カール・マカーノ
「あんたらの親玉に会いに来たよ」
「入れ」
門に近づくと脇から重装備の警備が何人も出てきて。あっという間に四方八方を囲まれてしまう。
「ついてこい」
警備一人を先頭にして、屋敷の中へ入っていく。中はどこぞの西洋の宮殿を思わせる豪奢な造りだが、こうも囲まれてると、落ち着いて見ることもできない。
「ここだ」
警備の足が止まる。
玄関から長い廊下を突っ切った最奥の部屋。他に比べ一層、装飾を施された扉が、悠然と見下ろしている。
「さっき言った通りにしてね」
ドアノブに手を置き、そっとラハは耳打ちする。
「お前の可愛さをカーノにプレゼンしてやるよ」
「命を捨ててまで雇い主を立てるなんて、できた助手だね」
楽しい会話もそこそこ。俺は深く息を吐いた。
下手なことは言わないでいい。二人が作る会話の流れに、乗っかるだけでいい。
もしその流れを乱し、相手の機嫌を損ねたら。
‥‥‥余計な思考は集中を削ぐ。
ラハが扉を開ける。
贅の極みを尽くしたような応接室。座ったソファは程よくし沈み込み、目の前のテーブルは鏡のように磨かれている。
壁に掛けられている、古今東西の絵画はカールの趣味だろうか。浮世絵もある。
「なんか、ここまで豪華だと落ち着かないな」
「でも紅茶は飲み放題」
ラハは備え付けられたティーバックとポットを手繰りよせる。
「緊張感のかけらもないな」
「腹が減っては戦ができぬ。喉が渇いても同じでしょ?」
「だから敵地で補給か」
「こういう時こそ、大胆不敵にね。はい、君の分」
「飲んでいいのかよ」
「もしかしたら、これが最後の晩餐かもしれないし、飲んでおいたら。めちゃくちゃ美味しいよ」
一杯、二杯とラハは紅茶を飲み続ける。これはもう、俺が飲む飲まないでどうにかなるレベルじゃないな。
結局、俺もカップに口をつけてしまった。普段から紅茶などという洒落たものとは縁がないせいか、あまり味の良し悪しは分からないが、香り良くすっきりとした味は飲みやすい。
三杯までは無礼じゃないよな。俺もポットからカップに注ごうとすると。
——その時、後ろの扉が開いた。
両隣に警備を多く侍らせた、白髪の老人が、それだけで育ちの良さを感じさせる歩調で、俺らの対面に座った。
「客人を待たせて悪いね。私が、カール・マカーノだ」
ワックスが効いた白銀の髪に、同じく白いまつ毛が上瞼を覆ってい。無駄な肉を一切削ぎ落とした細身は、境地に至った武人のようで。
「自己紹介するまでもないよね。ラハ。こっちは助手の万場」
「どうも」
俺はそれとなく頭を下げる。
ギャングの親玉だから、それなりの壮年男性をイメージしてたけど、これはまた違う意味で予想外だ。
その辺の公園で日向ぼっこでもしてそうな風体だが、やはり肩書きの力か。カールが入ってきてから、鳴りを潜めていた緊張感が一気に息を吹き返した。




