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第38話 安心の定義Part1

 安心とは一体なんなのだろうか。

 と私は常々思う。鍵のかかった部屋にいること……絶対に誰も来ない場所にいること……または誰かがたくさんいる場所にいること……。

 その全てに私は否と言いたい。真に安心なのは自分が絶対に害されないことだ。それにはさっきまで述べた三つも当てはまるが、当てはまらない。

 鍵のかかった部屋にいたって窓があれば侵入されてしまうし、ドアを壊されるかもしれない。絶対に誰も来ない場所なんてあったとしてもそれは自分も行けないだろう。誰かがいる、その中にヤバい奴もいるだろう。

 だから真に安心を求めるなら人は誰よりも危険に突撃せざるを得ないのかもしれない。周囲が敵だらけだと分かっていて、周囲に攻撃している限りは自分は安全なのだから。

 みたいなことを考えながら、私はぼけっと天井を眺めていた。

 っといけないいけない。ふと天井の木目の数を数えていたら何だかよく分からない思考に陥っていた。


「これがギルドホーム……」


 そう。先程のクエストでギルドハウス造設券を入手した私達はその足ですぐにギルドホームを建てに来たのだ。場所は街の外れ。となりの騎士団がある城の前の通りは、商業施設などで溢れかえっているので、そこら辺にギルドホームがたくさん固まっていた。

 それに引き換え私達が使っているこの外れの辺りは何もないどころか、街から来るまでに少し森を通る必要もある。森にはもちろんモンスターがいる。つまりここはモンスターが出る森も通り抜ける必要のある超危険地帯なのだ。まあ私とフェルマータには敵でもなんでもないのだけれど。

 まあそんな場所なせいか、近くに別のギルドのギルドホームがあるようには見えなかった。

 ちなみに外観はこれぞ正に洋館といった形のものだ。森を抜けた先の洋館とか危険な匂いしかしないが、暗殺者と綺麗すぎるドレスの女の家と思えば、まあいいのかもしれない。

 ちなみに私達が決めたこの土地は約300坪程度の広さがある。主にフェルマータがお金を出して建物を造っていったので、まあドデカい洋館になるのも驚きはなかったが、どう見ても二桁いや下手したら三桁レベルの人を収容できそうな場所に二人だけというのもおかしいような気がした。

 まあゲームだから、で済ませればいいのだけれども。


「気に入った? ノエル」

「気に入ったっていうか……圧倒されてる」


 さっきから開いた口が塞がらない。しかしフェルマータ……。これ建てるのに一体いくら注ぎ込んだのか。私のPKKで多分何千とやらないとこれを買うには至らないだろう。

 

「せっかくノエルとの家を買うんですもの。これくらいしなきゃね」

「私としては普通の一軒家くらいの想定だったんですがね」

「? これ普通じゃないの?」


 おっと、これは。フェルマータさん。リアルお嬢様と来た。しかも結構な箱入りと思われる。大豪邸を見て普通の家だと言うようなステレオタイプなお嬢様を見れるなんて、きっと数か月前の私は思わないだろう。


「変なノエルね」

「まあ……変だと言われることはあったかもしれないけど」


 言われていたのか、言われていると私が錯覚していたのか、考えるだけで嫌になるのでこの思考は放棄することにした。

 とりあえず私が今いるこのリビングルーム……と言っていいのか分からない部屋について説明することにした。

 長方形の縦5m、横2m程度のテーブルがあって、両脇に三つ、奥と手前に一つずつテーブルが置かれている。食事をするのに使えそうなテーブルだ。このゲーム内でスイーツ以外を積極的に食べる気はないけれど、まあいいのだろう。

 そこからちょっと移動したところにソファと小さなテーブルが置かれた区画。ソファは文字通り沈み込む程に柔らかく、油断すると寝落ちしてしまいそうだった。それから何故かテレビが置かれている。つけてみると動画投稿サイトに繋がった。動画も見れるらしい。なるほど。よく出来てる。


「フェルマータが任せて、ていうから任せてみたら……凄い部屋になっちゃった……」


 これでは却って落ち着かない。ここで寝て目覚めたら現実のあの部屋に戻っていたら、本当に異世界転生をしてきたようなつもりになれるだろう。

 それほどまでに異質で異様な場所だった。

 これが一階の言うなればリビング、談話室だ。私の家の一階部分よりすでに広いが、それも全体から見て区画と呼んでいいか疑問に思えるほど。数百部屋ある内の一つというのが正しいかもしれない。

 感嘆。驚愕。


「ノエルの部屋もちゃんとあるのよ」


 といってウキウキしているフェルマータに連れられて私は赤いカーペットが引かれた階段を昇る。二階に上がると両脇に通路があった。右手が東館、左手が西館らしい。フェルマータの部屋は西に、私の部屋は東にあるという。

 東館側の通路に入る。通路自体はそれなりの長さではあるものの、扉は奥に一つだけ。あれが私の部屋なのだろう。

 さて、どんな部屋なのか見せてもらおうじゃないか、と私はよく分からない専門職ぶって扉を開く。


「……」


 それは最早驚きという言葉で表していいのか疑わしいほどの感情だった。水面下で何とか耐えていた私の驚きメーターの許容量を超えて、私の顔から感情が抜け落ちた。

 それはイギリス王室系の物語とかで見るような部屋だった。天蓋付きのベッド、下で見た物よりも一段と柔らかそうなソファ。ドレスとか宝飾品以外入れたら不味そうなクローゼット。

 フェルマータは私の部屋というが、これを使いこなせる自信が私には無い。というか使ってもいいのかこれ。

 実はサンプルでしたとかって言われた方がまだ信用できるものだ。

 とか何とか言いつつ、私も剛毅なのか、愚者なのか、平然とベッドに飛び込んでいた。


「むー……これは中々に柔い。温かくて落ち着く。まるで子宮の中みたいだ」


 こんなことを言うと、私の意識は私が母の胎内に居た時から芽生えていたとか思われそうだが、もちろんそんな怖い話は無い。この物語はアンチシリアスなんだから。


「寝ちゃいそうだな。これ」


 一時間以上寝たら強制的に落とされる仕組みがある。前に外で寝た時は外だったので、一時間する前に起きられたが、さすがにこんなベッドで寝たら一時間では起きられない。きっと起きるだろうが、それはベッドの硬さが変わったことで目が覚めてしまうだけだ。


「流石に……寝るにしてもフェルマータとは話しておこうか」


 名残惜しいが起きることにする。このベッドを一時間しか堪能できないというのは結構な拷問だと思う。

 部屋を出て、西館に向かうか迷ってから、私は一階のリビングへと向かった。

 全く。ただ部屋を移動するだけでも、迷いそうだ。私は10分くらい一階を彷徨ってようやくリビングに着くことが出来た。

 


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