戦い
等間隔に吊るされたランタンが、廊下を怪しく照らしている。
いつ敵が飛び出してくるか。私はナイフを構えて、忍び足で進んだ。
ふと、通り過ぎた扉が音をたてて開く。
敵か? 私は踵振り返ったが、見慣れた影が中から滑り出してきた。
「助手!!」
力なく床を這う助手に私は駆け寄った——良かった、生きてる。
「馬鹿野郎。来んの遅えぞ」
鼻から血を垂らしながら、助手は苦しそうに呟く。
「ごめん。ちょっと寝てた」
「呑気すぎるだろ。こっちは拷問受けてたってたのに」
「よく耐えた。それでこそ私の助手だよ」
私は、助手を背中に担いだ。顔血だらけだし、鼻曲がっているし、そこらじゅうから出血している。一刻も早く医師に見せなければ。
「とにかく、ここを出よう」
「ああ。なるはやで頼む——おう、あれ」
助手が後ろを指差す。
「え?」
私が顔だけ向けると。
「うぅ‥‥」
さっき殺した黒人が、床を這いずり回っている。
「ああ。さっきの奴、生きてたんだ。しぶとい奴。あいつがどうしたの?」
「盛り上がってる」
「ん?」
「あいつの肩」
目をよくこらすと——本当だ。黒人の両肩が小山みたいに盛り上がっている。
隆起は収まらず、あっというまに血飛沫をあげて皮膚を突き破った。
「うっわ‥‥」
「なんだあれ‥‥‥」
私たち二人は揃って愕然とする。
姿を現したのは新しい腕と手だった。
黒人の肩甲骨辺りから、日本の腕が生えてきてる。
「ウガァァァァァァ!!!!!!」
けたたましい咆哮を上げて、黒人が突進してくる。幸いそれなりに長い廊下だから、ぶつかるまでまだ数秒はある。
「お、おい! なんだよあれ!!」
「第二ラウンドしたいみたいだね」
「んな流暢なこと言ってる場合か! どうすんだよ!?」
「うっさい。耳元で騒がない。考えてるから‥‥‥助手、走れる?」
「俺は逃げろってか? そんなの、絶対嫌だぞ」
助手の声が明らかに曇った。私の背に捕まる手が、強く握られる。
「逃げるなら二人でだ。俺はお前を見捨てたりなんかしない」
「その気持ちは嬉しいけど、状況を考えて。誰かが殿を務めないと、あれからは逃げきれない。それに見捨てるって、まるで私が死ぬみたいじゃん」
「武器はもうそのナイフしかないんだろ」
私はぎくりとする。前々から助手の観察眼は鋭いと思っていたけど、まさかそこまで見抜いているとは。
「なに? 私が負けるって言うの」
「『状況を考えろ』さっきの言葉、そのままお前に返すぜ。いくらお前でもナイフ一本じゃキツイだろ」
「君の言うようになったね——大丈夫、策はあるよ。必ず生きて勝ってみせる。それに君がいたら足手纏いで逆に危ないよ」
「せっかくの感動的な再会が台無しだな
何を言ってんだか。たった三時間ちょっと離れただけでしょ。
「アァァァァァァァ!!!」
絶叫しながら黒人がこちらに走ってくる。もうそろそろ答えを出さないと。
「信じるぜ相棒。必ず、生きて帰ってこい」
「ああ。任された。君は走って、ジキルを呼んできて」
「分かった。生き残れよ」
助手が私の背中から飛び降り、走り出す。
本当ならもっと労るべきだが、それは後にとっておこう。
助手の後ろ姿が見えなくなる。私は地面を蹴り上げた。




