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第八話 逆転した価値観に困惑中……

「この子たち、あんまり男の人の裸に免疫がないの。だから、あなたのを目にしてちょっと暴走気味になっちゃってたみたい」


 想定外の言葉を投げかけられて呆然としてしまっている俺を他所に、ピンク髪の少女は続けざまに事情の説明を行ってきていた。


 曰く、金髪少女と銀髪少女の二人はこれまで男の裸体を間近で見た経験がなく、耐性がなかったがために性的欲求を抑えきれず、つい勢い余って突っ走ってしまったのだとか……。


 やはり……思春期男子みたいだな……と、一瞬の困惑から立ち直った俺はそんなことを考えてしまう。


 というか……あれだな、金髪少女と銀髪少女の性欲の暴走を特に違和感を覚えることもなく平然と対処している辺り、ピンク髪の彼女もまた、俺とは反転した価値観を持っていそうだよな……。


 これほどまでの価値観の差異を突きつけられると、何だか一夜のうちに俺以外の人々の常識が塗り替えられてしまったのか……なんていう飛躍的な創造までしてしまうな。……本当、未だに理解が及ばない。


 ……まぁ、分からないことを考えても仕方ない。今はひとまず、俺と彼女たちはお互い真逆の価値観を持っているとだけ頭の片隅に置いておこう。


 そうなってくると、それはそれで俺の今の恰好は彼女たち的には目の毒になってしまうわけか……。俺の価値観で例えるなら、10代後半の女性がむやみに上半身を露出した状態で男三人の前に立っている……ということだもんな。


 それは確かに、目のやり場にも困ってしまうかもしれない……。流石にこの状態のまま話を続けさせるのは酷か。とすると……やはり、何か羽織れるものを調達しないとだよなぁ……。


 ……いや、ちょっと待てよ? そもそも、これ以上彼女たちと会話を続ける必要もないのか……。無事かどうかの確認もできたわけだし。


「そうでしたか……となると、このまま皆さんの前に居座り続けるのも良くなさそうですね。……そういうことなら、自分はそろそろお暇させていただきますね」


 そう思い、俺は彼女たちに一礼してその場を去ることにした……のだけど、


「えっ!? やっ、ちょ、ちょっと待って! 悪いんだけど、いろいろと聞きたいことが合って……だ、だからその……もしあなたさえ良ければもう少しここにいてほしいのだけど……」


 彼女たちに背を向けたところで、ピンク髪少女にそう呼び止められてしまった。聞きたいこと……って、一体何なんだろう。


 まぁでも、彼女にそうお願いされては断るわけにもいかないな。既にかなりの寄り道をしてしまっているので、今更急いでもしょうがないしな。


 ……ただ、そうなるとやはり恰好が問題になるよな。


「まぁ、それは構いませんが……それならひとまず、身体を隠せそうなものの調達にだけ行ってきてもよろしいでしょうか」


 とりあえず、上着の確保だけでも……と思い、一旦ここを離れることへの了承を得ようと彼女に手を合わせる。


 けれど、またしても彼女に引き留められてしまった……。


「えっと、それもちょっと待って。あの……差し支えなければなんだけど、良かったらあたしのマント羽織る? あたしに合わせたサイズだから、あなたからするとちょっと小さ目かもしれないけど、上半身を隠すくらいならこれでも事足りると思うの」


 そう言って、彼女はそれまで自分が羽織っていたマントを取り外し、それをおずおずと俺に手渡してきた。でも、その表情は何だか不安そうだ……何故?


 ……まぁ、良いか。貸してくれると言うのなら、態々突き返す道理もない。ありがたく拝借するとしよう。


「よろしいのですか? そういうことでしたら、ありがたく……っと、こんな感じで良いですかね? ちゃんと隠れてます?」


「え、ええ……大丈夫そう。……にしても、本当に何の躊躇いも見せなかったわね。その……嫌じゃないの? 渡した本人が言うのもあれだけど……それ、さっきまであたしが着ていたマントなのよ?」


 彼女から受け取ったマントを手早く身に着けた俺を、ピンク髪少女が微妙そうな瞳で見つめてきていた。……おや? 俺、何か変なことしてしまったか?


 まさか、こういうところにも価値観の差が……? 他人の着ていた服……いや、多分だけど、もっと厳密に言うなら女性の着ていた服だろうな……それを男性が着回すことが、彼女たちの価値観からすると普通じゃないのかもしれない。


 俺の価値観で言うなら、男の着ていた服を女性が躊躇なく着ることと同じ……って、あれ? それって、別におかしなことではないような……。そりゃ、汗臭い服とかだったら嫌だろうけど、それは男女共通認識な気がするし……。


 だが、こういう上着みたいなものであれば、別に男女間で貸し借りしても何ら変なことではないように思う。それを嫌がるのは、よほどの潔癖症だけだろう。


 もしかして、彼女たちの価値観における女性って……相当汚い存在として認識されているのでは?


