第62話 ヴードゥードールズPart2
悲鳴は市街地エリアにいるプレイヤーが発したものだ。一つや二つではない。一斉に何かに襲われたかのようだった。
私達三人が、路地裏から出ると、そこは地獄絵図となっていた。
地面から何かが這い出ている。ボコッと音が鳴るとそこから一体出て来ていた。
「あれは……」
「まさか?!」
「ゾンビ?!」
地面から這い出ているのは、全身が焼け付いたようで、ボロボロの布を纏ったそれは映画とかでよく見るようなゾンビそのものだ。ゾンビはゆっくりと緩慢な動作でプレイヤーを追跡している。捕まったプレイヤーはゾンビに噛まれ、多数の状態異常を食らっている。そして何も出来ず、溶かされている。
「あのゾンビって」
「ああ。ナラクネのスキルだな。あいつ、ワイヤーだけじゃなかったみたいだな」
「どうする? あのゾンビって倒せるの?」
私に質問にマリンは首を傾げた。
ゾンビと言えば、不死身だ。おまけに数も多い。攻撃して倒せればそれでいいが、仮に倒し漏れた時が怖い。囲まれてしまえばスピードも何も無いだろう。
「ノエルとマリンは行って。私ならあれを倒せるかもしれない」
リュドミラが銃を取り出して言った。
「やっぱりゾンビと言えばヘッドショットだもんね!」
「え、いや……それでいいのか……?」
それでいいのです。
ヘッドショットして遺体を火で焼けばきっとゾンビは倒せる……はずだ。
しかし一言でゾンビと言っても色々な媒体で色々な奴がいるのだから、ここで出てきたゾンビも今までの法則が通用するかと言えば分からない。
だが私達で敵に接近せずに戦う手段を持つのはリュドミラだけだ。ここは彼女に任せるのが一番合理的何かもしれなかった。
「援護するから二人は一気に走り抜けて」
「分かった。行くよマリン」
「お、おう。ってアイツはあたしが倒すんだからな」
路地裏から市街地の中央を一気に走り抜ける。ゾンビが何体か迫ってきているが、全てリュドミラが足止めしてくれていた。
「敵はノロい! 一気に走り抜けるぞ」
「ていうかナラクネはどこにいるか分かるの?」
「ワイヤーの来ていた向きにいるはずだ」
「そんなの覚えてないよー」
「あたしは覚えてんだよ。それにもう視えた」
頼もしいマリンの発言は確信があって言っていたものらしい。彼女はスキルで既にナラクネの場所を感知していたのだ。
私は全く見当もつかないというのに。ここで彼女との経験の差が出たのかもしれない。
「そういう感じなら二人で一気に仕留めに行こう」
「あたしの活躍の場を奪おうとするなよ。お前もう結構活躍してんじゃねえか」
「そりゃ私は主人公ですし。それにここは安全策をとるべきだよ。相手のスキルも分からないんじゃ不用意に突っ込むべきじゃない」
「で、本心は?」
「ようやく訪れた暗殺チャンスに心が震えてます!」
「……」
結局、ナラクネは二人で倒すことになった。
マリン曰く彼女は市街地エリアの隣にある湿地帯にいるらしい。ゾンビを出す固定砲台系のキャラ。確かに湿地帯とかはよく似合う気がした。ゾンビの追撃を逃れつつ、市街地エリアを抜ける。リュドミラの方を最後に振り返ると、彼女の姿は見えなかった。どこかに身を潜めているのかもしれない。
「沼だ。歩きにくくなるから気を付けろよ」
「確かに。これは私の強みも半減かな」
沼の上では鈍足という状態異常にかかる。そうなると移動スピードは格段に下がってしまうのだ。
「そういえばノエル。何か青い玉持ってたよな」
「ああ、あれね。スキル石ってやつじゃないの? 何も反応ないけど」
「多分、何かの条件がいるんじゃないか? だからずっと持ってろよ。何も出なくても他の奴にスキルが渡るのを防げるんだから」
「なるほど。そういう使い方も出来たのか」
何も手に入らないなら捨ててもいいかなと正直思いかけていたところなので、丁度良かった。持っているだけでも価値がある。
「奴のスキルはゾンビを作るのとワイヤーを出すこと。他にも手札があるかもしれないけど、とりあえずはこれだけに気を付けて行くぞ」
「了解、班長!」
会話をしていると目の前にワイヤーが出現した。マリンが敵の場所と指示した方向からやって来ている。私はワイヤーを弾き飛ばしながら当たりだったのだと確信した。
「近いかもよ」
「ああ。ここからは会話無しな。あのワイヤーは音も探知するから」
息をひそめて湿地帯を進むと、ナラクネの姿を発見した。彼女は巨大生物の骸骨がある沼地の中にいた。なるほど、あえて接近戦の出来ない場所にいるという算段か。巨大生物の骸骨があるので、即席の壁にもなる。近付くことも遠距離から攻撃することも難しい。厄介だ。
「はぁぁぁぁ。フェルマータ様ぁぁぁ」
そしてナラクネはフェルマータが写っている写真に、恍惚とした表情で頬を擦りつけていた。
「ここで私がノエルさんを仕留めてしまったら、あの人は私にどんな仕打ちをしてくださるのでしょうか。ああ、あの人の細い指で私の内臓を掻きまわしてほしい……。いえいえ、ですがそれをしてしまえば流石にフェルマータさんも本気で怒りますわよね」
そして普通にサイコな発言をしていた。たまに思い出したかのようにまともになっているが、普通にアウトだ。
「フェルマータに対して並々ならぬ想いを抱えるって感じか。ウチのリーダーはあいつにとっての恋敵ってことかな」
「冗談やめてよ」
その言い方ではフェルマータが私に気があるみたいではないか。
冗談でもそんなことを考えたなんて彼女に知られたら何をされるか、それこそ分からないものだ。彼女と私はただのライバル関係なのだから。




