第67話 血染めの花嫁 Part4
何か……滅茶滅茶更新が遅れて申し訳ないです。
ここから一気に完結編までいくので、どうか最後までよろしくお願いします。
投げた剣は正確にノエルを射抜いた。
心臓部を狙ったつもりだったが、ノエルの左腕に防がれてしまった。左腕を飛ばしたのはいいものの、即死狙いだったので、攻撃としては失敗だ。近接で使える武器も失った。
「全く。ほんとしぶといわねノエルは」
呆れながらもどこか楽しげだった。フェルマータは軽やかな動きで森を行く。
歩きながら考える。次のノエルの手を。
ノエルの武器は短剣による【首狩り】と、魔法スキル【嘆きの一撃】だ。前者は言わずもがな。後者も当たれば即死だろう。つまりは彼女から攻撃を受ける訳にはいかない。
だがノエルも腕を片方失っている。そんな状況で攻撃に出るとは思えない。自分の隙をついてくるだろうとフェルマータは予想した。
自分の隙があるとしたら、銃を撃った後の一瞬だろう。その間は武器を一切使えない。暗殺者を相手に森で武器使用不可能な時間が一瞬でもあるのは中々にプレッシャーだ。
「投げた剣を見つけられれば……勝ちなのよね」
そう上手くはいかないか、と諦めかけた時、視界の隅に見慣れた曲剣を見つけた。
レジェンダリー武器【レーヴァテイン】。炎を操るスキルを扱える武器だ。レジェンダリーとは武器のレア度の中でも最も高いという意味だ。
曲剣は木に突き刺さっていた。ノエルを攻撃した後、そのまま飛んでいって木に刺さったのだろう。
「ははは。これを見逃すなんてノエルも馬鹿ね」
高笑いしながらフェルマータは曲剣の柄に手をかけた。
その瞬間、木の葉同士が当たる音がした。
「……っ!!」
フェルマータは振り向きざまに曲剣を横薙ぎに振るう。
その手を背後から接近していたノエルに両断される。
「剣が……」
せっかく回収した剣が地面に落ちる。取りたかったが、銃を手離すのは惜しい。それにノエルを相手に武器を拾うなんて暇はない。
「形勢逆転……とでも思った?」
「いいや。ようやく一矢報えた」
利き手を失った状態でノエルは嘯いた。最近は両手に短剣を持っていたので、利き手でない左腕のみでも戦えるが、それなりに意識をする必要があった。
フェルマータの片手を落としても、まだ銃を持っている方の手がある。窮地は依然変わらずだ。
「あなたを相手にこの距離で相対出来たのは良かったわ。流石に隠れられるとわたしでもどうしようもないからぁ!」
フェルマータは銃をまるで鈍器のように振るう。ノエルはそれを回避すると、その動きを呼んでいたのか、回避した先へフェルマータの銃弾が放たれる。
「っ」
ノエルは強く地面を蹴って跳ぶ。銃弾を回避して一気に攻め込むが、銃身によって刃が防がれてしまった。
フェルマータは強敵だ。ノエルのスピードなら、接近している状態から、移動スピードを活かして相手を巻くことは可能だが、フェルマータには通用しない。巻いたとしても攻撃の瞬間に何故かバレるのだ。
(まるで探知系のスキルでも使ってるのかってくらい早いもんね。もしかして……)
ノエルはフェルマータがスキルを使って前方以外への反応も行っていると仮定した。となれば下手な騙し討ちなんて効果が無い。
スピードを武器に彼女を圧倒するしかない。
ノエルはクラウチングスタートの体勢から強く地面を蹴りだした。
まるで弾丸の様なスピードでフェルマータへ向けて一直線に突撃をする。
「正面から来るのね。いいわよ、それでこそノエルだわ」
「何か手の内バレてるっぽいの、どうにかしたいな。マジで」
ならば、フェルマータの知らない戦い方をすればいい。
さっき大ジャンプをしたときに思いついた必殺技を試す時だった。
