第63話 ヴードゥードールズPart3
お久しぶりです!
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完全に油断しているナラクネに先手必勝のチャンスと思った私の肩をマリンが掴んだ。
「ちょっと待った」
「え?」
何故待つ必要があるのか。付近にゾンビがいるようには見えないし、ナラクネも完全に自分の世界にトリップしている。隙だらけだ。
「隙だらけだから危ないんだよ」
「そうなの?」
「考えてみ。地面からボコボコゾンビを出してくる奴が、自分の周りにゾンビを置いてない訳無いだろ。しかもあいつは遠距離での戦闘が得意みたいだしな。こっちが攻めあぐねている内に一撃だ」
「でもゾンビ出してくるのがスキルってのも仮説じゃん。スキルなら発動条件があるし」
「それもあるかもな。だが用心に越したことはないだろ。あいつがフェルマータの仲間だってなら猶更な」
「まあ、マリンが言うならそうなのかもしんないけど」
このゲーム内での戦闘経験ならば間違いなく、私が上だが、私には考える頭が無い。それにマリンの心配も正しいのだ。仮にナラクネの周囲が罠だらけならば、不用意に飛び込んでは敵の思うつぼだ。
「じゃあどうするのさ」
「あたしのユニークスキルの出番さ。幸運な事に沼地はあたしのスキルの発動条件に入ってるみたいだし」
ナラクネがいるのは沼地の中央だ。近付こうとすれば鈍足状態になってしまうし、遠距離攻撃をするにも彼女を覆うように存在する巨大生物の骨が邪魔だ。きっとナラクネは動く気はないのだろう。
でなければわざわざあんなところにはいない。
「まあノエルは下がってな。ここはあたしの見せ場だ」
ノエルを木の裏で待機させた後、あたしは立ち上がり沼地へ侵入した。鈍足状態になるのは避けたいので、まだ沼には入らない。
ナラクネがあたしを見た。
「マリンさん……でしたわね。ようこそ、私のアトリエへ!」
「アトリエ……ね」
この辺は暗いので遠目には分かりにくかったが、周囲を見ると人型の人形のようなものが沼地の各所に存在していた。それらは手や足に強固にワイヤーの様なものを引っ掛けられている。まるでマリオネットのようにポーズをとらされているのだ。鈍足状態で動きが遅くなるのもあって、抵抗が出来ないのだろう。
そしてそれらは声を発している。掠れていて聞こえないが、何か助けを求めているかもしれないことは分かった。
「プレイヤーを銅像みたいにしてるのか。悪趣味なアトリエだな」
あたしが嫌悪感を隠さない態度をとったせいか、ナラクネは口を尖らせて言った。
「趣味は人それぞれですわ。あなたの趣味に沿わないからってそういう評価はやめて下さる?」
「趣味が人それぞれなら、お前の作品にあたしが何と言おうと自由だろ」
「嫌な人。作品にするまでもありません。ここで消してしまいましょう」
「あたしもお前みたいな奴は一秒でも視界に入れたくない」
ナラクネが右手を動かすと、あたしの正面左側にいる銅像が動き出した。
「そういう感じかよ!」
動き出した銅像……プレイヤーは大斧を持っていた。彼のステータスの程は定かではないが、一撃が重いこのゲームで大斧を食らいたくはなかった。かといって接近する訳にもいかない。MPが勿体ないので、ギリギリまで使いたくは無かったが魔法を使うしかなさそうだ。
「ウォータースライサー」
右手を大斧使いに向けながら魔法の名前を叫ぶと、あたしの右手から水の刃が発射した。発射された水の刃は大斧使いの右腕を斬り落とした。大斧を片手で持てるほどに鍛えてはいなかったらしく、大斧は沼に落ちた。あれではもう拾えないだろう。
「最低限のダメージで再起不能にさせる……中々いい手ですわね」
「お褒め預かりどうも」