 しかしなぁ……俺からすれば、どう見ても汚いとは思えない。むしろ、こんな森の中にいながらも、彼女たちからは清潔感すら感じられていた。


 それに、受け取ったマントからも良い香りが漂ってくる。これで汚いというのなら、一体俺はどれほどの汚物に成り下がってしまうのか……。


「いえいえ、そんな……嫌だなんて思いませんよ。とても清潔に保たれているようで、非常に着心地が良いです」


「そ、そう……本当、変わっているわね、あなた。やっぱり、この人が……」


 俺の言葉に、彼女はほっとしたような笑みをこぼしながらそんなことを言ってくる。ふむ、気にしていたのはやはりそこか。


 まぁ、ひとまずは良かった。彼女を安心させてあげることができて何よりだ。最後の呟きまでは聞こえなかったが、まぁ気にするような内容でもないだろう。


 ……さて、それはそうと……そろそろ本題に入ろうか。


「ははっ、偶に言われます。……っと、それで……本題なのですが、聞きたいことというのは何でしょう?」


「あっ、そうだったわね。それじゃあ、早速……といきたいのだけど、その前に……ラフィ」


 俺に促され、ピンク髪少女もポンと手を打ち鳴らす。……が、話し出すより先に何か準備が必要なのか……ちらりと後ろを振り返り、金髪少女にそう声をかけていた。


 ……だが、向こうからの反応はない。先ほどピンク髪少女からのビンタを食らって以降、ずっと呆けた表情でその場に立ち尽くしていた。


「ラフィ? ……ねえ聞いてるの? ラフィっ」


「えっ? あっ、な、何かしら?」


 名前を呼んでも一向に反応を見せない金髪少女に技を煮やしたピンク髪少女が、再度大声で彼女の名前を叫ぶ。


 するとようやく、金髪少女もはっと我に返ったようにそう言葉を返した。そんな彼女の姿に、ピンク髪少女は呆れたような溜息を漏らす。


「何かしら……じゃないわよ。人数分の椅子、早く出して頂戴」


「あ、うん、分かったわ……」


 そんなピンク髪少女からの要求に、金髪少女は慌てたようにこくこくと首を振って応じ、それからそっとその瞼を閉じた。……何か集中しているようだけど、一体何をしているのだろう?


 というかそもそも、人数分の椅子を出してって言っていたけど……果たしてそんなもの、どこから取り出すというのだ? 見たところ、そんなものを収納していそうな何某は見当たらないし……。


 などと思っていると……突然、俺の視界に信じられない光景が飛び込んできた。ど、どういうことだ……? 金髪少女の手元が……急に光を放ち始めたんだが!?


 照明器具とか……そういう類のアイテムを手に持っているというわけでもなく、何もないところから光が生まれているように見える……。て、手品?


 などと驚愕していると、いつの間にか人の背丈くらいの大きさまで広がった眩い光の内側から、突然切り株のようなものが四つ……ぼとぼとと地面に落ちてきた。


「ん、ありがと、ラフィ。それじゃあ……はい、ここに座って座って。立ったままじゃ落ち着けないでしょ?」


「えっ? あっ……は、はい。で、では……失礼して……」


 呆然とする俺の前に切り株……のような椅子を差し出してきたピンク髪少女は、そうあっけらかんと俺に座るよう勧めてくる。


 まるで、今の光景を何も不思議に思っていないようだ……。こ、これも俺と彼女たちの価値観の違い……? も、もう何が何だか……よく分からない……。あぁ……、頭痛くなってきた……。


