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第48話 カルテット

 ちょっとだけ時を遡る。カラオケボックスみたいなブリーフィングルームでの会議のような雑談を終えて、いよいよイベントが開始する時のことだ。

 ここはルミナリエの街に出来た特設の建物で、外観は楕円形のドームのような形状をしている。しかし中はドームというよりは、バーのような印象を持たせた。ちょっと暗めの証明に、中央にはバーカウンターがあって、タキシードを着たダンディズムなNPCがいる。バーカウンターの上や、中の至る所に大きなモニターが置かれている。あれらは全てイベントの中継映像を流すためのものだ。流れているBGMはEDMだとかそういうイメージのもの。ブリーフィングルームがある通路へは、イベント参加者しか入れないようになっている。それ以外の観客たちはここで何か飲みながら観戦するという形になるらしい。


「何か凄い大事になってきた……」

「……興奮してきたなー」

「緊張してきたねエイル」

「肩の力抜いてリラックスしてくださいな」


 緊張する私とリュドミラ。ガッツポーズをしてテンションが上がってきたマリン。いつも通り冷静なエイルと、まあ大体全員こんな反応になるだろうなという感じだった。


「ここに他のチームの人も来るんだよね」


 隣にいるリュドミラに聞くと、彼女はこくりと頷いた。


「そう。だからここでは手の内は見せない方がいいよ。特に武器。でもノエルは有名人だから隠さない方が逆にいいかもだけど」

「……私、そんな有名だったのか」


 我ながら恥ずかしくなる。有名になるのは悪い気分じゃないと思えるようにはなってきたが、それでも半分以上の割合を占めるのは恥ずかしさだ。


「リュドミラだって、美少女スナイパーって評判なんじゃないの?」

「美少女は余計だよ」


 全員、武器を隠して中央のバーカウンターまで行く。参加者はここで最終チェックをする。参加の意志、持ち込むスキル、装備等々だ。

 リーダーとなってしまった私が代表して、各種手続きを進めていった。あらかた終えて、あと一つか二つの項目だけとなったところで、私の手が止まった。


「チーム名を入れる欄があるんだけど……どうします?」

「チーム名! いいねぇ、熱い名前にしようぜ!」

「熱い名前って何さ」

「いや分からん」

「うん。マリンを当てにするのだけはやめるわ」


 熱い名前だとか言われても私の辞書にそんな言葉は無かった。

 首を傾げながらエイルが言った。


「レッドホットチリペッパーズみたいな名前なんじゃないでしょうか」

「熱いってか格好良すぎじゃないそれ。何かなぁ。もっとこう。やったるぞーみたいな意気込みを感じるみたいなの」

「なんだよそれ。ノエルが考えろよ」

「私じゃあ思いつかないから聞いてるんだよ。思いつくなら何も苦労はしないんだよ!」


 我ながら情けないことにこういう時に全く言葉が思いつかないのだ。ギルド名だってそのせいであんなことになったのだ。チーム名では絶対に失敗したくはない。まだこちらから出なければ衆目に晒されないギルド名と違ってチーム名は、がっつりとモニタリングされるのだから。格好良くは無くとも、最低限の格好はつけたいものだ。

 おずおずと手を挙げてリュドミラが言った。


「全員倒す……。百発百中デストロイヤーズとかどうかな」

「百発百中……」


 これまたスゴイアイデアが飛び出してきた。百発百中って私達の中ではリュドミラにしか適用されない概念だ。流石にこれをチーム名にするわけにはいかないだろう。デストロイヤーズも殺意が高すぎる。感情で考えればせっかくリュドミラが出してくれた案だから却下したくないのだが……これは私も腹をくくらねばなるまい。


「絶対外してたまるかーっていうつもりなんだけど……」

「うん。ありがとうリュドミラ。でも却下で」

「だよね。そんな気はしてた」

「マジでごめん」


 こう、なんだろう。本人も半分くらいネタのつもりで言ってるようなのは平気で一蹴できるんだけど、リュドミラみたいにあまりふざけたことを言わない人の案を一蹴するのは心に来る。


「リュドミラさんはもっとユーモアを磨くべきです」

「ユーモア。そっか、ありがとうエイル。私これからユーモアを学ぶよ」

「ちょ、エイル?! リュドミラを変な風に進ませるのだけはやめてよ?!」

「いやよ。お前らリュドミラの意志をもっと尊重しろな」


 それから私達はしばらく。ああでもないこうでもないとギャーギャー喚いていた。やがて後ろに列が出来始めたころ、ようやく誰が言い出したのかチーム名が決まった。

 その名も……


「Quartet……中々無難なのになったね」


 カルテットとはそのまま四重奏という意味だ。四人組ならば割と簡単に付けられそうな名前だが、幸いなことにまだこの名前は使われていないようだった。シンプル過ぎてということだろう。


「熱さが足りない」

「ユーモアが足りません」

「そこ二人。うるさい」


 不満そうな二人を黙らせて、私はチームの申請をした。申請は無事通り、後はイベントが始まれば専用マップに転送されるのを待つだけだ。

 ようやく落ち着けると、腰を下ろした私にマリンが耳打ちしてきた。チーム名を決めてる時にも何度も勝手に離れたりしていたのには理由があったらしい。


「他所のチームの情報取って来た」

「流石。抜け目ないね」

「だろ。もっと褒めろよ」

「で、マコトがいるチームが分かったの?」

「……いやそれは分からなかった。だけどあんたがご執心のフェルマータはいたよ。あと、ヤバい奴筆頭のアーサーもな」


 私がご執心って、フェルはそういうのではないのだが。彼女とは上手くは言い表せないが、友達だと思う。仮想の付き合いがどこまでお互いに影響を及ぼし合っているのかは分からないが、少なくとも私にとってフェルはマリンと同等程度の存在となっている。そこまで交流はしていないのに、不思議だ。


「フェルマータがいるチームはDeath March。人数は分からない。フェルマータしかいなかったからな。で、アーサーがいるのはQuadriga。ここは四人だ」

「どっちも格好いいチーム名だなぁ」

「あたしらも負けてねえよ。それより、悪いな。マコトの情報は掴めなかった」

「まあ、いいよ。どうせあっちで会うでしょ。向こうは私に何かちょっかいをかけたいみたいだし」


 向こうから来るのなら、分かりやすい。もしも会ったならば遠慮なく殺るだけだ。もちろん、交渉も忘れてはいない。


「いいじゃん。綾香、こっちに来て結構カッコよくなってきたんじゃないか?」

「やめてよ。ネット弁慶みたいで少し傷付く」


 あははは、と笑うマリンを尻目に私はその音が鳴るのを聞いた。それは学校で聞く鐘の音のような、しかしそれよりも大きな意味を持つようなそんな音だ。


「時間になりました! これより第四階DDを開催いたします!!」


 そう叫ぶNPCの声と共に、私のアバターは戦闘フィールドへと飛ばされた。

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