第49話 Full Metal Jacket
イベントが始まって早々に、どこかから出現した光の衝撃波で吹き飛ばされた私達は、全員が散り散りになっていた。チーム戦というイベントの仕様上、早速手痛い状況となってしまった訳だが、仲間が無事なのだけは私のほかにあるHPバーを見れば分かる。
エイルとマリンは1割だけ減っている。エイルは素の防御性能が高い。マリンもゲームの腕はかなり高いとノエルが言っていたから、きっと上手く着地したのだろう。私、リュドミラの消耗は3割ほど。
ノエルのHPは二度ほど急に減ったかと思えば、回復したのだろう。今は満タンだった。
「早速誰かと会って、戦って倒したのかな」
流石ノエルだ。彼女のプレイスタイルを思えば、チームでいるより一人の方がいいだろう。
「私は……どうしたらいいんだろう」
ひとまずは合流だ。でもどこに誰がいるのか。このまま進んでいてもいいのか、実はこの先は別のチームがいる所に向かっているのではないか、一人でいると嫌な考えが浮かんで来てしまうものだ。
私が飛ばされたのは市街地だ。市街地といっても、戦争映画とかで見るようなほとんど廃墟と化した街で、建物の窓は割れていて、壁には蔦とか植物がまるで蝕むように絡まっている。人のいないルミナリエといった感じだ。
郊外のようで、背の高い建物はもっと向こうに見える。
隠れる場所も多いが、見通しは悪い。でも均等に作られた街の形は隠れて狙撃するのに向いていると思えた。
「その分、プレイヤーも多そうだ」
仮想世界でも自然の森の中よりこういう人工物に溢れた場所の方が精神的に楽だ。一人だと猶更。ふと遠方に動くものを見つけた。私はすぐそこにある瓦礫を盾にした。瓦礫から顔を出して、確認する。
私が持ち込んだスキル【鷹の目】は遠くを見るスキルだ。この目がスコープになったかのように、遠くをズームして見ることが出来る。
「プレイヤーだ……」
距離は100mとない。システムが助けてくれるラインはとっくに超えているが、まあ何も問題は無いだろう。
撃つか撃たないか。撃てば音が出て他のプレイヤーに見つかるリスクを生むかもしれない。でもここで奴を取り逃がせば、もしかしたら来ている仲間と当たってしまうかもしれない。
どっちにしてももしもだ。
それならまだ勝算のある方がいい。
私は迷わず、白い長銃アクケルテを構えた。私に狙われていることに気付いていないプレイヤーは立ち止まって周囲を確認していた。
「……」
引き金を引く。耳をつんざくような音と共に弾丸が飛ぶ。
プレイヤーは音のした方を、つまり私の方を見たが、目があったと思った時には既に、その頭に弾丸がブチ込まれていた。消えるHPバー。力を失って倒れるアバター。
「ふぅ」
PKをするのは初めてだが、何のことは無かった。人の形をしているものに射撃をすることに競技者として、思う所があったのは確かだが、それもこれはゲームだからの一言で片が付く。
この世界では誰もが自分の持つ手札をフルに使って戦う。だったら私も持てる手は尽くさないといけない。そうでなかったら彼女たちと一緒にいる資格もないのだから。
「アイテムを拾いに行かなくちゃ」
アイテムを拾って、すぐに隠れて、敵から逃げて。それを繰り返す中で、誰かと合流できれば幸いだ。
硬い音を鳴らしながら走ると、市街地フィールドの中心にあるビル街に着いた。窓の破片とか綿の抜けたソファやらが散乱している。床も割れていたり、爆撃でもされたのかクレーターがあったりと、これぞ戦場といった雰囲気だ。
それなのに、プレイヤーの気配がしない。このビル街はスタート地点だった森からも見えていたので、多分プレイヤーが集まるだろうと散り散りになる直前にマリンが言っていた。
だから私も瓦礫を盾にしたり、建物の中を突っ切ったりと工夫して動いているのだが、どれほどに警戒をしても、警戒すべき他プレイヤーの姿が一つもない。さっき撃った銃声はこっちにも聞こえていたろうから、隠れているのだろうか。
何だか気持ちが悪い。
そう思った直後だった。
「……?」
体が宙に浮いていた。
いや違う。吹き飛ばされていた。何者かからの攻撃か、吹き飛ばされた私の体は運よく壁に激突することなく、割れた窓から建物の中へ吸い込まれるように入っていった。
「痛っ……」
オフィスの机やら椅子やらをクッションにして衝撃を殺した後、やけにジンジンする右肩を見た。矢が刺さっていた。つまり撃たれたということだ。射られたという方が正確か。
HPバーがぐんと下がったが、やられたのが右肩だったせいか、半分程度はHPは残っていた。
どこから撃たれたのだろうか? 鷹の目はずっと使用状態にしていた。私の目は100m先まで敵がいないことを確認していた。遮蔽物の陰にいた可能性は否定しきれないが、それでもこうして当たってしまうまで気付けないものだろうか。
考えても仕方ない。撃たれた以上、敵がいる。それだけを考えろ。
すぐに持ち直し、建物の壁を盾にして、恐らく敵がいるであろう方角、矢が居られたであろう方角を見た。【敵対感知】などの視線で感知するスキルも同時に使う。
「居ない……?」
私がどこを注視するのかも分かっていたのだろう。二射目はまだ来ない。あの矢の持ち主はバカではない様だ。しかし様々な属性や性質の弾丸がウリの銃に対して、弓は状態異常に特化した武器だ。それなのに無警戒で撃たれて何の以上も起こってない。舐められているのか、それとも絶対に脳天に当てるという自信でもあったのか。二射目を食らうと発動するとかそういうものなのか。
何にせよ、これ以上やられるわけにはいかない。回復薬だって、有限だ。さっきのプレイヤーが落としたアイテムも拾いたい。
「アイテム?!」
そういえば、今あの落ちているアイテムはどうなっているのか。
一瞬よぎった可能性を確かなものにすべく、私は銃を構えながら、死んだプレイヤーが巻き散らしたアイテムがあったところを見た。
そこにあったはずのアイテムは一つ残らず無くなっていた。
 




