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第56話 森を行く

 森を横断している私とマリンとリュドミラの三人。

 今のところ敵が居そうな気配は無し。たまにマリンがスキルで索敵をしてくれるので、かなり安全な道中となっている。

 適宜落っこちているアイテムを拾いながら進むこと10分が経ち、フィールド上にけたたましい音が鳴った。


「何の音?」

「20分ごとにフィールドが縮小するって話があっただろ。多分、それだ」

「まだ20分しか経ってなかったのか」

「ああ。まだ序盤も序盤。この辺にゃプレイヤーはいないが、反対側とか中央の市街地エリアは結構凄いことになってる」


 マリンの視線の先にはビルがあった。確かに爆風が聞こえるし煙もあちこちから上っている。


「ああいう人が集まってるところは救援物資が落ちてることもあるんだよ」


 リュドミラが空中を指さす。風船に繋がれた宝箱が市街地エリアのどこかに落ちていくのが見えた。風船に繋がれた宝箱ってスゴイ絵面だ。


「救援物資?」

「適度にああいうのを放り込んでプレイヤーの射幸心を煽らないと、プレイヤー全員がイモリプレイを始めかねないだろ?」

「なるほど。ゲームを円滑に進めるための演出的な」


 盛り上がる私達を尻目にリュドミラは半笑いを浮かべていた。


「二人ともそういうことは考えない方がゲームを楽しく遊べると思うな」


 至極ごもっともだ。何事も細かく考えない奴が勝者なのだ。なんてことを言えるほど人生経験を積んではいないが、少なくとも私は物を深く考えない方が成功することが多い質だ。というか考えるのが苦手だ。

 森の景色ばかりを見ていると、今がゲームの中だということを危うく忘れそうになる。このフィールドにモンスターが出ないせいだろう。誰もいないのを確認してから進んでいるのもあって、ついつい気が緩んでしまう。


「気持ちは分かるが、気は保ってくれよ。寝落ちでもされたらたまらん」

「私を何だと思ってるのさ。流石に寝落ちはしないよ」

「中学ん時、先生に指されて黒板で数式解きながら眠りに落ちていった奴が言うかそれ」

「それは昔の話ですから」

「一年前だよ!」


 そんな話もあったな。忘れていた。いや忘れていたというのは、寝落ちが多すぎてどれか分からないではなく、本気で眠かっただけに前後の記憶が酷く曖昧だからだ。決して私は睡眠学習の常習犯ではない。


「大丈夫だよ、ノエル。私も数学の宿題を家でやってたら寝ちゃったことあるから」

「それは普通だ。あたしも経験ある」

「マリンは、リュドミラにだけ優しすぎない?」

「優しすぎってかあたしは変なことは言ってない気がするんよ」


 マリンが呆れた風に言う。

 再度マリンがスキルを使うと、さっきまで見えていた赤い点が移動していたのが分かった。場所は森の北にあるエリアだ。私達が向かおうとしている先でもある。

 

「この先ってどこのエリアと繋がってるの?」

「北側は研究所エリアだぜ」

「へぇ」

「室内で部屋が多い感じだ。プレイヤーはそんなにいない。ギリエリア縮小に引っかかる部分があるからかもしれないな」


 エリア縮小か。最初は何のためにそんなのがあるんだと思ったが、考えてみればゲームが進行するごとにプレイヤーが減るのだ。エリアがだだっ広くても無駄になるだけだ。


「私はとりあえずフェルマータさえ見つけて戦えれば後は良いかな」

「ノエルはそうかもしれないけど、チームとしては行ける所まで行きたいぜ。な、リューちゃん」

「私はどこでもいいよ」

「お願いだから謙虚にならないでくれ。あたしが強欲なやつに見えるから」


 リュドミラは協調性があるのだろうが、どこか遠慮しがちだ。何か自分の意見をあえて出さないみたいなところがたまに見受けられる。そこは彼女のリアルを知らない私が踏み込んでいい領域では無いのだけど。


「ま、でもやるからには負けたくは無いな」

「おうよ。優勝目指そうぜ」

「いやそれは夢見過ぎだって。せめて三位狙いで」

「夢は大きく持とうぜ、ノエルさんよ」

「えー、でも一位取って後でインタビューされたら困るでしょ。ミューチューバが来たりして」

「名誉なことじゃねえか。別にリアルバレする訳じゃないんだし」

「ハズい」

「乙女かよ! いや乙女だった……」


 ゲーム内で有名になるならまだしも下手すればゲーム外にまで話が広がりそうなので怖い。実際に過去にイベントで一位になった人がインタビューされている動画があったのは確かだ。

 ちなみにその人は動画内でクッソつまらないギャグをかましていた。

 コメントでぼろクソにこき下ろされていたので他人事ながら戦々恐々とした気分を味合わせていただいたものだ。


「私は二の舞にはならないから絶対に!」

「いきなり叫びだして何を宣言してるんだ」

「カキPさんの話じゃないの?」

「今の叫びだけで何が分かるんだよ」

「そう、カキPさんの動画だよ。流石リュドミラ。私の心の嫁」

「私は配信見てるから」

「どう考えてもそれだけじゃ説明つかないだろ……いやあたしが異端なのか……? ってそんな訳無いだろ!」


 自分で自分にツッコミを入れるなんて……マリンはお疲れの様だ。


「マリン。疲れてるなら言ってほしい。私達仲間でしょ」

「誰のせいで疲れてると思ってんだコラァ!!!」

「……」

「……」

「そこは即答してくれよ!」


 森の出口は近い。

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