怒り
「あ、また来た」
「ただの風だよ」
風にしちゃあ違和感がある。
「もしかして悪魔か?」
「この辺りは私が祝福しているから、悪魔は入ってこれない」
なら動物か? でもこんな悪戯をする動物なんて、チンパンジーぐらいしか思いつかないぞ。
それにテキサスに猿って、どこかミスマッチだし。
「テキサスにチンパンジーとかっているか?」
「熱帯林じゃあるまいし。いるわけないでしょ」
なら動物もなし。
となると残されたのは。
「もういいよ。すぐに収まるし、明日も早い。君を早く寝な」
ラハは不貞腐れたようにベットに身を滑らせて、一方的にランタンの火を消す。
——こいつ、何か俺に隠してない?
ラハのこの態度、怪しいし、納得いかないし、腑に落ちない。けど、俺一人で暗闇の荒野にて犯人の正体を探るわけにもいかない。そんな勇気もないし。
結局、俺は硬い地面の上に敷かれた毛布の上で、身を丸めた。
ただしばらくは寝ず、聞き耳だけ立てていた。
まったく、これじゃあ忠犬だな。
「——おい、これが噂の女の家か?」
「ああ。今朝街で悪魔と大暴れした奴だ」
確かに聞こえた。酷く酩酊した二人の男の声が。
「デビルハンターだけどな、実は懸賞金もかかっているんだ」
「お尋ね者はハンターにはなれないんじゃないか?」
「こいつだけは特別なんだ。ちょっと事情があってな」
「事情って?」
「あの女の中には悪魔が住んでいるんだよ。化け物女だよ。だからこーんな辺鄙なとこ住んでやがる」
「それってまるで、奴隷みたいだな」
「ははっ。言えてるな。あの小屋はさしずめ悪魔の小屋だ。酔い覚ましにはちょうどいいだろ?」
荒野の夜は極端に静かで、小屋の壁も薄い。老いた俺の耳にも、二人の会話ははっきり聞き取れた。
ラハに懸賞金がかかっている? それに悪魔って?
「ただの酔っ払いの戯言だよ」
いつのまにかラハが俺の耳元で囁く。
「‥‥‥お前はいいのかよ? あんな風に言われて」
「別に。慣れてるよ」
「‥‥‥慣れる必要なんか、あんのかよ」
胸の中でふつふつと湧き上がる思いを、俺はそのまま口にした。
懸賞金とか悪魔とか、この際どうでもいい。ラハとは今日知り合ったばっかだし、彼女には彼女なりの事情とか背景とかあるだろうし、嘘か本当かも分からない。
ただ俺とラハが今日、二人で力を合わせてトゥピラクを倒したのは事実だ。
そりゃあ、街に招き入れた俺が悪いかもしれない。けどそれは俺の咎であって、ラハの責任じゃない。
彼女の信念がどうであれ、悪魔と戦い、街の人々を守った。何度も言うけど、それは揺るぎない事実。
それを化け物女とか奴隷とかなんとか。言いたい放題しやがって。
なんだか、自分の頑張りも否定されたみたいでムカつく。
「気にしなくていい。どうせ何もしてこないから」
「あの手の連中は一回味を占めたら、調子に乗って何度も繰り返すぞ」
「私が我慢すればいい話」
ふと、俺の目にはラハが使うライフル銃が目に入る。
——確か、あの金属の部分を起こせば、撃てるんだよな。
「初日から命令違反、許してくれよな」
俺は素早く身を起こし、ライフル銃を掴んだ。