「即興必殺……」
ノエルは自由の利かない状態で体を強引に旋回させた。突撃の方向が狂わないように調節するのは困難だが、高速滑空中の体の制御は先の大ジャンプで知ったばかりだ。
ノエルの体を覆うようにナイフの斬撃が走る。それはまるで竜巻のようでもあった。フェルマータの銃撃を数発弾きながら、ノエルはフェルマータへと接近する。
「凄いわ、ノエル。ツイストポテトみたい」
「ちゃんと技名はあるんだよ! 【スパイラルエッジ】!!」
ノエルの振ったナイフはフェルマータの脇腹を深々と切り裂いた。
そのままの勢いでノエルは切り抜ける。
即興の技が刺さった事に安堵するノエル。一方でフェルマータは全く予想外のノエルの攻撃に歓喜していた。
「ふふふ……ふふふふあっはははははは。本当に最高ねノエルは! ツイストポテトみたいになって防御と攻撃を同時に行うなんて……そんな事をしてきたのはあなたが初めてよ」
「だーかーらースパイラルエッジだって言ってんでしょ。【ツイストポテト斬り】とか格好良くない」
「私はいいと思うわよ。中々にシュールでカワイイと思うわ」
「必殺技にシュールさは求めてないよ?!」
ノエルは安堵はしたが、狙っていたのは首だった事を考えると、ダメージを与えられて結果オーライではあるが、技としては失敗だ。やはりあの状態で正確に狙うのは難しいみたいだ。慣れない必殺技よりも堅実に首を狙う方がいいのかもしれない。
「……」
「……」
二人は睨み合いをしていた。相手の一挙手一投足を見逃さないように全神経を総動員していた。
フェルマータは銃しか持たず、ノエルは片腕のナイフのみ。武器をロストさせればどちらかの勝利だ。
先に地面を蹴ったのはノエルだった。
「この!」
地を滑るように移動して、フェルマータの腿を狙う。
フェルマータはそれを横に回避すると、引き金を引いた。
それを回避すると、ノエルは再度切り込んだ。フェルマータが銃身で受ける。
そしてフェルマータは足を高く蹴り上げて、ノエルの額を思いきり蹴り飛ばした。
「うっ……」
頭が揺れて前後感覚がおかしくなる中、空中にいる事もあって身動きがとれないノエルのアバターにフェルマータは銃身を槍のように扱い、連続でノエルの胴を打つ。
「ほらほらほらほらほらほら! それでおしまいなの?!」
銃身自体にダメージの補正値は無いので、ノエルの低耐久でも即死はしないが、それでも一秒ごとに着実に死へと突き進んでいた。
(ヤバい……。隙が見当たらない!)
焦るノエルの額にフェルマータは銃身を突き付けた。
引き金に手をかける。
「さようなら、ノエル」
フェルマータが引き金を引いた瞬間、
「このぉぉぉぉぉ!!」
ノエルは最早何も考えずにフェルマータの銃を蹴った。ノエルの尋常でないスピードで放たれる蹴りは、銃が発射されるという結果が出力されるよりも速く、銃の向きを変える事に成功した。
「くっ、まさかあの状況で……」
明後日の方向に弾丸を発射する銃。そして蹴られた衝撃でフェルマータの手から銃が離れていった。
地面に着地したノエルは、まるでばねのように再度跳ぶ。首を狙う絶好のチャンスだ。
フェルマータの手がノエルの首へと向けて伸ばされる。
それを見てノエルはフェルマータが怖いと思った。初めて会った時からそうだ。フェルマータにはどこか狂気的な所がある。何となくそれを見て見ぬ振りをしてきたが、いざ戦うとなるとそれを見せつけられる。
「ノ、ノエル……!」
「私の勝ちだ」
そしてその恐怖心をどこか心地よく思えてしまう自分こそがとっくに狂ってしまっているのだとノエルは自嘲しながら、フェルマータの首を刎ねた。




