試験
「ジョーク、だよな?」
いやいや、エアガンじゃあるまいし。俺が握っているのは正真正銘の実銃だ。トリガーを引けば問答無用で弾は発射されるし、ラハは死ぬ。
「トリガーから指を離さないで」
引き金から剥がれる俺の指に、ラハはそっと指を添える。
「お前、死んじまうぞ」
「一つ、もしもの話をしよう」
人の話を聞けよ。
「もし私が悪党に人質として取られたとしよう。こうやって銃口を突きつけられているって想定してみて」
ラハ個人の戦闘力を考慮したら、ありえないと断言できるほどのシチュエーションだな。
「私は手も足も出せない。けど君は後手に銃を隠し持っている。いつでもトリガーを引けて、犯人を殺せる。でも撃てば、確実に私も死ぬ。君はそれでも撃つ?」
「一応、聞くが、ジョークじゃないんだよな?」
「もちろん本気。ほら、早くしないと頭のおかしい悪党が、私の頭を吹き飛ばすよ?」
猶予はないってことか。
悪党とやらを制圧するのはもちろんだけど、それでラハが死んでしまったら元もこうもない。なら俺の射撃で悪党だけ撃てばいいが、どうもその選択肢はなさそうだ。
残された結末は一つだけ。
「悪党を説得するよ。それでお前を解放してもらう」
「話聞いてた? 悪党は君の話なんか興味ない。そんなふざけたことしたら、逆上して私を殺すかも」
「なんだか誘導尋問じみてきたな」
ていうか、もう詰んでるだろ。ラハによる捨て身の抵抗もダメ、狙撃もダメ、説得もダメって、打つ手がない。
「どう? こういう状況になったら、私を見捨てて、君は銃を撃つ?」
「言い方もっと他にあるだろ‥‥‥まだ打つ手はある」
「例えば?」
考えろ。射撃みたいな強行手段はなしだ。ラハが死んでしまう。かと言って説得したらしたらで、ラハが死ぬのは同じ。
万事休す。八方塞がり。まさに詰み。俺に出来るのは精々、そんな状況に陥らないように、助手としてラハをサポートするぐらい。
——いや、待て。まだ手は残されているだろ。説得がダメなら、これもラハのに却下される可能性が高いが。
「取引。取引だ。悪党の要求を聞いて、それを叶えてやる代わりに、お前を解放してもらう」
「ふーん‥‥‥じゃあ犯人が君を欲したとしたら」
「俺を欲する?」
それは、あれか? 人身売買とか、生贄みたいな。そんなぞっとしないニーズで俺の肉体そのものを欲すってことか。もしそうなら、俺を待つ結末は死のみだけど、ラハが解放されたらこっちのもんだ。
二人の力を合わせて、契約を反故にすればいい。
「構わない。俺の体が欲しいなら、くれてやる。それでお前が解放されるなら安いもんだ。どうだ? お前の満足いく答えか?」
「‥‥‥」
「ラハ?」
ラハは俺を鋭く睨みながら、微動だにしない。
まさか、今更怖気付いたとか言わないよな?。
「100点」
「お、パーフェクトアンサーだったか?」
「バカ。マイナスだよ。マイナス100点のアンサー。最悪な気分になる、最悪な答えだね」
「何だよそれ。俺の助手としての熱意は伝わらなかったか?」
「伝わるかアホ。ていうか助手としての熱意ってなに? 私がピンチになったら真っ先に逃げるんじゃなかったの?」
「お前の中の俺はどんだけ腰抜けなんだよ。助けるに決まってんだろ」
「どんな危機に陥ったとしても?」
「少なくとも銃を突きつけられてぐらいじゃ、俺の熱意はびくともしないな」
「ほー」
「どうだ? やっと満足したか」
なんだかこっちまで小っ恥ずかしくなってきたから、そろそろ勘弁して欲しい。依然として銃に弾丸だって装填されてるんだし。
「まぁ、君の真意は分かったよ」
ラハはゆっくりと銃から手を離す。両手を上にあげ、俺からそっと離れていく。
どうやら茶番は終わったらしい。
「今更だけど、今のはなんだったんだ?」
「ちょっとした適正試験。君が本当に私の助手に相応しいかテストしたの」
「もうとっくに奴隷契約は済ませていたと思ってたけどな。まだあるんだったら教えてくれ。心臓に悪い」




