才能
実戦経験豊富なラハに教わりたい→それならジキルの方が経験豊富だよってラハ→ジキルもデーモンハンターなのか? ジキルは元デビルハンターだよってノリ→
ジキルのコレクションルームは本格的な射撃場も併設していた。俺はさっそく、ジキルのコレクションを持って実射に入ることにした。
‥‥‥ジキルの唾液でベトベトなのは最悪だけどな。
「そうだ。まずは肩幅に足を開いて、どっしりと構えて。それから大きく息を吐いて、全身の力を抜くんだ——そうだ。初めてにしては中々堂に入っているな」
鉄の板で区切られた個人のブースで、ジキルに手取り足取り教えてもらっている。ラハは無言だ。後ろで腕を組みながら、見守っている。
「まぁ、あっちの世界じゃFPS、それなりにしてたからな」
「FPS‥‥‥? もしかして君は異邦人なのかい?」
ああ、そこら辺の自己紹介はまだだったな。
俺は自分の生い立ちをざっくりとジキルにした。
「ふぅん。日本と言えば、あれだね、大陸の横にある小さな島国」
「お、ジキルも分かるのか」
「もちろんだよ。彼の国の男子は、みんな可愛い顔つきをしているからね。特に君とか」
「‥‥‥それとなく脇の下に手を差し入れるな」
俺は特段、ホモとか同性愛に偏見があるわけじゃないし、なるべく多くの価値観を認めていきたいって思っているけど。
流石にジキルのこれは攻めすぎだろ。
「君の射撃がもっと上手くいくように、適切に指導しているのさ。君には射撃の才能がある。いっそのこと、僕と組んで、その才能を磨かないか?」
「教わるならあんたよりも、実戦経験豊富なラハに教わりたいけどな」
手持ち無沙汰に立っているだけなら、この状況をどうにかしてくれ。俺は後ろで佇むラハに助け舟を求め、そう言った。
「経験で言うならジキルの方が上だよ」
しかし返ってきたのはそんな意外な答え。
「え、じゃあジキルもデーモンハンターなのか?」
「元、ね。今は引退して、君たちみたいな訳ありのハンターたちに、私のコレクションを授けているのさ」
闇の商人みたいなポジションか。
「そそ。だから彼の言う通りにしてたらメキメキ上達していくから、頑張ってねー」
お前、何のために付いてきたんだよ。
ついそう言いたくなってしまうが、考えても仕方ない。筋がいいなら、上達しやすいはずだ。早いとこジキルを納得させて、解放されよう。
言われた通り、肩幅に足を開いてどっしりと構える。銃の照星を眉間の中心に合わせて、深く息を吐きながら静かに目を瞑った。意識が槍の穂先のようにクリアになる。視線はただ一点。向こうに吊るされて的にのみ注がれた。
間髪入れずにトリガーを引く。腹の底から響く銃声と共に、銃弾が放たれた。
「‥‥‥これは本当に、才ありだね」
偶然か必然か、俺が放った弾丸は的のど真ん中を捉えていた。
反動でずれた構えを即座に修正。集中を途絶えることなく、すぐさま第二射を放つ。
また中央。
三射目。またまたど真ん中。
コツはすぐ掴めた。要するに姿勢の問題だ。正しい体勢で、銃をしっかり保持していれば、ある程度自由に射撃ができる。
実戦を考えると、後は早さの問題だな。まぁ、そこは練習するたびに上達すると思うけど。
「素晴らしい。素晴らしいよ平!! 君は射撃の天才かもしれない!!」
「かもしれない、じゃないだろ。俺は天才だよ」
自分でも少々調子に乗りすぎかって思う。けどまさか俺にこんな特性があったとはな。
「調子に乗らないの。ジキル、こっからは私が引き継ぐよ」
「おいおい。おいおいおいおい。そりゃあないだろ。君にこの天才を導けるのかい?」
「私みたいな凡人だからこそ、教えることもあるよ。それに助手はまだ未完成だし、天才じゃない。あんたはいいから、店に戻って。ほら、しっしつ!」
何もそこまで言わなくても‥‥‥。確かにジキルは一癖も二癖もあるキャラだけど、根っからの悪者ってわけでもないだろ。
別に俺としては二人からワンツーマンで教えてもらっても構わないんだけど。そっちの方が早く上手くなりそうだし。
「君が彼に教えることと言えば?」
「何? 気になるの?」
「凡人で平凡な君が、どうしてここまで、彼に執着しているのかなって思って」
「は? 私に喧嘩売ってるわけ?」
「そう捉えてもらっても、構わないが」
見えない火花が、ラハとジキルの間で激しく散り合う。
「まぁ、教えないこともないけど‥‥‥例えば、こことか」
静かにラハは拳で、自分の胸を叩く。
「気の持ちようってことかい? なら僕も」
「あんたはダメ。助手の性癖歪みそうだし。込み入った話もするから、あんたは出て行って。マジで」
「‥‥‥OK。分かった。君の言う通り、そろそろ客が来る頃合いだしね。僕は店に戻る。好きなだけ練習してなよ」
ジキルが射撃場を後にする。
「なぁ、あんな言い方しなくても良かったんじゃ」
ラハの細い指が、俺のリボルバーに伸びる。そのまま自然な流れで、ラハは銃口を己の眉間に当てた。
「私を撃って」