 ひとまず、俺は彼女の勧めに従い、突如何もないところから現れた摩訶不思議な木椅子に腰かけることにした。……うん、何の変哲もないただの椅子だ。


 見ると、ピンク髪少女と金髪少女も俺の対面で椅子に腰を下ろしていた。……銀髪少女はまだのようだが。


「って、アーナまでぼーっとしちゃって、もぅ……。ほらアーナ、しっかりしなさいな」


「ほえっ? あ、あれ……?」


「そこ、椅子あるから早く座りなさい」


「えっ? あ、分かったぁ」


 未だ立ち呆けている銀髪少女を、またもピンク髪少女が正気に戻し、手早く椅子に座らせてしまった。……小柄だが、彼女はこの中だと姉的な立場なのだろうか。


 などと、混乱の末回らなくなってしまった俺の頭の中では、そんな意味のない思考がぼけっと浮かび上がっていた。


「さて……何から話そうかって思っていたけど……、その様子だと、まず先にあなたの疑問に答えた方が良さそうね」


「えっ、それって……」


「これでも他者の観察は得意でね。さっきからちょくちょく疑問顔を浮かべていたこと、気付いてたのよ」


 ふふんと鼻を鳴らしながら、得意げにそう胸を張るピンク髪少女。……あまり表情に出しているつもりはなかったのだが、彼女にはいろいろと筒抜けになってしまっていたようだ。


 そんな俺の前で、彼女は人差し指を立てながら順を追って話を始めた。


「まずは……そうね、性的観念に関するところから話していきましょうか。多分だけど……さっきあなた、この二人があなたの恰好を頻りに気にしていたことに対して首をかしげていたわよね?」


 ……確かに、認識にずれがあるとは感じていたな。男が上裸をさらしたところで、何の羞恥心も覚えやしないだろう……と。


「た、確かに、ちょっと気にはなっていました。男なんて、水着になればみんな上半身は裸ですし……そんな心配されるようなことはない気がする……って感じで」


「えっ!? み、水着!? 男の人が……!?」


「し、しかも、上半身裸だなんて……嘘でしょ!?」


 俺の言葉に、金髪少女と銀髪少女が同時に声を上げる。彼女たちとしては、今俺が語った内容はよほど衝撃的なものだったらしい……。


 んー、やはり価値観にずれがあるよな……。俺の持っている常識が全くと言って良いほどまかり通っていない。


 金髪少女・銀髪少女のように大げさな反応は見せていないが、ピンク髪少女も静かに表情を驚きに歪めていたし……俺と彼女たちの間に、何か途轍もない隔たりがあるように見えてくる。


「二人とも、落ち着いて。……でも、そう。やっぱりそうだったのね。推測だけど、あなたの常識ではむしろ、むやみに肌をさらすのを嫌がるのは女性の方だったりするんじゃないかしら?」


 ……今度はこちらが驚く番だった。彼女のその言葉は、まさしく的を射ていたのだから……。


 そして、そんな言い回しをするということは……つまり、彼女たちの持つ常識はその真逆を行っている……と証言しているということに他ならないわけで……。


 まさか、非現実的な可能性だとばかり思っていた予想が当たっていたなんて……。要するに、俺と彼女たちの性的価値観は本当に反転してしまっていた……ってわけだろう?


 しかし……一体何故そんなことが起きてしまっているのか……そこまでは分かっていない。


 でも……あれ? そういえばさっき、金髪少女が"ラフィ"って名前で呼ばれていたよな? 明らかに日本人ではなさそうな響きだ。……つまり、彼女たちは異国の人?


 この際、日本語が流暢なことについては深く考えないでおこう。きっとあれだ……日本が好きで、観光のために勉強したと……そういうことなのだろう。んで、今に至るわけだ。


 ……ふむ、異国人だから価値観が違う……ってことなのだろうか。……いや、待てよ? たかだか同じ地球上の住民の間で、そんな価値観が真逆になることなんてあるか? ……うーん、どうも確信が持てないな。


「黙り込んじゃったわね……ふふっ、その様子だと図星のようね。でも、だからこそ分からないことがある……ってところかしら?」


 なんて風に一人思考のドツボにはまりそうになっていると、ピンク髪少女に自身のそんな現状がまたも見透かされてしまう。彼女は何とも楽しそうな微笑みを浮かべながら、こちらをじっと覗き込んできていた。


 本当、彼女は目敏いな……。俺の思考がどこまでも筒抜けになってしまっていることに、もはや苦笑を浮かべるしかできない。


「じゃあ、そんなあなたに質問。さっき、あたしが暴走しかけた二人を止めたのは一体どうしてでしょう?」


 そんなことを考えていると、相変わらずにこにこ笑みを浮かべたままの彼女から今度はそう問いを投げかけられる。


 なるほど、考察に行き詰まりを覚えている俺に見かねて、応えに辿り着くための道筋を立てようとしてくれているのか。


 しかし、あくまで出すのはヒントだけ。あえて答えは教えてくれないようだ。もしかしたら、それが彼女の性分なのかもしれないな。……だが、ありがたいのは確かだ。


 それならば、せっかくなので彼女の敷いてくれたレールに乗っからせてもらうとしよう。

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