第64話 血染めの花嫁 Part1
眼下で繰り広げられるいくつもの戦闘を見下ろしながらフェルマータは笑っていた。彼女が立っているのは崖の上だ。まるでウェディングドレスのような純白な衣装をまとった彼女は花嫁のような美しさを誇っていたが、唯一赤く染まる瞳は吸血鬼や死神を思わせる不気味さがあった。
「戦いは好き。特に殺しがいのある人との戦いは……。ホント、この世界は最高だわ。だって何回だって殺していいんだもの」
この世界での死は現実のものではない。だから仮に死んでもそこにあるのはドロップしてしまったアイテムだとか、死んだ実績が残る程度のものだ。しかし現実とは違い、お互いが相手を殺せるだけの能力を持っている。そういう意味ではこの世界での殺し合いは現実のものよりも密度はあるように感じた。
フェルマータは左上を見た。そこには彼女のチームメンバーの名前があったが、つい先程ナラクネが死んだ事で全て無くなった。マコトは誰とも知らずに死んだらしい。
「いよいよね。ノエル……貴女と本気で殺し合えるこの時をずっと待っていたわ」
神に祈る聖女の様な瞳でフェルマータは空を見た。彼女は信心深くは無い。神の存在を否定している訳ではない。肯定をしているというのも違うが、居たとしても居ないとしても自分とは関係のない事だと認識しているのだ。
ふと気配を感じて、崖の下の森を見ると、その中に標的がいるのが分かった。
「はぁぁ……見つけたわ」
腰に差した剣を愛撫するように撫でながら、フェルマータは崖から飛び降りた。
落下ダメージは発生しない。しっかりと計算されたジャンプだった。
今すぐにでも駆け出して標的の下へ向かいたい。しかし他のプレイヤーが自分を見ていた事もフェルマータは分かっていた。標的と過ごす蜜月を邪魔されたくはない。
「最初はゴミ掃除からね」
フェルマータは黒い兎の気配を背に感じながら、反対方向へと歩いていった。




