依頼
ラハは陳列されてる弾薬ケースを、迷いなく自分のバックに放り込んでる。
「おいおい、誰が全品タダって言ったんだい?」
緩くジキルが嗜めた。ここまで堂々と万引きされてるのに、やけに飄々としている。
雑貨屋はあくまでカモフラージュで、本業は武器商。だからあんまし強く出ないのか。
「今日ぐらい許しないさいよ。ケチ。あ、この弾、新型ね。ピクルスも貰うわ。食費もバカにならないし」
「今月もピンチなのかい? ならちょうど君向けの仕事が来てるが」
「どんなの? 悪魔なら喜んで引き受けるけど」
「残念。ギャング絡みの案件だ」
「なーんだ。またサル・マカーノの馬鹿連中?」
「この街でギャングと言えば、彼らしかなかろうに。最近、街中で暴れているらしいから、とりあえず調査を頼む」
サル・マカーノ? また俺を置いて、新しい単語が出てきたな。話の筋を聞く限り、悪魔じゃなくてギャングみたいだけど。
「またあいつら? 全く、こないだ相手したあげたばかりじゃん」
「どうも今回は様子が違うらしいがな」
「なぁ、そのギャング‥‥‥サル・マカーノってヤバいのか?」
このまま俺を置いて話が進みそうだったから、俺は割り込んだ。
「んー。人数は比較的少ないし、犯罪もそこそこ。この辺の拠点している、田舎ギャングみたいなもん。チンピラの集まりみたなもんだね」
棚からくすねたチーズを齧りながら、ラハは余裕そうに笑った。
良かった。いきなり初陣が凶悪な悪魔だったら、やっぱり怖いしな。単純に死ぬ確率も高くなるし。
まずは肩慣らし、じゃないけど、人間を相手に実戦に慣れることができる。そう考えたら、図らずもラッキーなの、か?
「ただまぁ、冷酷さで言ったらトップクラスだよ。この前だって、敵対グループの奴の首、切り落としていたし」
前言撤回。むちゃくちゃヤバい奴らじゃんか。何がチンピラの集まりだ。
俺の知っているチンピラは、土日の夜、バイクで爆走する連中だぞ。
‥‥‥ああ、やっぱ怖えぇ。さっきはこの世界で死んだら元に戻れるとか、ポジティブシンキングしてたけど、さすがに断頭で死ぬのは怖い。絶対痛いだろ
無意識に俺の足先が店の外に向く。今、いきなり走り出せば、ワンチャン逃げ切れんじゃね? この血生臭い現状からも、ラハからも。
相変わらず脳裏にちらつくのはそんな弱気な思考。
「はいはい、逃げないの。怖くないでちゅよー?」
「俺は赤ちゃんじゃねぇし、逃げない」
「足が震えてまちゅよ?」
「これは武者震いだ。戦場に出るのが嬉しくて震えているんだ」
「始めては誰しもそんなものさ。恥ずかしがることない」
揶揄われる俺に、ジキルは助け舟を出す。
「ジキルもそうだったのか?」
コレクションに対する愛情は異常だけど、それでもまだジキルは浮世離れしてるように見える。恐怖とか、そういう俗な感情とは無縁そうだ。
「ああ、奇しくも君と同じ、初陣はサル・マカーノだったよ。ちょうど君と同じ歳の時くらいね。ちなみに失禁した」
「ぷぷっ。そのエピソード、マジで笑えるんだけど」
「失禁って、おしっこ漏らしたのか?」
あまりそういう個人の恥話は聞きにくいけど、本人が進んで喋ってるならいいだろ。
「ああ、大も小も両方、派手にやったな」
「‥‥‥そうか。それはご愁傷様だったな」
俺を励ます意図は感じるけど、絶対涼しい顔して言うことじゃない。どう反応したらいいかも困る。
「そうそう。そんで時間がなかったから、何もしないでサル・マカーノの屋敷に殴り込んだよね」
「え、じゃあケツにモノ抱えたまま、戦ったのか?」
「ああ。あの時は心無しか多く殺せたな」
「だからそんなドヤ顔で言うことじゃないだろ。それになんで漏らして強くなってんだよ。普通逆だろ」
俺はいつのまにか笑っていた。無理にも顔の筋肉を動かした、ぎこちない笑顔だけど、恐怖に染まるよりかは百倍マシだ。体を支配してた緊張も、少しばかり抜けた気がする。
「話が脱線したな。初陣に緊張や恐怖は付きものだ。実戦は訓練じゃないし、もしかしたら死ぬかもしれない。けど、君には心強い相棒がいるだろ?」
「相棒、じゃなくて雇い主ね。そこんところの立場はっきりしたら、守ってあげる」
ラハは肘で俺の脇腹を突いた。
「うっせ。腐っても助手だからな。俺だって、お前を助けてやるよ」
いつまでたっても庇護してもらえる存在じゃ、ラハの助手は名乗れない。俺は俺なりに、逃げずに助手らしく、ラハのサポートに徹しよう。
「ほーう。弱腰な君にしては生意気は発言だけど、心意気は良し。せいぜいその調子で、付いてきたまえ。言っておくけど、助手のペースには合わせないよ」
「望むところだ。俺の華麗な射撃、見せてやるよ」
「話はまとまったか? なら東の酒場に向かってくれ。先日、サル・マカーノの連中が大暴れした。店主から何か情報を掴めるはずだ」
「OK。さっそく行こうか」




