少女
「私の獲物よ。触らないで」
凛とした声がした。
俺が顔を起こすと。
「あんた、何だ?」
中学生ぐらいか。黒髪の少女がちょっと行った先の小丘に立っていた。
「あんたこそ、誰よ」
少女は目鼻は顔にすっきり収まっていて、遠目からでもその美貌がはっきり分かる。
あれは、カウボーイか?
少女の衣装にも目が行く。古臭い西部劇でガンマンがつけてそうなポンチョに、弾丸が収まっているガンベルト。頭にはメキシコのおっちゃんがつけてそうな、メキシカンハットを被っている。
美少女版ガンマンってところか?
世界観おかしすぎだろ。
「俺のことを助けてくれたのか!?」
離れた少女に俺は大声をあげる。日本語通じるか?
少女は黙っている。ただ丘の上に立ったまま、俺の方を凝視する。
あ、やっぱり言葉伝わらないか。
なら身振り手振りでコミュニケーション取らないと。せっかく遭遇した現地人だしな。知りたいことも山ほどあるし。
俺が腰を上げて、少女に近付こうとすると。
ーパシュン
何もなかった目の前の砂が破裂する。
え、まさか撃たれた?
また砂が弾ける。
やっぱ撃たれてる!!
俺はとにかく両手を上げた。白い布があれば、死ぬ気で振り回していたけど。
なんとかこっちの意図が伝わった。少女は小丘からこっちにスタスタ歩いてくる。
ライフル構えているの、超怖えぇ。もう思いっきり俺に中向けてるし。引き金引いた絶対死ぬじゃん。
俺の背中に嫌な汗が湧く。
「あんた、この辺の人間じゃないわね」
少女は流暢な日本語で、俺に話しかけてきた。
「ていうか何? その変な格好?」
それを言ったら、お前も十分コスプレ衣装だけどな。
「お、俺は万場公。日本人だ?」
俺は喉奥から声を捻り出した。
日本語が話せるなら、日本人も分かるはずだ。
「は? ニホンジン? なんそれ?」
「え、分からないのか? 日本だぞ?中国の隣ぐらいにある島国」
「チュウゴク? だから何? 悪魔の名前?」
「あ、悪魔? お前こそ何言っているんだよ」
確かに、悪魔みたいな奴に殺されて、この意味不明な世界に来た。もしかしてこの少女が関係してるのか?
「悪魔も知らないのあんた? まじで何者? 記憶喪失ってやつ?」
「いや、記憶なら覚えているぞ。名前は万場公。誕生日は7月7日。ラッキーデーだ」
「いやどうでもいいし。やっぱり悪魔?」
少女は下げかけていたライフルを再度構える。
「おいおいおい! なんでそうなるんだよ!!」
自己紹介したのに、悪魔認定かよ。意味ねぇじゃん。
「だって、あんた変だし。人の皮を被った悪魔かも」
「俺が悪魔だとして、どうしてキューピッドに襲われているんだよ。おかしいだろ」
「む、確かに」
「なぁ? おかしいだろ? 天使と悪魔ならともかく。悪魔同士が共喰いなんて」
「‥‥‥悪魔じゃなさそうね」
「分かってくれたか? ならそのライフルを下ろしてくれ」
危なっかしすぎて、ろくに会話できねぇぞ。俺が悪魔じゃないなら、銃はいらないだろ。
「まだ。あんたが人間なら、何者?」
「何者? そうだな」
そう聞かれるとなんとも。ちょっと前までなら一応大学生だったけど。初対面の美少女にニート、引きこもりって言うのは、若干気が引ける。
「まぁ、人間、かな?」
「なんで疑問系なのよ。悪魔でもないし、人間でもない‥‥‥天使じゃないしね」
「男の天使もありだろ」
「天使に性別はないし。まぁ、ただの馬鹿だから危害はないか」
やっと少女はライフルを完全に下ろす。なんとか命は助かったか。全身が一気に弛緩した。
「馬鹿で悪かったな。俺だって気づいたらここに居たんだ」
正確には倒れていた、だけど。
「だったら異邦人ね。たまにいるのよ」
「イホウジン? 何だよそれ」
「住む世界が違うのに、何かが原因でこっちに来ちゃう人」
「ああ、だったら俺も異邦人だ。悪魔に殺されて、こっちに来たんだ」
「ふーん。悪魔ねぇ」
「あんた、なんか知ってるのか」
やけに含みを持たせた言い方だけど。何か知っているなら、元の世界に戻るためにも教えてほしい。
「まぁそれは追い追い。あんた、行くあてあるの?」
「まったく。さっきこの世界に来たばかりなんだ」
「じゃ、私と一緒に来なさい」
すぐ近くに馬がいるから、と。少女は踵を返して歩き始める。
とりあえず、ついていくか。ずっと砂漠に居るわけにもいかないし。
俺も少女の後を追った。