「では次ですわ。ここに捕らえたプレイヤーは後十人ほど。あなたのMPが尽きるのが先かどうか楽しみですわね」
「ああ、そうだな」
まだこのゲームを始めてから一桁台程度の日数しか重ねていないので、スキルはあってもそれに一部のステータスが追い付いていない。特にHPとMPが割と悲惨で強力な魔法スキルを一発撃てば、MPは空になる。
だが、そんな懸念はこの戦場では不要だ。ここは沼地。どういう訳か水辺の判定を貰っているこの場所ではあたしのユニークスキル【アクアアルタ】をフルに発動できる。
「透き通っちまえ!」
沼に手を入れてからスキルを発動すると、あたしの手を中心に沼が綺麗な水へと変質していく。アクアアルタは水の判定があるものを操作するスキルと、かなりアバウトだがやれることは多く、水の上に周辺地図を作成したり出来る。クールタイムがあるだけで、MPの消費は無い。強力な分、水が無いと何の役にも立たないスキルだ。
「沼が……段々と水へ……? これは、マズいですわ!」
沼が水になる。拘束されているプレイヤーの鈍足が解除される。鈍足を解除されたことで捕まっていたプレイヤーは自分を拘束しているワイヤーを切断し始めていた。下手すれば敵を増やすような行動だが、この場合はきっと全員味方だろう。奴が誇っていた数の暴力は全てこちら側に付いたという訳だ。何人かはあたしに礼まで送っている。
「復活したプレイヤーは大体十人程度。どうだい、この数あんたに捌き切れるかな?」
「くっ……この……」
ナラクネがワイヤーを操る。が、それは周囲のプレイヤーが阻んだ。
「せっかく捕まえたんだから、倒せばよかったんだ。さっさと倒してしまわないからこうなるんだよ」
恐らく王手をとった。しかしナラクネには数の差をひっくり返す力がある。
「ブードゥードールズ!!」
水辺から大量のゾンビが現れる。ゾンビの数はプレイヤー数の数倍はいる。倒しても倒しても起き上がる奴らには、プレイヤー達も手を焼いているようだった。
「だが……エンハンスライト!」
水に手を突っ込み、スキルを発動させた。すると周辺の水全てが光の属性を受けた。ナラクネが出現させたゾンビたちは段々と活動する力を失っていく。
「な、なんですってー!」
「ゾンビは聖水に弱いってのは常識だろ」
倒れていくゾンビの中を掻き分けながらあたしはナラクネへと近付いていく。それに気付いたナラクネが周りのゾンビもろともワイヤーで薙ぎ倒そうとする。あたしは地面を滑るように移動して、頭の上を通り過ぎるワイヤーを回避した。
「空手アプリで鍛えた技を見せてやる!!」
「思ったより速い……ワイヤーが追いつきませんわ!」
ナラクネに手が届く距離まで接近出来た。ナラクネはまたもワイヤーを操作するが、あたしはそれを回避せずにそのまま攻撃に移った。
伸びきったワイヤーは近距離の相手には当てにくい。その上、他のプレイヤーがワイヤーの動きを阻害する。
「必殺……水衡昇竜拳!!」
もはや池の様になっている地面の水をかきあげながら、あたしの拳はナラクネの顎を打ち砕いた。インパクトの直前にウォータースライサーも同時発動している為、二重のダメージがナラクネに与えられたことになる。
「ま、まさか……この私が……」
よく聞くような断末魔を上げながらナラクネのアバターは爆発四散した。彼女が持っていたアイテムがボタボタと音を立てて池に落ちる。
ワイヤーやゾンビと格闘していたプレイヤー達も、安心したのか座り込んでいた。多分、彼らとは戦わないだろう。ノエルを待たしていることに気付き、彼女がいるであろう木の裏へと戻ったが、そこには誰もいなかった。
「あれ、ノエルはどこ行ったんだ?」
心配するあたしはノエルのHPバーががくんと減っているのを見た。




