☆ちいさなながれぼし
むかし、とおくのよぞらに、ながれぼしのきょうだいがおりました。
いちばんうえのにいさんぼしは、おおきくりっぱなきんのほし。
にばんめのにいさんぼしは、ぴかぴかひかるぎんのほし。
さんばんめのにいさんぼしは、だれよりもはやいあかいほし。
よんばんめのねえさんぼしは、とってもかしこいあおいほしでした。
ところが、ごばんめの、いちばんしたのおとうとぼしだけは、ちいさなちいさなほしでした。
おまけにとてもおくびょうでしたから、たかいよぞらからながれおちることもできません。
ですから、ほかのきょうだいたちは、いつもでもおとうとぼしをばかにしておりました。
あるよる、いちばんうえのにいさんぼしが、とくいげにいばっていいました。
「こんやは、みなみのくににながれていって、おうさまのねがいをかなえてやったぞ! せかいいち、りっぱなおしろがほしいというので、おうごんでできた、やまよりもおおきなおしろを、たててやったのだ!」
にばんめのにいさんぼしが、むねをはっていいました。
「そんなの、たいしたことではありません。ぼくは、ひがしのくににながれていって、おうひさまのねがいをかなえてあげました! せかいいち、すてきなドレスがほしいというので、ぎんでできた、だれよりもうつくしいドレスを、したててあげたのです!」
さんばんめのにいさんぼしが、まけじといいました。
「そんなの、ぜんぜんすごくないよ! ぼくは、きたのくににながれていって、くにじゅうのひとのねがいをかなえてあげたんだ! せかいいち、あたたかいひがほしいというので、たいようまではしっていって、とびきりあたたかいひを、ともしてやったんだよ!」
よんばんめのねえさんぼしが、ふふふとわらっていいました。
「そんなの、だれにでもできるわ! わたしは、にしのくににながれていって、びょうきのひとのねがいをかなえてあげたのよ! せかいいち、よくきくくすりがほしいというので、どんなびょうきでもなおるくすりを、つくってあげたわ!」
ながれぼしのきょうだいたちは、おたがいのはなしをかんしんしてきき、ほめあいました。
そして、いちばんしたの、ちいさなおとうとぼしにききました。
「おまえはこんや、どこへながれていったんだ?」
「どんなひとの、どんなねがいをかなえてあげたんだい?」
「きくだけむださ、だって、こいつはおくびょうだもの!」
「そうよ。ちいさすぎて、なんのやくにもたちやしないわ!」
きょうだいたちは、そういってわらいました。
ちいさなおとうとぼしは、こわがりでちっぽけなじぶんがとてもはずかしくなって、いてもたってもいられずに、ついにはにげだしてしまいました。
えんえん、なきながらはしって、やがて、だれもいないうみのうえの、さびしいよぞらにきました。
ちいさなおとうとぼしは、ひざをかかえて、ひとりぼっちでなきました。
くやしくて、かなしくて、さびしくてたまりませんでした。
「どうして、ぼくはこんなにちっぽけなんだろう。きょうだいたちのいうとおり、なんのやくにもたちはしない。このままうみにとびこんで、ひとでにでもなってしまえればいいのに」
でも、おくびょうなおとうとぼしには、まっくらなうみのなかにとびこむこともできませんでした。
それから、どれくらいないていたでしょう。
おーい、とじぶんをよぶこえにきがつきました。
うみをみおろしてみますと、いっせきのふねがありました。
ふなのりが、おとうとぼしをみあげていいました。
「ちいさなおほしさま、ありがとう! あなたがそこにいてくれたおかげで、まいごにならずにすみました!」
ちいさなおとうとぼしは、くびをひねりました。どこかへながれてねがいをかなえてもいないのに、どうしておれいをいわれるのか、わかりませんでした。
「どうして、おれいをいうのですか? ぼくは、だれのねがいもかなえていません。ながれぼしなのに、おくびょうで、よぞらからながれおちることだって、できないのです」
ふなのりは、おおきなこえでわらいました。
「ながれなくってもいいのです! あなたがそらのまんなかで、じっとしていてくれたから、まよわずふねをすすめることができたのです! ごらんなさい、おおぜいのふなのりたちが、よろこんでいますよ!」
おどろいて、うみをみわたしてみますと、そこにはおおきいのやちいさいの、いろんなかたちをしたふねたちが、じぶんをめざしてすすんでくるのがみえました。
そして、たくさんのふなのりたちが、ありがとう、とわらいながらてをふっているのでした。
ちいさなおとうとぼしは、ほこらしいきもちでいっぱいになりました。
ちっぽけでおくびょうなじぶんでも、だれかのねがいをかなえて、みんなをしあわせにできたことが、うれしかったのです。
それからというもの、ちいさなおとうとぼしは、まいばん、そらのまんなかでかがやいて、ふなのりたちのたびを、みまもることにしました。
いまでも、ほこらしげにかがやいています。
〈おわり〉