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第60話 道程

 ヘルメット女もといヴィクトリアを倒した私はマリン達と合流した。戦闘中だったのでいつかは知らないが、弾丸を跳ね返されて大ダメージを負ったリュドミラのHPは回復していた。


「あたしが回復させたんだ。アイテムを使うのも勿体ないしな。ただ……」


 マリンが悔し気にリュドミラを見た。彼女の左腕が無かった。リュドミラの弾丸の威力はかなり高いので、食らった時に左腕も吹っ飛んだらしい。欠損した部位の回復は、それ用のスキルが必要になる。私達の中でも魔法系スキルを最も覚えているマリンも欠損した部位の回復は無理らしい。


「私は大丈夫だよ。これならこれでやりようはある」


 リュドミラはそう言うと持っている銃を長銃から拳銃へと変えた。装備セットを増やし、切り替えを可能にするアクセサリー。『コーディリアリング』。リュドミラはそれを装備していたらしい。私は結構前に使わなくなってしまったのだが、彼女の用に遠距離も近距離も対応可能にするというのが多分、本来の運用法なのだろう。


「でも隻腕ってカッコイイよね。私も片っぽ、腕をもごうかな」

「おいおい。お前のステータスじゃ、もいだ瞬間にお陀仏だろうが。それにそういうのはなってしまったからカッコいいんであって、自分からやったらただの痛い奴だ」

「二重の意味で痛いってことか」

「うるせぇ!」


 マリンが私の頭をチョップした。ダメージを与える意図のない、攻撃力の低いマリンからのチョップだというのに、私のHPは減った。


「いや、耐久弱いな!」

「……ふ」

「何で誇らしげなんだよ?!」

「耐久力が無くとも、全て回避してしまえばいい……。それ私はをこの身で示しているんだよ」

「何をそれっぽく語ってるんだ。それにお前戦闘中毎度死にかけてんだろ」

「う……ま、まあいいじゃん。結果として生き残ってるんだしさ。リュドミラもそう思うよね」

「……え。あ、うん。そうだね。私もそう思うよ」

「リューちゃんここまでの会話聞いてねえ!」


 研究所の中を見て回る様な時間は無かったので、私達は森へと引き返すことにした。森を通って、中央の市街地エリアへと侵入するのが当面の目標だ。わざわざ森を通るのも、はぐれているエイルと合流できるかもしれないとリュドミラが言ったからだ。

 ぶっちゃけエイルならソロでもどうにかなりそうだと思ったが、心配そうにしているリュドミラを見るとそんなことを言う気にもならない。


「そういえばマリン。私のHPも回復してよ」

「あ、忘れてた」


 マリンがスキルを発動させると、彼女の手に黄緑色のオーラが漂う。


「ちょい失礼」


 マリンがそう言って、私の頬を触った。すると彼女の手から黄緑色のオーラは私に移っていく。私のHPが回復しているのが見えた。


「低級の魔法だよ。だから触らんと回復できないんだけど、MPを下手に消費したくなくてね」

「それを覚えれば人助けとして合法的に他人に触れられそうだ。私も覚えようかな。それでリュドミラをベタベタしたい」

「ベタベタしたいって言葉としてどうなのかと思うぞ。後、ノエルのステータスじゃ回復系の魔法は無理……ってそうか。短剣使いってINTは高めだったな」

「まあね。といっても、AGI以外じゃ後方支援型のマリンよりも弱いんだけどね私」

「近接アタッカーとして不安になること言うな」

「でもノエルって攻撃力高いよね。やっぱり例の【首狩り】のおかげなのかな」

「そうだよ。だから私首以外への攻撃はほとんどノーカンなんだよ」


 へぇ、とリュドミラが感心していた。そういえばこういう話をしたことはなかったような……あったような……。


「ステータスの差を帳消しにするくらい強いのが【首狩り】か。習得条件って分かるか?」

「分かんない。いつの間にか持ってたからさ。私以外ではフェルマータが持ってるけど、彼女もよく知らないってさ」

「本人たちも知らない理由ね。それならいいさ」

「何で?」

「そんな強力なスキル、誰もが欲しがるだろ普通。でもお前らがそのスキルで猛威を振るっていても誰も【首狩り】について言及しないってことは、スキルの存在が知れ渡っていないってことだ。首と頭と心臓は急所扱いでダメージにボーナスが付くのもあって、まさかそんなスキルが発動しているなんて誰も気付かないのかもな。それに使ってるやつも知らないような条件なら、【首狩り】持ちが大量発生するってことも無さそうだしな」


 考えたことも無かった。【首狩り】の習得条件なんて。確かに、あのスキルは私にとってはアイデンティティとでも言うべきものだ。今の戦法もあのスキルを当てにしたものだ。

 もしも【首狩り】が誰しもが持つスキルになったら……考えたくもない。


「でもそのスキルって首に攻撃を当てなきゃならないんでしょ? 私、首をピンポイントで狙うなんて無理だよ」

「使いこなすのにプレイヤースキルが要求されるからこそ無法な効果なんだろ」

「なるほど」

「さすがマリン先生。頼りになるー」


 茶化した感じで言うと、マリンが声を低くして言った。


「今度、中学の奴にお前のあられもない写真を送り付けるぞ」

「それ脅しとしても最悪の部類じゃない?! 友情崩壊待ったなしだよ!」


 実際にそんな写真などある訳ないと分かっていても、反応してしまった。無い……はずだ。無いと信じたい。


「どんな写真なの?」


 リュドミラが興味を示していた。意外だ。彼女がこういうことに乗って来るとは思えなかったから。

 エイルのブロマイドでも出さないとリュドミラの気は引けないとばかり思っていた。


「残念だけどね、私の写真なんてマリンは持ってないんだよ」

「なんだ。残念」

「その残念の意味を知りたい」

「友達ってそういうものじゃないの?」

「そういうの?」

「ポッキーゲームをしたり、裸の写真を送り合ったり」

「友達について私が偉いことを言っちゃいけないのは分かってるけど、これだけは言わせてほしい。多分、それは違う」


 ていうかそれは最早恋人という領域すら超えた何かではないだろうか。リュドミラのリアルがどんな人なのかは知らないが、まともな人物だとは思わない方がいいようだ。


「……つまりリュドミラは友達に裸の写真を送り付けているの?」

「私、今まで友達がいなかったんだ」

「……」


 そういえば、このゲームを始めてからは会話も出来るようになってきたけれど、以前の私は人との会話もできない程の人見知りだったのだ。あの時はあれでも平気だったけど、今なら思う。あれは最悪だと。

 こちらを心配そうに見ているマリンと目が合った。私が平気だよと伝えるとマリンは「自分からトラウマトラップ踏むなよ」と言った。

 お恥ずかしい限りだ。自分から下手な踏み込みをしたからこうなったのだ。それに今は大丈夫なら、過去なんてただの記録でしかないのだから、もう一々気にする必要もないのだ。


「市街地エリアが見えて来たよ」


 私達は森を抜けて市街地エリアの端っこまで到達していた。中央にある市街地エリアでは至る所で戦火が上がっている。エリアは縮小しきると市街地エリアしか残らないのもあるのだろうか、プレイヤーはどんどん増えている。エイルももしかしたらいるかもしれない。


「じゃ、行こっか」


 私達は市街地エリアへと踏み込んだ。

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