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第43話 参加者達

 口に生クリームをつけながらひたすらに山盛りのパフェを消費しているリュドミラを放置して、私とエイルはイベント参加後の話題に移っていた。

 チームでのサバイバルだが、そのゲームがどういう風に行われるのかについてはよく分かっていない。

 お知らせはまだ深く読み込んでいない。エイルはもう読んでいたらしい。流石だ。


「実際どういう感じの動きになるの?」

「第一次イベントの個人サバイバルと同じ形式になるならですが……」


 エイルが説明したのは概ね、私が想定していたものと同じだった。

 簡単に言えばバトロワゲーみたいな感じ。

 広大なフィールドに各チームが指定の場所に転送されてゲーム開始。そこからアイテムなどを拾いながらフィールドを歩き回って、他チームと遭遇したら戦闘。時間経過で狭まっていくフィールドで、生き残りをかけて争い合う。というものだ。


「なるほど」

「今回はチームですから、チームリーダーがいます。リーダーが倒されたら、また違う人がリーダーになっていくって形みたいですね」

「リーダーにはどんな権限があるの?」

「リーダーにしか使用できないアイテムが最初に支給されるみたいですね。後、リーダースキルとかいうものもあるそうですよ」

「ふーん。最初にってことはそのアイテムは再支給されない訳だ」


 てことはリーダーが死ねば、そうしたアイテムも散らばって消えると。スキルがロストするなんて話はきっと無いだろうし、最初のリーダー選びは結構肝心かもしれない。

 順当にいけば、エイルだろう。又は遠距離戦専門のリュドミラもいいかもしれない。


「そういえばフィールド内でアイテムとかスキルとか拾ってって話だけど……私たちが今持ってるものはどうなるの?」

「私達プレイヤーがイベントに持ち込めるのは現在の装備と、5つまでのスキルだけです。アイテムはとレジャーとして各所に落ちていますし、スキルもスキル石という形でトレジャー扱いになってます」


 アイテムはともかくとして、スキルが5つだけというのは痛い。

 何を持ち込むかによっては、何も出来ずに死ぬ恐れもありそうだ。


「色々と慎重にやらないといけなさそうだね」

「はい。ですが死んでも元から持ってる装備とかを失う危険は無いので、そこは安心してください」

「それは良かった」


 魔剣ベイリンを失う可能性が無いのなら、ちょっとは危険を冒してもいいかもしれない。

 とか考えていると、エイルがこちらをじっと睨んでいた。


「ノエルさん。分かってますね」

「……はい」


 命は大事に、ということだろう。


「で、聞いていたマコトというプレイヤーのギルドですが……どこのギルドの人なんですか?」

「え……あ……あぁ……それは、だね……」


 ヤバい。知らない。聞いてもいない。

 戦闘中で興奮していたから、聞けなかったのか、いや違う私は元からそこまで気が回るタイプでは無い。しかし目的のギルドが分からないとなれば、エイル達を巻き込んだ者として申し訳が立たない。

 というかエイルの顔が怖いんですけど。女子ってあんな顔できたっけってくらい怖い顔をしているような。ほんのちょっぴりの殺意すら感じる。


「……ちょっと……忘れちゃったかな~……ははは」

「ノエルさん」

「冗談です。聞いてませんでした。マジで申し訳ないであります!!」


 焦りまくって語尾が変わってしまった。何だよありますって。私一度もそんなキャラになった覚えはないぞ。

 焦りまくった私に同情したのか、またはバカにしているのか、エイルは元のポーカーフェイスに近い表情に戻った。


「……まあいいですよ。それならそれで方針は固まりましたから」

「どういう方針?」

「それはもちろん。全員倒してクリアですよ。全てのプレイヤーを倒すつもりでいれば、どこかでそのマコトというプレイヤーのギルドのメンバーともかち合うでしょう。まさか全員が速攻で死ぬなんてこともないでしょう。話を聞く限りマコトはリュドミラさんでもない限り、瞬殺は難しそうですし」

「マコトの戦闘能力で本人が足手まといって言ってるくらいだしね。きっと全員が強いと思う」


 全員が何人なのかは分からないが。

 しかし、全員倒すか。

 言うのは簡単だがするのは難しい。それにそうなるとフェルも倒さなくてはならなくなる。彼女とはどちらにせよ戦いたいが、彼女だけを倒すことを狙うのと、彼女を含めて全員倒すのとでは、難易度が大幅に上がる。無理ゲーが、まぢ無理ゲーになった感じだ。

 そんな感じで、方針が固まる(?)と私達は解散した。エイルはリアルで用事があるらしく、そのままログアウトしたが、リュドミラはまだ食べていた。食べるの遅すぎないか。

 私はギルドホームに帰った。道中の森では、誰とも遭うことは無かった。勿論マコトとも。死んだのだからどこかの街やギルドホームでリスポーンしたのだろうが、ルミナリエの街には設定してないらしい。流石にあんな戦闘を行ったのだ。遠目に見れば、私でも気にする。


