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第47話 もっと光を

 減っていくHP。今までだったらきっと致命傷もしくは致死量の一撃だろう。

 しかし新しくなった装備は、バーバリィの短剣を受けても、死ぬことはなく、私の意識はまだ第四次DDのフィールド内にあった。

 新装備【ブラックラビットコート】。フィーネさんが手がけてくれたコートだ。半袖の薄手の黒いコートだが、その防御力の高さは前まで使っていた店売りの装備よりも格段に上だ。フード付きで、フードにはウサギ耳があるという、黒兎の為に作った装備という感じだ。

 インナーとなる装備も新しいもので、黒い服だが、コート同様に薄いものだ。お腹が空いているのでスース―するが、ゲーム内なので腹が冷えることはないだろう。

 この装備を得た後のことをふと思い出した。

 つい30分くらい前。


「ノエルさん。何度も言うように今回のイベントはチームでの遭遇戦ですからね。決して迂闊な行動はとらないようにしてください」


 イベント会場となる建物にあるブリーフィングルームに私とマリンとリュドミラとエイルが集まった。ルームに入る前には他チームのプレイヤーと会うことは無かった。フェルマータの姿も探してはいたが、見かけることは一度も無い。


「分かってるよエイル」

「……少し心配なんですけど」

「まあまあノエルだってバカじゃないんだ。迂闊な行動をしても自分でどうにかできると思う時だけだよ」


 マリンがあまりフォローになって無さそうなフォローをする。

 このブリーフィングルームはカラオケボックスみたいな小さな部屋で、テーブルを囲うように椅子がソファが置かれている。テーブルの上には色とりどりのお菓子があって、私達は適当に摘まみながら話をしていた。


「それは分かってますよ。ノエルさんへの心配は実はしてません」

「酷くない?!」

「問題はノエルさん不在による、チームとしての弱体化です」


 エイルが懸念していたのはそれらしい。私が勝手に行動しても私がどうにかなるとは思っていないそうだが、私が勝手に行動して他メンバーがどうにかなってしまう可能性があるというらしい。


「エイル……私だって結構強いよ」


 リュドミラが不満そうに文句を言う。それを窘めつつエイルは言った。


「ええ。このチームは良くも悪くも単独戦闘を得意とする人が多いのは理解してますよ。ノエルさんが単独行動をすることで、全員の意識がチームから個人に移るのが危険なんですよ」


 イマイチ理解できない私とリュドミラだったが、マリンはすぐにああと納得の意を表していた。これが武闘派と知能派の差なのだろうか。


「つまりあれさ。エイルが言いたいのは一人で動いててもチームメンバーがいるってことを忘れるなって意味だよ」


 そうだ。私が死んでも他のチームメンバーがいる。私がどこにいようとも今回はチームなのだ。おまけにリーダーを任せられている。

 そうである以上、そう易々と死んでやるわけにはいかない。

 以上、回想終了。


「……っ」


 仰け反る体を強引に抑えつけ、更に踏み出す。


「あの動きにくい体勢から、その速さの踏み込み。不意打ちだけじゃないってことだね!」


 バーバリィはなおも笑う。笑っているがいいさ。今すぐその顔面を胴体から分断してやる。


「叩っ切る!!」

「食らうか!」


 私の短剣の一振りを、バーバリィの白い短剣が阻止する。同じスピードタイプだけあって、勢い任せの一撃は有効打になりにくい。


「ったくちょこまかと!」


 また透明になられても厄介なので追撃を行う。バーバリィはそれらを完璧にいなしていた。


「ああもう! 鬱陶しい!」


 バーバリィを蹴り飛ばして日の下に晒す。武器による攻撃ではない為に、ダメージは少ない。しかも距離を自分から離してしまった。

 ここは森の中にある開けた場所で、木の類が一切無い。視界は良好だ。これならばバーバリィが透明を解除する一瞬を狙えるはずだ。


「ごほっ……この」


 腹を蹴られて憎々し気な顔をするバーバリィを見て、好機と見て私は駆ける。森から出て、短剣を振り抜く。彼女の速さで短剣を使って防御は不可能。バーバリィは私の攻撃を体勢を低くして回避した。


「……?」


 何か違和感があった。透明になって回避をしなかった。

 彼女のスキル、インビジブルマンに何か私の知らない発動条件があるのだろうか。


「走ってる……森へ向かって」


 森にいるのが発動条件だとでもいうのだろうか。追いかけて切らないとまた透明になる。だとしても防御に徹する彼女を倒すのは少し骨だ。

 バーバリィに隙を作る為にも彼女の最も頼れる武器を折らなくてはいけない。


「見極めてやる。そのスキル」


 発動の瞬間が多分、彼女のスキルの発動条件だ。クールタイムが無いことは一度切られた時に理解した。クールタイム無しのユニークスキルにはそれなりの発動条件があるはずだ。


