消失1
「もーほんと、あんた面倒臭すぎでしょ」
息絶えた黒人の体は、砂のような細かい火花になって、風に運ばれていく。
——やっと終わった。
私は肩で息をしながら、その場に膝を立てて座り込んだ。胸をを包んだ炎は、まだ熾火のように燻っている。
久しぶりにこいつ使った。体中熱いし、体力の消耗が激しい。こうやって、意識を保って、思考を巡らすことも、正直キツイ。
でも、ここで弱ったら、私の中のあいつが顔を出す。まだ殺したい奴は生きているのに。それだけは嫌だ。
座っているのすら辛い。私はその場に仰向けになった。見上げた視線の先には、黒煙で上書きされた夜の空が広がっていて。
——今更ながら、とんでもないことになった。まさかサル・マカーノが悪魔人間を使ってくるとは。
何かおかしい。サル・マカーノレベルのギャングが悪魔人間なんか扱えるわけない。やっぱり背後に何か大きな組織があるのか。
いや、私を狙った時点で察しはつく。
あいつらが、この街に戻ってきてる。狙いは十中八九、私。
ふと、遠くの方から馬車が走る音が聞こえてきた。さすが私の助手。頼んだ仕事は必ずこなしてくれる。
馬鉄が地面を叩く音は止み、こっちに走ってくる影が視界の端に映った。
「ラハ! ラハ、どこだ!?」
「こっちだよー」
私は右腕を掲げ、か細い声を出した。
「ラハ! 無事か!?」
助手が血相を変え、私の肩を揺さぶる。
「無事だよ。ラハちゃんもう元気満々」
指で親指を立てると、助手の表情がはっきりと弛緩した。
「あの化け物はどうした?」
「勝ったよ。余裕で完勝」
「にしてはボロボロだけどな」
うっさい。
「君がもっと早く来てくれたら、もうちょっと楽に勝てた」
「ヒーロは遅れて参上するってのが俺の国じゃ定石でな。それにあんな化け物、俺の手には負えない」
「逃げないんじゃなかったの?」
「適材適所だ。ラハは正面切って戦って、俺は後ろから狙撃して援護する。人には向き不向きあるからな」
なんじゃそりゃ。そんな戦術、聞いたことないんだが。まったく、勇敢なんだか臆病なんだか。最初の逃げる一辺倒のときよりかは成長しているけど。
「とにかく、今すぐ病院に行くぞ」
助手の横からジキルが顔を覗かせる。
「もう動けない。助手、おぶって」
「話せてるだろ。自分で動け」
「むーりー! 動けない!! 起こしてー!」
「‥‥‥まったく、手のかかるご主人様だな」
助手は私をなんとか持ち上げ、自分の背中に担いだ。固い地面よりも、温度を感じ、柔らかい助手の背中の方が何千倍もマシだ
「って言いながら、実は嬉しかったり。こんな美少女おんぶするなんて、普通の男子じゃ経験できないしね」
「お前、やっぱ元気だろ?」
「もしそうだったら? 君は私を降ろす? こんな岩みたいなガレキの上に、一回おんぶした女の子を落としちゃうの?」
一瞬の逡巡あと、助手は心底めんどくさそうに口を開く。
「クソ面倒そうだから、最後まで行ってやるよ」
「助手のそういう、なんやかんや優しいとことか、けっこう好きだよ」
助手は分かりやすく押し黙ってしまった。この軽口のやり取りも、久しぶりな気がする。
馬車の荷台に私を乗せ、助手がその隣に腰を下ろした。
「今更だけど君、怪我は大丈夫?」
「本当に今更だな‥‥そりゃあ体中痛てぇよ。けど、俺が倒れたらお前も危なかっただろ。だから火事場の馬鹿力を発揮してみた」
「それはありがとう。素直に嬉しいよ。けど、一個訂正させて」
「ん? なんだ? 俺がいなくても勝てたとかいう虚言はNGだぞ?」
「君は火事場じゃなくて、常時バカだよ」
「うん。やっぱお前元気だわ。降りろ。このまま歩いて病院行くぞ」
「それじゃあ僕が来た意味がないだろ」
前からジキルの嗜める声がする。
「このまま二人とも病院に直行だ。怪我が治れば、また存分に夫婦漫才ができるぞ?」
「そんだけ暇になればいいけどねぇ」
私の不穏そうな呟きを尻目に、馬車は走り出す。
まだ助手は知らない。これから私が死ぬことなんて。
「




