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第61話 ヴードゥードールズPart1

「……行った……よね」


 足音が遠くへ行くのを聞いてから、私は立ち上がった。

 市街地エリアに侵入した私達は狭い路地裏を隠れながら進んでいた。倒してポイントを得るゲームならともかく、これは生き残りをかけた勝負だ。無駄な戦闘は避けるべきだろう。


「しかしエイルはどこに行ったのやら。探そうにも手がかりが無い」

「まだ生き残ってることは確かなんだけどねぇ……」


 マリンがスキルで周囲を探知すると赤い点だらけだった。つまりプレイヤーだらけということである。フェルマータがここにいる可能性は低いだろう。彼女がいるならばプレイヤーだらけではなく、死体だらけになるはずだ。


「いっそここにいる全員倒しちゃう?」


 軽く自暴自棄になりかけてそんなことを言ってしまった。


「いいえ。それはやめた方がいいですわよ」


 そして私の言葉に答えた声は聞き覚えの無い声だった。


「?!」


 周囲に誰かがいる。それもかなり近くにだ。私は警戒を強めた。後ろを振り返るとマリンとリュドミラも腰を低くしている。

 私は遠く向こうを見据えながら言った。


「そこにいるのは誰?」

「ノエル。敵の場所分かったのか? そうか、お前【敵対感知】持ちだもんな。見られてるのか今」

「いや適当に言っただけ。どこにいるのかなんて見当もつかない」

「適当言っただけかよ! 私の感心を返せ!」


 マリンが言う通り、私は【敵対感知】……視認されているとそれを察知するスキルを持っているが、特に反応は無い。私がそれを持っていることを見越しているのか、又はそもそも見られてはいないのか。


「ご安心を。私は今はそちらにはいません」

「良かった」


 敵が近くにいないなら良かった。私はほっと息を吐いて肩の力を抜いた。


「おもむろに安心するなよ。つうか肩の力抜くな。正体不明の相手に話しかけられてるんだぞ」

「そういえばそうだよね!」

「……でしたら自己紹介をしましょう。私はナラクネ。フェルマータさんのチームメンバーです」

「フェルマータの……?」

「はい。彼女はノエルさんと戦いたがってましたので、私から手を出すことは致しません」


 まさかこんな所でフェルマータのチームメンバーと会うことになるとは。実際は何らかのスキルで声だけを掛けられている状況だが。だが彼女は何故私をノエルだと分かったのか。どこかから見ているのだろうか。


「……何で私がノエルだと分かったの?」

「つい先ほど、喋ってましたよね」


 そういえばそうでした。てへ、と舌を出してみた。謎の声はそんなことはお構いなしに言葉を続ける。


「ですからノエルさん以外は、ここで仕留めさせてもらいます」

「……まあそうなるよなぁ」


 マリンがやれやれと肩をすくめた。


「戦わずにすり抜けられたら良かったんだけどな。そうはいかないか」

「フェルマータがどこにいるかも聞かないと。それから……」


 私は頭上を見た。さっきから上から声がしていたのだ。何かがあるかもしれないと注意深く探していると、どこか遠くから伸びてきているワイヤーのようなものがあった。

 あれが……敵のスキルなのか。思考を張り巡らしていると、ワイヤーがひとりでに動き出した。獲物を見定めたヘビのように、ワイヤーが向かって来る。

 狙いは、


「あたしか!」


 マリンはチャクラムを構えると、向かって来るワイヤーへ向かって振り下ろした。ワイヤーの軌道は捻じ曲がり、近くの瓦礫を粉々にしながら突き進む。


「威力やっばいな。あれ。でも……スピードはそんなに無いな。あたしでも弾けたくらいだ」

「やりますわね。でもまだまだ」


 再び向かってきたワイヤーは今度は弧を描くように移動していた。瓦礫が削れて煙が発生しているので、視界が遮られる。

 だがそんなことはマリンには詮無きことだった。


「そんなん意味ねえよ!」


 マリンを覆うように水のドームが現れた。【アクアドーム】というスキルだ。ワイヤーは水のドームに侵入した瞬間、急激に失速した。


「そのスキル、確か【鋼糸】ってやつだよな。そのワイヤーはお前の体の一部って訳だ」


 鋼糸。それは自分の指の先からワイヤーを伸ばすスキルだ。伸ばしたワイヤーは攻撃する以外に声の伝達などの様々な能力を持つ。だが欠点として、そのワイヤーもプレイヤーのアバターという判定になる。


「……っ」

「ってことはよ、ここでぷかぷかと浮かんでるワイヤーに攻撃したら……」

「も、戻りなさい!!」


 ワイヤーが戻っていく。しかし水のドームの中に入ってしまっているせいか、その動きは鈍重なものだった。

 そこへマリンが追撃を加えていく。斬撃のヒットエフェクトとSEが鳴り響く。確かにあのワイヤーはナラクネのアバターの一部だと認識されているらしい。


「このワイヤーを追っかけた先にナラクネがいる。リューちゃん。見えるか」

「うん。もう見つけてる」


 マリンがワイヤーを対処している間、リュドミラはずっと敵の場所を探っていたのだ。片手で長銃をどうにか担いで。あのワイヤーは音だけを拾っていた。リュドミラはまだ一言もナラクネのワイヤーがいる時に喋っていないので、認識されていなかったので狙われなかった。


「撃たなくていいからな。片手で無理すんな。あの女はあたしが倒す。今回ばかしはノエルはお休みだ」

「えぇ……私も行きたいぃぃぃ」

「たまにはあたしにも良い所くれよ。それに多分あいつは固定砲台型だ。不意打ちが基本のノエルには骨が折れる相手だと思うぜ」

「でもその前に、ここら辺のプレイヤーをどうにかしないと……」


 リュドミラが言いかけた時、


「うわあああああ!! な、なんだぁぁぁ?!」


 叫び声が私の耳に届いた。それは各所から聞こえてきて、どれも市街地エリアにいると思われるプレイヤーからのものだった。


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