「逃がすか」

「追いかけてくる。切られる。さ、させるかよォ!!」


 バーバリィが地面の土をすくって投げつけてきた。狙いは正確で私の目を狙っていた。アバターなのでこういう形で目潰しされることはないだろうが、どんなデバフを食らうかは未知数だ。

 投げられた土を腕で払うと、目の前にバーバリィの姿は無かった。

 あるのは森の暗闇だけ。

 森の中にバーバリィの声が響く。どこにいるかは、分かっていた。


「言ったでしょ。私のスキルは無敵だって」


 確かに。見えないし触れないこれは無敵だ。逃げてもいいが、逃げたら逃げたでいつ透明の刺客が来るかに怯えることになる。ここで奴を倒さなくては。私に安息は訪れない。

 ああ、全く。初戦からハードすぎるっての。

 つい笑いが零れてしまった。


「ぷっ……ふふふふはははははは」

「な、何が面白いんだよ?!」

「いやだって、無敵だ無敵だってうるさくてさぁ。……いい? これはゲームだ。無敵のスキルなんて存在する訳が無い。いくらユニークだからってそんな例外は許されないよ」

「はっ……だったらやってみなよ。私を、このインビジブルマンを、看破できるものならやってみろ!!」

「いいの? やってしまっても」

「は?」


 右手が眩い光を放つ。魔剣ベイリンは既に私の手元にない。

 スキル【嘆きの一撃】の詠唱時間が終わったのだ。


「いいんだね。やれっていったのはそっちだからね」

「な………まさか、それは……?! やめろ、そんなことしたらどうなるか」

「問答無用!」


 右手をバーバリィがいる位置に向ける。こんなことをしても彼女にダメージを与えることはないだろう。だが、彼女を引きずり出すことはできる。仮定でしかないが、私の考えている答えはほぼ当たりだろう。


「全部、吹き飛ばす!!」


 強大な閃光を放つ衝撃波が手から放たれる瞬間に、私は腰を捻った。衝撃に体が崩れそうになるのを足で地面に縫い留めながら、右手から放たれる閃光を周囲一帯に放った。


「や、やめ……やめろぉぉぉ!!」


 バーバリィの叫びと、周辺の木や草が根こそぎ吹き飛ばされる轟音が響き渡った。


「本当に、バカな奴だよ。ノエル」

「そうだね。あんなことをしたら他のプレイヤーがやって来るのは分かってる。でも、そのおかげであなたを引きずり出すことが出来た。またこの日の下に」


 バーバリィのスキルが解ける。目の前にバーバリィが現れる。

 木の陰が消え去ったことで、彼女のスキルの発動条件が満たされなくなったのだ。


「蹴られた時に、もっと上手くやれていたらよかったのかもね」

「まあ……あそこで取り乱してくれなかったら、私があなたのスキルに気付くことは無かっただろうしね。ありがとうね本当……良かったよ。初戦があなたでさ」


 良くも悪くも彼女のおかげで私は勝ったのだ。彼女がもっと頭のいい人だったら多分負けていた。

 これはイベント戦。前みたいなPK狙いの戦闘とは違うのだ。本当に戦うつもりのプレイヤーが揃う場所。この戦いは洗礼みたいなものだ。


「余裕……だな。もう勝った気でいるのか……! お前はぁぁぁぁ!!」


 地面を蹴って、滑るように距離を詰めるバーバリィ。私に向かって振り下ろされる短剣を回避はしない。ただ先に首を切るだけだ。


「……これで終わりだよ」


 私の短剣が彼女の首にすっと入る。そのまま彼女の首の繊維を切り裂いていく。滑らかに私の短剣は滑るように彼女の首を胴から離していく。

 骨も肉も皮も全てを一太刀で断つ。宙へと舞った首はそのまま光となって消えていった。

 残ったのは首を失ったバーバリィの胴体だけだった。それも首と同じように消えていく。

 

「ふぅ」


 私はどさりとそのまま地面に膝を付いた。疲労が溜まっていたのだ。

 勝ちはしたが、マコトのギルドについて何も聞けなかった。いきなりすぎて頭の中が上手くまとまっていなかったのが理由だ。次あったプレイヤーからはちゃんと情報を得ないと。何の為にこのイベントに参加したのかが分からなくなる。


「とりあえず一人……撃破……かな」


 バーバリィの死体があったところには、トレジャーボックスがあった。彼女がドロップしたアイテムたちだ。普段はスルーすることも多いが、今回は容赦なくいただいて行く。


「ん。何だコレ」


 トレジャーボックスの中に見慣れぬ青く光る玉があった。詳細を見ても【詳細不明】としか書かれていない。私と会う前にバーバリィが拾っていたアイテムだろうが、効果が分からないのでは持っていても邪魔なだけか。


「んー。まあでも貰っておくか。こういうのが後々何かに使えるかもしれないし」


 入手したアイテムでHPとMPを回復し、私はすぐにその場を離れることにした。

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