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第36話 ノエルさんのギルド

 ラピッドナイフを作った興奮が一日経っても残っていたのか、今日も今日とてゲーム内で暗殺稼業をやっていた。

 約1時間で20名ものプレイヤーを暗殺した私は、流石に疲れてきたのでヒルデから報酬を貰い、ルミナリエの街で休憩していた。


「ああ、暗殺楽しい……!」


 街中のベンチでこんな物騒なことを言えるのもゲーム内ならではだろう。私が狙うのは大抵、誰かを不当にPKした奴とか、粘着質なPKなので、そこまで周囲からヘイトを買っている訳ではない。これもとなりの騎士団のおかげだ。


「本当。ヒルデには感謝しないとな」


 彼女からの申し出が無ければ最悪、私はゲームをやめていただろう。最近の私はこのゲームを普通に楽しんでいるのでそれは嫌だった。かといってここまで鍛えたノエルを捨てるのも何か違うと思っていた。

 考えてみれば最初はソロで戦うための暗殺スタイルだったが、いざとなれば頼れる人も出来た今も暗殺を行うのは何故なのだろうか。


「……構成を考え直すのもアリか……」


 私がうーん、と唸っていると背後から脳を溶かす様な甘い声が聞こえた。


「何を悩んでいるの?」


 わざわざ振り返る必要も無い。


「フェルマータ」

「やっほー。ノエル」


 クスクスと笑いながらフェルマータは私の隣に座った。というかやっほーって割と彼女の柄じゃない気も……いや意外とアリかもしれない。

 相も変わらず完成された美しさのアバターだ。身に纏う赤いドレスが彼女の肌の白さを際立たせている。彼女のアバターを見ると、ノエルの何とも言えぬ地味さ加減を思い知らされる。まあノエルの見た目ってほぼリアルの私に近いんだけども。


「悩んでたのは構成のことだよ。私って暗殺スタイルは一人で戦うためだったんだけど、最近は友達も増えたしもういいのかなって思ってさ」

「ノエル……フレンド増えたの……?」


 と赤裸々に悩みを語った私に、よく分からないところでフェルマータはツッコミを入れて来た。


「私にフレンドが増えることがそんなにおかしいことだったのか……」

「騙されてるんじゃないの?」

「やめて! これ以上、私をかわいそうな子にしないで!」


 流石にエイルとリュドミラが私を騙しているとは思いたくはな……あれ? 考えれば考えるほどに自信が無くなってきたぞ?


「冗談よ。でも、なんか嫌な気分」

「嫌って……」


 別に私はフェルマータのものでもないだろうに。とは思ったが言わないことにした。何かかなりうぬぼれている台詞に思えたからだ。


「で、構成だっけ? ノエルは今のままでもいいと思うわよ」

「そうなの?! いいの?!」

「そりゃあ、今のあなたは強いんだから。それに他の戦闘スタイルはあなたには無理よ」

「ですよね」


 協力したりとかするの苦手ですし。

 

「何であれ、強いんだから。今のまま精進しなさい。それでいつか私と本気で殺し合いましょう」

「うん」

「約束だからね!」


 不思議と私の心は晴れていた。この暗殺スタイルを貫いてもいいんだと、言われたからかもしれない。

 それから私とフェルマータは他愛のない話やよく分からない話をしながら、時間が過ぎていくのを感じていた。誰かと話して楽しいと思えるのはかなり珍しい。ひたすら引っ張ってくれる伊織とはまた違う感じだった。


「ねえノエル、やっぱりギルドを作らない?」

「ギルドか……まあフェルマータがトップなら別に」

「何言ってるのよ。ノエルがマスターに決まってるじゃない」

「決まってるんだ」


 既に役職を決められていたとは。しかしギルドか。名前つけるならどうしようか。やはりノエルだしクリスマス系の名前にしようか……って何を前向きに考えてるんだ。


「でも、私リーダーなんて出来ないよ」

「それは大丈夫よ。だって私とあなただけのギルドなんだから」

「……二人だけでギルド……それ作る必要あるの?」

「あるに決まってるわ。だってそうしたらギルドホームは私達の家になるのよ」

「……?」


 まあそうだろう。だが、それに何の意味が……? という疑問を挟める状況でもなかった。熱っぽい視線でフェルマータがこちらを見ているからだ。何だろう。かなり怖い。


「ま、まあそうだよね。作る必要あるよね」


 ほぼ言わされるように私は口を動かしていた。

 なぜ作るのかは見当もつかないが。私の言葉にフェルマータはぱあと顔を輝かせた。


「決まりね! そしたら早速作りに行きましょう」


 フェルマータは私の腕を掴むと、ベンチから立ち上がって、一気に走り出した。ほぼ引っ張られるように私も走る。


「ちょ、まだ作るとは言ってな……」

「うるさい、うるさい! 意志薄弱なノエルの言うことなんて聞いてあげないんだから!」

「んな理不尽な」


 そして私達はルミナリエの街の隣の騎士団のギルドホームが道の奥に見える通りで、新しくギルドを作る申請を行った。私もそれなりのプレイヤーであるためか、ギルドを作る条件というのはいつの間にか満たしていた様だ。全く気にかけたことも無かったけど。

 受付のNPCが軽くギルドについて説明してくれたのを聞き流す。そして私の目の前に文字盤のあるウインドウが表れた。ギルド名を入力しろということらしい。


「名前か……適当でいいかな」

「私はノエルの付けた名前なら何でもいいわ」


 本心を言えば、いくつか名前の候補は上がっているのだが、自分でそれを入力するのも気恥ずかしい。

 確定ボタンも光っているし、適当にそれらしい名前を付けてくれるのだろうか。 


「ギルド名は、後で変えられないからね」

「え?」

「え?」


 フェルマータが言った時にはもう既に遅し。

 特に何も入力せずに確定ボタンを押すと、なんとギルド名が【ノエルさんのギルド】になってしまった。


「な……」


 何だこの自己顕示欲に塗れた名前はぁぁぁ!!

 こんな名前になるのなら、最初から確定ボタンを光らせるなよと思った。

 ギルド結成時に出る演出で、仰々しいフォントで【ノエルさんのギルド】と表示されているのを見ると、体温が上昇する。


「ぷ……くく……」


 フェルマータはフェルマータで爆笑を堪えるのに必死なようだ。私はこの赤くなる顔をどうにかしたい。


「このギルドは解散させよう。それで後から作り直そう」

「あははははははは!」


 どうやらフェルマータの笑いのダムが決壊したようだ。爆笑されるごとにどんどん恥ずかしくなってくる。


「ああもう! あまり笑わないでよ。フェルマータもこうなるなら言ってくれなきゃ」

「知らなかったのよ。ギルド名を入力しないで確定したらどうなるかなんて。情報屋に売れるネタが増えたじゃない」

「いやそういう問題じゃない」

「やっぱりあなた最高ね」

「……!!」


 そして受付NPCが丁寧に教えてくれたギルドのシステムが全く頭に入らないまま、私のギルド作成は終了した。してしまった。

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