付くが、カールは動じた様子を微塵も見せない。優雅に紅茶を啜っている。これも経験の差か?
「つまらない女だ。で、その本筋とは?8
「とぼけんなクソジジイ。旅団と手組んで、私をハメようとしたくせに」
「ビジネスパートナーの要求に答えようとしただけだ」
「何がパートナー、よ。昨日まで犬猿の仲だったくせに」
「昨日の敵は今日の友。そろそろ、この街も落ち着くべきだと思ってね」
「あんたたちが全員死ねば、少しは静かになるんじゃない?」
「そう思うのは勝手だが、喜ぶ者が多いのも事実だ。街には旅団という圧倒的な力が君臨し、街は今よりも平和になる。私たちは安定したポジションと報酬で、不安定な稼業から足を洗える。互いにWIN=WINな関係。君一人の犠牲で、それが現実になるんだ」
「ざけんなカス・マカーノ」
俺は我慢しきれず、閉じてた口を開く。
「助手‥‥‥!」
ラハが止めに入るが、もう遅い。部屋全体の視線が俺に集まる。
「異邦人、なにか言いたいことがあるのか?」
「こいつがどれだけ悪魔と戦ってきたと思う? どれだけ辛い思いをしながら、街の人々を守ってきたと思う? ラハがどれだけ平和を望んでいるか、お前想像もつかねぇだろ!!」
助手の俺にも想像できないくらい、ラハは悪魔を憎み、平和をね願っている。どれだけ罵詈雑言を浴びようと、体が傷つくつきようと、人を守るために戦う。
その覚悟をただのギャングが分かるはずもない。ましてや無下にするなど。
「彼女がハンターとして街の防壁となってたのは事実だ。彼女に命を救われた者も多いだろう。ただ、何事にも終わりはある」
「そうやって御託ばっか並べて‥‥‥ギャングも大したことないな」
「なに?」
カールは咥えた葉巻を揉み消した。
「助手、本当にもういい」
「いいやよくない——そもそも、こいつらが厭戦旅団にビビっているのが原因だろ」
「ビビっている、だと?」
カールの声色が一段低くなる。部屋の温度が急に下がった気がした。
「さんざん暴れて、殺して、壊して、好き放題してたのに、いざ外から強い奴が来たら戦わずに従う。これのどこがビビってないんだよ。お前ら全員ラハを見習え」
少なくともラハは俺の前で敵に屈することはなかった。今だって彼女は、こうやって真正面からぶつかっている。
「くくっ‥‥‥くくく」
しかしカールはくつくつと喉を鳴らすだけで。
「何がおかしい?」
「いやいや、まさかこの歳になって説教されるとはな——命が欲しかったらそこまでにしておけよ。クソガキ」
華奢な体貌とはかけ離れた、獲物を待つ野獣にような低く太い声が唸り出た。
「お、脅しのつもりか? あいにく、一回死んでる身でな! お前なんか全然怖くな‥‥‥痛っ!!」
鋭い痛みが足に走った。
「調子に乗りすぎ。どんだけキザなのよ。声、震えてるし」
「だからって踏むことないだろ!」
せっかくかっこいい所だったなのに。
「話を戻そう。私の要求はただ一つ。私と組んで、厭戦旅団と一緒に戦って」
「その見返りは?」
「旅団を追い返した後、残ったあいつらの武器とか悪魔は好きなようにしていいよ」
「じゃあもし、私たちがそれを使って街で悪事を働いたとしたら?」
「そん時は私が全員ぶっ殺す」
自信満々にふんっと鼻を鳴らしてラハは言う。
この同盟はあくまで一時的なもので、旅団を追い返したらまた敵同士ってことか。
そんな奴らと手を組むのはいささか不安だが、まぁ背に腹は代えれない。
「ふむ。話だけ聞けば魅力的だな」
「でしょ? 私の武力とあんたらの頭数があったら、旅団なんてイチコロよ」
だから一旦休戦条約、と。面倒くさそうにラハは手を差し出す。
「‥‥‥」
対するカールは何も言わない。考え込んでいるのか。石像のように固まっている。さっきの気勢も、どこ吹く風で影を潜めている。
「君たちの言い分も分からなくもない」
「そうゆのはいいから。組むの? 組まないの? 腕伸ばすのもう疲れたんだけど」
「私たちの答えはこうだ」
それを合図に、俺たちを囲んでいた警備が全員懐から銃を突き出した。
「‥‥‥後悔することになるわよ?」
「旅団は君をお望みだ。悪いが、ここで死んでくれ。ついでに君も」
おまけ感覚で俺を殺すな。そうツッコミたかったが、そんな雰囲気でもない。
「すっかり旅団様のお犬ってわけね。ふーん。なら二人でやるからいいですよーだ!」
ラハと俺は両手を上げる。目と鼻の先に黒く丸い、底の見えない丸い銃口が。




