コレクション
「昨日、やけに外が騒がしいと思ったらやはりお前か。ラハ」
「ジキル。まだ死んでいなかったんだ」
「そっちこそ。今日辺り棺桶がウチに届くかとワクワクしておったわ」
外見と同じく、店内は普通の雑貨屋だった。
野菜に、パンに、ミルクに。普通の食材もあれば、ビールにタバコなんていう嗜好品もある。
bulletは‥‥‥確か弾薬って意味か。これはお国柄ってやつだな。
「そこの坊主は?」
「あ、ども」
俺は軽く会釈をして、視線を逸らす。
「君、コミュニケーション下手すぎない?」
「見た目厳つすぎるだろ」
本当にここ雑貨屋だよな?
ジキル。ラハにそう呼ばれている老人はすらりとした体躯に、白いワイシャツを着ていて、その上に黒いタキシードを着込んでいる。
真っ白でサラサラしている長髪は、丁寧に後ろに撫で付けられている。
雑貨屋というより、バーテンダーじゃないか?
「おい小僧。人は見た目によらないって言葉、知ってるか」
ジキルがカウンター越しに、俺に凄む。
「す、すいません」
「こらこら。私の助手をいじめないでくださいな」
「助手? こんなひ弱そうな奴がお前の助手なのか?」
「人は見た目によらない。ブーメラン刺さっているよ。それに弱くない。トゥピラクを殺したのも、彼なんだよ」
俺は隙を作っただけだけどな。まぁ、ここはラハに話を合わせてもらおう。
「ほぉ。それは本当か? 小僧」
「お、おう。俺がトゥピラクとかいう悪魔をぶっ殺してやった」
「声震えすぎでしょ」
ジキルは何も言わず、手を後ろに組みながら目を眇める。
絶対、疑われている。ただ言った手前、どうどうとするしかない。
「まぁ、骨はありそうだ。それで、今日は何の用だ」
「助手の武器が欲しくて来ました」
ラハが改まった様子で言うと、ジキルはまた目を細める。
「いくら出せる」
「んー。予算はこれ」
ラハは指を三つ立てて、ジキルに向けた。
「でも良い商品があったらこんぐらいは出すよ」
次は五本立てる。銃の値段は分からないけど、多分三十万から五十万くらいだろう。
「分かった。おい小僧。お前、こっち来い」
「あ、はい」
ジキルに呼ばれて、俺は彼の元に出る。
「手、出せ」
「え」
「いいから。別に取って喰われてりしないよ」
まぁ悪魔じゃあるまいし。問答無用で殺されることはないか。俺は恐る恐る手のひらを差し出した。
「ラハもそれなりだが、お前も相当手が小さいな」
「どうも」
「バカ。褒めてなんかいねぇよ。手が小さいってことはデカい銃が持てないってことだ。火力が出せないってことなんだよ」
「別に俺、火力が欲しいわけじゃないんですけど」
俺がそんなの持ったら自滅しそうだし。
「アホカス。悪魔相手に火力が出なかったら話にならんだろ。こりゃあコレクション行きだな」
「コレクション‥‥‥君の手を切ってホルマリン漬けにするんだ」
「あからさまな嘘を吐いても、騙されねぇからな?」
リアクションを期待しているなら他を当たってくれ。
「お前ら、いつもそうやってふざけているのか」
呆れた、とでも言いたげにジキルが訊く。
「いつもって、俺ら会ったの昨日が初めてですよ」
「そうそう。会ったら突然、俺をペットにしてくださいって。こいつがわたしの靴を舐めるから」
おいさらっと事実を虚造するな。ジキルがドン引きしてるだろ。
「お前たちがそういう関係なのは分かった。今日は店閉じまいだ」
ジキルがドアに掛けられて札を、OPENからCLOSEに変える。
そうするとジキルは、カウンターに戻り、何かゴソゴソし始める。
——カチッ
歯車が噛み合ったような、小気味良い音がした。
その瞬間、カウンターの床だったところが横にずれ、階段が姿を現す。
「すげぇ! 隠し部屋って奴か」
アニメとかゲームでしか見たことないけど、本当に実在しているんだ。
いやまぁ、異世界だからあっちの世界のアニメ・ゲームを基準に考えるのもおかしいけど。
「最近は物騒だからな。工夫を凝らさないと、心配で夜しか眠れない」
「ジキルのジョーク久しぶり。相変わらずつまらないね」
「今のジョークだったのかよ」あまりにも真顔で言うから気づかなかったぞ。
暗い階段に消える二人を、俺は追った。
「ジキルのジョークを聞くのも久しぶりだけど、コレクションを見るのもひさびさかも。ちゃんと手入れしているの?」
暗い階段はまだ続く。途中、ガスランタンが足元を照らしてくれているけど、よそ見でもしたら転びそうだ。
「当たり前だ。彼女たちは、俺の宝物。いわば心臓だからな。店が暇になる度に手入れしている」
「なら大丈夫そうだね」
「なぁラハ。ここには俺の武器を買いに来てるんだろ? 彼女たちって‥‥‥」
もしかしなくても、人身売買的な怪しいやつじゃないよな。
街で攫った女子を、地下に幽閉しているとかじゃないよな。
「あれ、君って女の子に指示を出して、後ろで彼氏面しながら戦うタイプのハンターじゃなかったけ?」
「俺のスタイルクソすぎだし、彼氏面で女子に指示出しって、どんなタイプだよ」
「冗談はともかく。安心しな。ジキルがちょっと特殊なだけだから」
「着いたぞ。バカップル共」
「ほら助手。私とカップルになれたからって顔赤くしないで」
「こっからだとラハの耳が真っ赤に見えるけどな」
ランタンで薄暗いけどはっきり分かる。茹でタコみたいにラハの耳は赤に染まっている。あれじゃ、顔も同じ様子だろ。
「‥‥‥さぁ、何のことやら」
「困ったらそれで切り抜けるな」
「うっさい。私がお金出すんだからね? 君は私にイジられていればいいの。分かった?」
暴論すぎるけど、ラハが金を出してくれなかったらここまで骨折り損だからな。
俺は渋々うなづいた。
「よーし。それでいいんだよ」
「話はまとまったか?」
「OK。コレクションを見せてくださいな!」
ジキルが深い闇の中に沈んでいく。
——カチッ
さっき隠し階段が開いて時と同じ音がした。
瞬間、天井に備えられて電灯が一気に灯りをつける。