「あら、帰ったのねノエル。どうだった?」

「どうだったって、踏んだり蹴ったりだよ」


 妖艶な笑みでさっきと変わらぬ座り姿勢でこちらを見ているフェルを見て、私はまるでラスボスの様だなと思った。一人のプレイヤーが二つのギルドに所属するのは不可能だ。サブキャラでも確か出来ないはずだし。

 しかしマコトがここまで来たのはフェルの差し金であるかの様な気がしてならなかった。

 アイツと戦ったことで結果的に私はイベント参加を決めたのだからもしかしたら……何てこと考えても仕方ないか。

 それにもしそうだったとしても、何も変わらない。全員殺す。それだけだ。


「フェル。私、イベントに参加するよ」


 それだけを告げると、フェルは薄く笑った。彼女の感情を推測するのは難しい。でも何だか嬉しそうな雰囲気はあった。あった……かもしれない。よくよく考えてみればやっぱり何も分からない。


「そ。なら私は今日からしばらくここには来ないわ」

「へ」

「ノエルも分かってると思うけど、私はあなたとは別チームで参加する予定だから」

「それは分かってるよ。でもギルドは関係なくない?」

「誰の耳も無いところで、作戦会議が出来るのなんてここだけよ。私は別に当てがあるから気にしないでいいわ」

「ああ、そういうこと」


 そういう気遣いなら遠慮なく使わせてもらおう。それに元からこのギルドホームではギルマスの私の権限が強い。部外者を引き入れるのも私が設定できる。

 立ち上がって颯爽と部屋から出て行こうとしたフェルが去り際に私の方を見た。今までで一番楽しそうな顔をしていた。まるで良い獲物を見つけたかのような表情だ。獲物は間違いなく私だ。


「ノエル。いい勝負が出来るといいわね」

「……うん」


 それだけ言うと、部屋から出て行った。

 ただ部屋から出て行った。それだけの行動なのに、どことなく優雅さと危険な香りを放っていた。

 私もすぐにログアウトして、そのまま伊織に電話した。

 ワンコールですぐに伊織が出てきた。途端に耳がキーンとなった。

 伊織が凄い剣幕で私の名前を叫んだのだ。


「綾香!!!」

「……なんかデジャブが」

「そんなことより聞いてよ!!」

「分かった分かった。聞くから落ち着いて」

「ゲームが、noreがぶっ壊れたんだよー!」

「え……」


 それは全く予想だにしない話だった。

 noreとはエンジェルダストやそれ以外の様々なVRゲームやVRアプリに使うハードウェアで、ヘッドセットの形をしている。

 彼女はそれを壊れたと言ったのだ。

 ハード無しでソフトは動かない。


「いやさセットアップ終わったから、ゲームやるか! って思ったんだけどさ、ちょっと牛乳飲みたくなってコップに入れて持って来たんだよ部屋に。したら床に積んでた本に躓いちゃって」

「手から離れたコップがnoreに直撃したと。バカなの」

「マジ面目ない。すぐ知らせようと思ったんだけど、綾香ゲーム中みたいで。あ、で今日何かあったん」

「何か……はあったけど……伊織。noreはどうするの?」

「そりゃもち買うよ。お母さんからお金貰わないといけないから時間かかるけどね」

「それってどのくらい?」

「3日か……4日か……まあ最速で木曜日かなエンジェルダスト出来るの」


 なるほど。つまりイベントまでは木曜含めて三日しかないと。

 戦力になるのかという疑問をエイルは抱いていたが、私も同じ思いになってきた。


「伊織さ、ちょっと聞いてほしいんだけど」


 私は伊織に大体のあらましを説明した。イベントに参加すること、メンバー数的に伊織に参加してもらいたいことを。

 伊織は渋るかと思ったが、あっさりと引き受けてくれた。


「いいよ」

「ありがとう。でも三日しかゲーム出来ないんじゃ、イベントで戦うのは厳しいんじゃない」

「まあそれに関しちゃこっちの失態だからね。そこは上手くやるよ。足手まといにはならないってことだけは保障しようかな」

「……じゃあそういう訳で。ゲーム始めたら言って。二人とも顔合わせはさせておきたいから」

「おう!」


 威勢よく応えると伊織は電話を切った。

 私はパタンとベッドに寝転がった。電球の光が目を貫く。


「イベントまであと一週間……」


 一週間もあれば伊織ならばそれなりに戦えるようになるとは思っていたが、まさか三日しかないとは。

 前途多難というやつなのか。思い通りにならない人生だ。

 第四次Dust to Dustの開催は7月25日。


「夏休みか」


 今年の夏は少し刺激的かもしれない。

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